66 / 92
66
しおりを挟む
城に入ろうと、エンジたちは列に並んでいる。ここで誰が入場したか確認するらしい。呼ばれていない者を城に入れないようにという配慮だ。
「エンジ兄ちゃん、聞こえる?ロニだよ」
思念伝播の魔法はこんな時に便利である。ロニはすっかりこの魔法をマスターしていた。エンジは、さっと視線を巡らせた。ロニとパペはそばの草の茂みに隠れているようだ。
「私たちは裏から入ります。少しそこで騒ぎを起こしてもらえませんか?」
簡単に言ってくれる、とエンジはため息を吐いた。だが、忍び込む理由が理由だ。協力しないわけにはいかない。
「分かった。やるだけやってみる」
「お願いします」
エンジは、シオウを小さな声で呼んだ。同意を得て頷く。茶番開始だ。照れは捨てる。それに茶番はなるべく大きな声でやるに限る。
「あ!あれは有名なゴーレ厶!!写真に撮りたいからカメラを貸してくれ!シオウ!」
「え、嫌ですよ!ゴーレムなら今日一日でいっぱい見たでしょう?」
「いや!あれほど立派なゴーレムは見たことがないから!」
「ちょっとエンジ!こんなとこで騒ぎを起こさないでよ!!」
レントも察して茶番に乗っかってきてくれた。なんだなんだ、と周りがざわめき始める。兵士たちがその騒ぎを聞きつけて集まってくる。エンジはパペたちに頷いた。
「行け」
「ありがとう!!」
「恩に着ます!」
パペとロニは上手く忍び込んだようだ。エンジはそれにホッとして、兵士たちに謝ったのだった。
✢✢✢
月明かりが入ってくる廊下をパペとロニは歩いている。城の綺羅びやかな装飾にロニはしきりにすごいなぁと呟いていた。
「ね、パペ。姫様の部屋って、確かこっちだよね?」
「はい。ロニ!」
二人は飾ってある壺の裏に隠れた。誰かが向こうからやって来る。
「あーあー、パーティーなのに俺たちは酒一滴飲めねえんだからよー」
「まぁいいじゃねえか、綺麗な姫様に握手してもらったんだし」
「いいよなあ、皇子様は」
ロニとパペはそっと頷き合った。
兵士たちの背後に忍び寄り彼らの気を失わせた。
「ソータがセクハラされちゃう」
「もう遅いかもしれないですがね」
二人は兵士の鎧を着た。槍も忘れずに掴む。
「キメルが知ったら怖いぞ」
「キメル様は既に知ってるでしょうが、急ぎましょう」
二人は大広間に向かって走り出した。階段を下り、広間の扉の前にいた見張りの兵士たちに敬礼する。
「お、もう交代か、ご苦労」
ロニとパペは彼らが行ったのを確認して、大広間の中に足を踏み入れた。中では楽団が優雅な曲を奏でている。着飾った人々は各々楽しんでいた。
その中でも一番目を引く人物が真ん中にいる。
ソータだ。体つきこそ華奢だが、彼女の美しさは群を抜いている。そばにはキメルが優雅に立っていた。それがまた人を魅了している。
「お、ガキ共やっと来たか」
キメルが気が付いてくれて、二人はホッとした。
「よく俺達だって分かったね」
「お前らはまだ乳臭いからな」
「キメル、失礼なこと言わないで」
ソータも気が付いたらしい。二人に向かって歩いてくる。キメルもまた静かに付いてきた。
「ダミアン様、本日はありがとうございました。
ダンスのリード、感謝なのです」
「リーナ姫は?」
「もちろん取り返します。どうか、お待ちになっていてください」
ソータたちは煙のように消えていた。
✢✢✢
「エンジ、こっちなの?」
「あぁ。パペがさっき送ってくれた城の地図を見たからな」
「ソーちゃん大丈夫かなぁ?」
「ソータさんならきっと大丈夫」
エンジたちは大広間をスルーして、リーナ姫の部屋を目指している。彼女は城の離れに暮らしているらしい。
途中、壁にもたれかかるように兵士二人が寝ていたがそれもスルーした。
「来た来た!」
すでに鎧を脱いだロニとパペ、着飾ったソータ、キメルがいる。エンジたちは彼らに駆け寄った。
「ソーちゃん、めっちゃ可愛い!やっぱりドレス似合うんじゃん!」
レントの言葉にソータは困ってはにかんだ。
「ここがリーナ姫の部屋か」
エンジが扉を開けると大きな鏡が置いてある。
「鏡には不思議な力が宿りやすいとか」
