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城に入ろうと、エンジたちは列に並んでいる。ここで誰が入場したか確認するらしい。呼ばれていない者を城に入れないようにという配慮だ。

「エンジ兄ちゃん、聞こえる?ロニだよ」

思念伝播の魔法はこんな時に便利である。ロニはすっかりこの魔法をマスターしていた。エンジは、さっと視線を巡らせた。ロニとパペはそばの草の茂みに隠れているようだ。

「私たちは裏から入ります。少しそこで騒ぎを起こしてもらえませんか?」

簡単に言ってくれる、とエンジはため息を吐いた。だが、忍び込む理由が理由だ。協力しないわけにはいかない。

「分かった。やるだけやってみる」

「お願いします」

エンジは、シオウを小さな声で呼んだ。同意を得て頷く。茶番開始だ。照れは捨てる。それに茶番はなるべく大きな声でやるに限る。

「あ!あれは有名なゴーレ厶!!写真に撮りたいからカメラを貸してくれ!シオウ!」

「え、嫌ですよ!ゴーレムなら今日一日でいっぱい見たでしょう?」

「いや!あれほど立派なゴーレムは見たことがないから!」

「ちょっとエンジ!こんなとこで騒ぎを起こさないでよ!!」

レントも察して茶番に乗っかってきてくれた。なんだなんだ、と周りがざわめき始める。兵士たちがその騒ぎを聞きつけて集まってくる。エンジはパペたちに頷いた。

「行け」

「ありがとう!!」

「恩に着ます!」

パペとロニは上手く忍び込んだようだ。エンジはそれにホッとして、兵士たちに謝ったのだった。

✢✢✢

月明かりが入ってくる廊下をパペとロニは歩いている。城の綺羅びやかな装飾にロニはしきりにすごいなぁと呟いていた。

「ね、パペ。姫様の部屋って、確かこっちだよね?」

「はい。ロニ!」

二人は飾ってある壺の裏に隠れた。誰かが向こうからやって来る。

「あーあー、パーティーなのに俺たちは酒一滴飲めねえんだからよー」

「まぁいいじゃねえか、綺麗な姫様に握手してもらったんだし」

「いいよなあ、皇子様は」

ロニとパペはそっと頷き合った。
兵士たちの背後に忍び寄り彼らの気を失わせた。

「ソータがセクハラされちゃう」

「もう遅いかもしれないですがね」

二人は兵士の鎧を着た。槍も忘れずに掴む。

「キメルが知ったら怖いぞ」

「キメル様は既に知ってるでしょうが、急ぎましょう」

二人は大広間に向かって走り出した。階段を下り、広間の扉の前にいた見張りの兵士たちに敬礼する。

「お、もう交代か、ご苦労」

ロニとパペは彼らが行ったのを確認して、大広間の中に足を踏み入れた。中では楽団が優雅な曲を奏でている。着飾った人々は各々楽しんでいた。
その中でも一番目を引く人物が真ん中にいる。
ソータだ。体つきこそ華奢だが、彼女の美しさは群を抜いている。そばにはキメルが優雅に立っていた。それがまた人を魅了している。

「お、ガキ共やっと来たか」

キメルが気が付いてくれて、二人はホッとした。

「よく俺達だって分かったね」

「お前らはまだ乳臭いからな」

「キメル、失礼なこと言わないで」

ソータも気が付いたらしい。二人に向かって歩いてくる。キメルもまた静かに付いてきた。

「ダミアン様、本日はありがとうございました。
ダンスのリード、感謝なのです」

「リーナ姫は?」

「もちろん取り返します。どうか、お待ちになっていてください」

ソータたちは煙のように消えていた。

✢✢✢

「エンジ、こっちなの?」

「あぁ。パペがさっき送ってくれた城の地図を見たからな」

「ソーちゃん大丈夫かなぁ?」

「ソータさんならきっと大丈夫」

エンジたちは大広間をスルーして、リーナ姫の部屋を目指している。彼女は城の離れに暮らしているらしい。
途中、壁にもたれかかるように兵士二人が寝ていたがそれもスルーした。

「来た来た!」

すでに鎧を脱いだロニとパペ、着飾ったソータ、キメルがいる。エンジたちは彼らに駆け寄った。

「ソーちゃん、めっちゃ可愛い!やっぱりドレス似合うんじゃん!」

レントの言葉にソータは困ってはにかんだ。

「ここがリーナ姫の部屋か」

エンジが扉を開けると大きな鏡が置いてある。

「鏡には不思議な力が宿りやすいとか」

パペがふと言う。一行は鏡を見た。ここから異次元に向かうとして、無事に帰ってこられる保証はない。

「パペ、道を開けるのか?」

「はい。既に準備完了しています」

「ソータ」

エンジが呼び掛けるとソータは頷いた。

「行きましょう、異次元へ。リーナ姫様を助けなければ」

皆が頷く。パペが詠唱を始めた。みるみるうちに鏡が怪しく光り出す。気が付くと鏡の中へ吸い込まれていた。

✢✢✢

ソータが目を覚ますと真っ暗な場所にいた。ドレスでずっと過ごすのは無理だと判断し、魔法で普段のローブに着替えた。

「ここは…」

目を凝らすと向こうに光が見える。ソータはそれに駆け寄った。どうやら外壁に穴が空いているらしい。眼下に見える景色にソータは驚いた。自分が高い塔の中にいることに気が付いたからだ。塔の周りには森が広がっている。

「フォッシルの塔ですね」

後ろからパペがやってくる。ソータはそれにポカン、としてしまった。フォッシルの塔は今から15年ほど前に倒壊したと聞いていたからだ。
つまりここは。

「過去の世界なの?」

「そうゆうことになります」

パペは至って冷静だった。他の者も目を覚まし、事情を話すと驚いていた。

「とにかく、リーナ姫を探さなくてはいけません。塔から出ましょう」

この異次元世界がどんなものであるか分からない以上、油断は出来ない。
ソータたちは向かう。下へ。
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