パペがふと言う。一行は鏡を見た。ここから異次元に向かうとして、無事に帰ってこられる保証はない。
「パペ、道を開けるのか?」
「はい。既に準備完了しています」
「ソータ」
エンジが呼び掛けるとソータは頷いた。
「行きましょう、異次元へ。リーナ姫様を助けなければ」
皆が頷く。パペが詠唱を始めた。みるみるうちに鏡が怪しく光り出す。気が付くと鏡の中へ吸い込まれていた。
✢✢✢
ソータが目を覚ますと真っ暗な場所にいた。ドレスでずっと過ごすのは無理だと判断し、魔法で普段のローブに着替えた。
「ここは…」
目を凝らすと向こうに光が見える。ソータはそれに駆け寄った。どうやら外壁に穴が空いているらしい。眼下に見える景色にソータは驚いた。自分が高い塔の中にいることに気が付いたからだ。塔の周りには森が広がっている。
「フォッシルの塔ですね」
後ろからパペがやってくる。ソータはそれにポカン、としてしまった。フォッシルの塔は今から15年ほど前に倒壊したと聞いていたからだ。
つまりここは。
「過去の世界なの?」
「そうゆうことになります」
パペは至って冷静だった。他の者も目を覚まし、事情を話すと驚いていた。
「とにかく、リーナ姫を探さなくてはいけません。塔から出ましょう」
この異次元世界がどんなものであるか分からない以上、油断は出来ない。
ソータたちは向かう。下へ。
「エンジ兄ちゃん、聞こえる?ロニだよ」
思念伝播の魔法はこんな時に便利である。ロニはすっかりこの魔法をマスターしていた。エンジは、さっと視線を巡らせた。ロニとパペはそばの草の茂みに隠れているようだ。
「私たちは裏から入ります。少しそこで騒ぎを起こしてもらえませんか?」
簡単に言ってくれる、とエンジはため息を吐いた。だが、忍び込む理由が理由だ。協力しないわけにはいかない。
「分かった。やるだけやってみる」
「お願いします」
エンジは、シオウを小さな声で呼んだ。同意を得て頷く。茶番開始だ。照れは捨てる。それに茶番はなるべく大きな声でやるに限る。
「あ!あれは有名なゴーレ厶!!写真に撮りたいからカメラを貸してくれ!シオウ!」
「え、嫌ですよ!ゴーレムなら今日一日でいっぱい見たでしょう?」
「いや!あれほど立派なゴーレムは見たことがないから!」
「ちょっとエンジ!こんなとこで騒ぎを起こさないでよ!!」
レントも察して茶番に乗っかってきてくれた。なんだなんだ、と周りがざわめき始める。兵士たちがその騒ぎを聞きつけて集まってくる。エンジはパペたちに頷いた。
「行け」
「ありがとう!!」
「恩に着ます!」
パペとロニは上手く忍び込んだようだ。エンジはそれにホッとして、兵士たちに謝ったのだった。
✢✢✢
月明かりが入ってくる廊下をパペとロニは歩いている。城の綺羅びやかな装飾にロニはしきりにすごいなぁと呟いていた。
「ね、パペ。姫様の部屋って、確かこっちだよね?」
「はい。ロニ!」
二人は飾ってある壺の裏に隠れた。誰かが向こうからやって来る。
「あーあー、パーティーなのに俺たちは酒一滴飲めねえんだからよー」
「まぁいいじゃねえか、綺麗な姫様に握手してもらったんだし」
「いいよなあ、皇子様は」
ロニとパペはそっと頷き合った。
兵士たちの背後に忍び寄り彼らの気を失わせた。
「ソータがセクハラされちゃう」
「もう遅いかもしれないですがね」
二人は兵士の鎧を着た。槍も忘れずに掴む。
「キメルが知ったら怖いぞ」
「キメル様は既に知ってるでしょうが、急ぎましょう」
二人は大広間に向かって走り出した。階段を下り、広間の扉の前にいた見張りの兵士たちに敬礼する。
「お、もう交代か、ご苦労」
ロニとパペは彼らが行ったのを確認して、大広間の中に足を踏み入れた。中では楽団が優雅な曲を奏でている。着飾った人々は各々楽しんでいた。
その中でも一番目を引く人物が真ん中にいる。
ソータだ。体つきこそ華奢だが、彼女の美しさは群を抜いている。そばにはキメルが優雅に立っていた。それがまた人を魅了している。
「お、ガキ共やっと来たか」
キメルが気が付いてくれて、二人はホッとした。
「よく俺達だって分かったね」
「お前らはまだ乳臭いからな」
「キメル、失礼なこと言わないで」
ソータも気が付いたらしい。二人に向かって歩いてくる。キメルもまた静かに付いてきた。
「ダミアン様、本日はありがとうございました。
ダンスのリード、感謝なのです」
「リーナ姫は?」
「もちろん取り返します。どうか、お待ちになっていてください」
ソータたちは煙のように消えていた。
✢✢✢
「エンジ、こっちなの?」
「あぁ。パペがさっき送ってくれた城の地図を見たからな」
「ソーちゃん大丈夫かなぁ?」
「ソータさんならきっと大丈夫」
エンジたちは大広間をスルーして、リーナ姫の部屋を目指している。彼女は城の離れに暮らしているらしい。
途中、壁にもたれかかるように兵士二人が寝ていたがそれもスルーした。
「来た来た!」
すでに鎧を脱いだロニとパペ、着飾ったソータ、キメルがいる。エンジたちは彼らに駆け寄った。
「ソーちゃん、めっちゃ可愛い!やっぱりドレス似合うんじゃん!」
レントの言葉にソータは困ってはにかんだ。
「ここがリーナ姫の部屋か」
エンジが扉を開けると大きな鏡が置いてある。
「鏡には不思議な力が宿りやすいとか」
パペがふと言う。一行は鏡を見た。ここから異次元に向かうとして、無事に帰ってこられる保証はない。
「パペ、道を開けるのか?」
「はい。既に準備完了しています」
「ソータ」
エンジが呼び掛けるとソータは頷いた。
「行きましょう、異次元へ。リーナ姫様を助けなければ」
皆が頷く。パペが詠唱を始めた。みるみるうちに鏡が怪しく光り出す。気が付くと鏡の中へ吸い込まれていた。
✢✢✢
ソータが目を覚ますと真っ暗な場所にいた。ドレスでずっと過ごすのは無理だと判断し、魔法で普段のローブに着替えた。
「ここは…」
目を凝らすと向こうに光が見える。ソータはそれに駆け寄った。どうやら外壁に穴が空いているらしい。眼下に見える景色にソータは驚いた。自分が高い塔の中にいることに気が付いたからだ。塔の周りには森が広がっている。
「フォッシルの塔ですね」
後ろからパペがやってくる。ソータはそれにポカン、としてしまった。フォッシルの塔は今から15年ほど前に倒壊したと聞いていたからだ。
つまりここは。
「過去の世界なの?」
「そうゆうことになります」
パペは至って冷静だった。他の者も目を覚まし、事情を話すと驚いていた。
「とにかく、リーナ姫を探さなくてはいけません。塔から出ましょう」
この異次元世界がどんなものであるか分からない以上、油断は出来ない。
ソータたちは向かう。下へ。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?~
イトカワジンカイ
恋愛
(あれって…もしや断罪イベントだった?)
グランディアス王国の貴族令嬢で王子の婚約者だったアドリアーヌは、国外追放になり敵国に送られる馬車の中で不意に前世の記憶を思い出した。
「あー、小説とかでよく似たパターンがあったような」
そう、これは前世でプレイした乙女ゲームの世界。だが、元社畜だった社畜パワーを活かしアドリアーヌは逆にこの世界を満喫することを決意する。
(これで憧れのスローライフが楽しめる。ターシャ・デューダのような自給自足ののんびり生活をするぞ!)
と公爵令嬢という貴族社会から離れた”平穏な暮らし”を夢見ながら敵国での生活をはじめるのだが、そこはアドリアーヌが断罪されたゲームの続編の世界だった。
続編の世界でも断罪されることを思い出したアドリアーヌだったが、悲しいかな攻略対象たちと必然のように関わることになってしまう。
さぁ…アドリアーヌは2度目の断罪イベントを受けることなく、平穏な暮らしを取り戻すことができるのか!?
「あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?」
※ファンタジーなので細かいご都合設定は多めに見てください(´・ω・`)
※小説家になろう、ノベルバにも掲載
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる