62 / 92
62
しおりを挟む
「そうか、ソータたちは、西北のタイタンの件に関わっていたんだな」
「はい」
「あれ、後から報道すごかったしな」
「そう…ですよね」
出てきた温かいおしぼりで手を拭きながらエンジが言う。ソータも物珍しくて丸まっているおしぼりをじっと見つめた。とにかくホカホカである。透明の袋から取り出し、手を拭くととても気持ちよかった。強者はこのおしぼりで顔を拭き、更に耳の後ろも拭くらしい。だがそれは、ある程度年のいった男性にしか許されていない特権だとエンジに言われた。
確かにこのホカホカなおしぼりで顔を拭いたら気持ちいいだろう。
この店は主に定食を出してくれるらしい。ソータは鍋焼きうどんをエンジに勧められて頼んでいた。うどんという食べ物をソータは初めて見る。
「ソーちゃんは自分のえーと、なんて言ったっけ?ねえ、エンジ?」
「出自か?」
「あぁ、そうそう。そのシュツジについて知ってんの?」
レントの質問に、ソータは困ってしまった。自分の生まれた国どころか、親すらも知らないのだ。
「わ、分かりません。気が付いたらアオナの聖域にいたし」
「キメルはなんか知ってんの?」
「…ソータは知りたいか?」
キメルの言葉にソータは怯んでしまった。知りたいかと言われればもちろん知りたい。だが、それで自分の中のなにかが変わってしまうような気がした。
「わ、私は…」
「今はいいじゃないか。ソータだって色々心の準備が必要だよ」
「そうだよね、ごめん。ソーちゃん」
エンジが優しく言ってくれて、レントがそれに同意する。彼らを選んだ自分の目は確かだった。
「お待たせいたしました。鍋焼きうどんのお客様!」
「はい」
「熱いのでお気を付けて召し上がってくださいね!」
店員がハキハキ言ってテーブルから離れる。ソータは目の前にやってきた鍋焼きうどんを見つめた。今でもグツグツいっている。
「ほ、本当に熱そうなのです」
「ソータ、取り皿あるぞ」
エンジが皿を渡してくれる。この人はどこまでも優しい。
「ねえねえ、皇子様の結婚式って俺たちは見られないの?」
「ロニさん、だったよね。結婚式は見られないかもしれないけれど、成婚のパレードならみられるんじゃないかな」
「パレード?!やっぱ皇子様ってすごいんだ」
「私も興味深いです。しかも花嫁様がソータナレア様によく似ているとなれば、血縁の可能性がありますしね」
「ソータの家族かもしれない…ってことだもんな」
皆が一生懸命うどんを冷ましているソータを見つめた。
「とりあえず飯だ。いただきます」
「いただきます!」
食べながらエンジはアオナの今の様子を話してくれた。今エンジたちは研修中で、政治制度の変更を国民になるべく分かりやすく通知したり、国民が今すごく困っていることを聞いて、できる範囲で、手伝いに行ったりしているらしい。若者が来てくれて嬉しいという声を直に聞けてやりがいがあると彼は言った。それを聞いて、ソータもホッとする。一方的にアオナのリーダーにと彼らを選んでしまったのが気掛かりだったのもあった。
「あ、そうそう」
レントがニヤニヤしながら言う。なんだろう、とソータは首を傾げた。
「中央都市のお姫様がアオナに来たよ」
「おい、レント!」
そう言えば中央都市はアオナと同じ王政だったとソータもはたと気が付いた。中央都市がようやく国として回復してきたのは知っていたが、王族の存在をすっかり忘れていたソータである。
「エンジ様、詳しく教えていただいても?」
ソータが尋ねると、エンジは頷いた。
「まぁあいつのことだ。すぐ広まるだろうから話すよ。中央都市の王政や資金繰りがガバガバだったのは国王が姫である娘を溺愛していたからなんだ」
はー、とエンジがため息を吐く。ソータはそれにぽかん、としてしまった。
「え?娘様のわがままを聞いていたという解釈で合っていますか?」
パペの言葉にエンジが頷く。
「どうも何人も国外にボーイフレンドが居たらしくて、そいつらに国の金を使っていたらしい。そりゃあ際限なくばらまけば金策だって厳しくなるさ」
「それ、横領と同じじゃないですか!」
「言ってしまえばそうなるよ。今は中央都市のそういう公的機関はどうなってるんだ?」
「はい。シヴァ様が間接的に入って指示されています」
エンジはいよいよ頭を抱えた。
「神様にやらせる仕事か?ソレ?」
「シヴァ様は楽しそうですが」
「奇跡って連続して起きるんだね」
シオウが目を輝かせる。
「とにかく、中央都市の王政は絶対にやめさせるべきだ。これから国が安定してきたとしても」
「シヴァ様によく伝えておきますね」
「で、エンジが中央都市から逃げてきたのはなんで?」
う…とエンジが固まる。だが彼はもう話してしまうことにしたらしい。拳をテーブルに置いた。
「姫君に気に入られて、魔力で拉致られそうになった」
「は?拉致?!」
「そう。だから寝起きとか寝る前とかの魔力を上手く使えなさそうな時間を狙って、仕事の報告に行っていたんだ」
「ねえ、待って。中央都市の姫君って行き遅れてるって言われてない?」
レントが青ざめている。
「本人はまだ自分が可愛いと思っているぞ」
「あ、無理」
これからエンジたちは明日行われる式の前にカリアシュヤを視察するらしい。式の後に成婚パレードは行われるようだ。
また明日会おう、そう約束してソータたちはエンジたちと別れた。
「はい」
「あれ、後から報道すごかったしな」
「そう…ですよね」
出てきた温かいおしぼりで手を拭きながらエンジが言う。ソータも物珍しくて丸まっているおしぼりをじっと見つめた。とにかくホカホカである。透明の袋から取り出し、手を拭くととても気持ちよかった。強者はこのおしぼりで顔を拭き、更に耳の後ろも拭くらしい。だがそれは、ある程度年のいった男性にしか許されていない特権だとエンジに言われた。
確かにこのホカホカなおしぼりで顔を拭いたら気持ちいいだろう。
この店は主に定食を出してくれるらしい。ソータは鍋焼きうどんをエンジに勧められて頼んでいた。うどんという食べ物をソータは初めて見る。
「ソーちゃんは自分のえーと、なんて言ったっけ?ねえ、エンジ?」
「出自か?」
「あぁ、そうそう。そのシュツジについて知ってんの?」
レントの質問に、ソータは困ってしまった。自分の生まれた国どころか、親すらも知らないのだ。
「わ、分かりません。気が付いたらアオナの聖域にいたし」
「キメルはなんか知ってんの?」
「…ソータは知りたいか?」
キメルの言葉にソータは怯んでしまった。知りたいかと言われればもちろん知りたい。だが、それで自分の中のなにかが変わってしまうような気がした。
「わ、私は…」
「今はいいじゃないか。ソータだって色々心の準備が必要だよ」
「そうだよね、ごめん。ソーちゃん」
エンジが優しく言ってくれて、レントがそれに同意する。彼らを選んだ自分の目は確かだった。
「お待たせいたしました。鍋焼きうどんのお客様!」
「はい」
「熱いのでお気を付けて召し上がってくださいね!」
店員がハキハキ言ってテーブルから離れる。ソータは目の前にやってきた鍋焼きうどんを見つめた。今でもグツグツいっている。
「ほ、本当に熱そうなのです」
「ソータ、取り皿あるぞ」
エンジが皿を渡してくれる。この人はどこまでも優しい。
「ねえねえ、皇子様の結婚式って俺たちは見られないの?」
「ロニさん、だったよね。結婚式は見られないかもしれないけれど、成婚のパレードならみられるんじゃないかな」
「パレード?!やっぱ皇子様ってすごいんだ」
「私も興味深いです。しかも花嫁様がソータナレア様によく似ているとなれば、血縁の可能性がありますしね」
「ソータの家族かもしれない…ってことだもんな」
皆が一生懸命うどんを冷ましているソータを見つめた。
「とりあえず飯だ。いただきます」
「いただきます!」
食べながらエンジはアオナの今の様子を話してくれた。今エンジたちは研修中で、政治制度の変更を国民になるべく分かりやすく通知したり、国民が今すごく困っていることを聞いて、できる範囲で、手伝いに行ったりしているらしい。若者が来てくれて嬉しいという声を直に聞けてやりがいがあると彼は言った。それを聞いて、ソータもホッとする。一方的にアオナのリーダーにと彼らを選んでしまったのが気掛かりだったのもあった。
「あ、そうそう」
レントがニヤニヤしながら言う。なんだろう、とソータは首を傾げた。
「中央都市のお姫様がアオナに来たよ」
「おい、レント!」
そう言えば中央都市はアオナと同じ王政だったとソータもはたと気が付いた。中央都市がようやく国として回復してきたのは知っていたが、王族の存在をすっかり忘れていたソータである。
「エンジ様、詳しく教えていただいても?」
ソータが尋ねると、エンジは頷いた。
「まぁあいつのことだ。すぐ広まるだろうから話すよ。中央都市の王政や資金繰りがガバガバだったのは国王が姫である娘を溺愛していたからなんだ」
はー、とエンジがため息を吐く。ソータはそれにぽかん、としてしまった。
「え?娘様のわがままを聞いていたという解釈で合っていますか?」
パペの言葉にエンジが頷く。
「どうも何人も国外にボーイフレンドが居たらしくて、そいつらに国の金を使っていたらしい。そりゃあ際限なくばらまけば金策だって厳しくなるさ」
「それ、横領と同じじゃないですか!」
「言ってしまえばそうなるよ。今は中央都市のそういう公的機関はどうなってるんだ?」
「はい。シヴァ様が間接的に入って指示されています」
エンジはいよいよ頭を抱えた。
「神様にやらせる仕事か?ソレ?」
「シヴァ様は楽しそうですが」
「奇跡って連続して起きるんだね」
シオウが目を輝かせる。
「とにかく、中央都市の王政は絶対にやめさせるべきだ。これから国が安定してきたとしても」
「シヴァ様によく伝えておきますね」
「で、エンジが中央都市から逃げてきたのはなんで?」
う…とエンジが固まる。だが彼はもう話してしまうことにしたらしい。拳をテーブルに置いた。
「姫君に気に入られて、魔力で拉致られそうになった」
「は?拉致?!」
「そう。だから寝起きとか寝る前とかの魔力を上手く使えなさそうな時間を狙って、仕事の報告に行っていたんだ」
「ねえ、待って。中央都市の姫君って行き遅れてるって言われてない?」
レントが青ざめている。
「本人はまだ自分が可愛いと思っているぞ」
「あ、無理」
これからエンジたちは明日行われる式の前にカリアシュヤを視察するらしい。式の後に成婚パレードは行われるようだ。
また明日会おう、そう約束してソータたちはエンジたちと別れた。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
悪役令嬢は二度も断罪されたくない!~あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?~
イトカワジンカイ
恋愛
(あれって…もしや断罪イベントだった?)
グランディアス王国の貴族令嬢で王子の婚約者だったアドリアーヌは、国外追放になり敵国に送られる馬車の中で不意に前世の記憶を思い出した。
「あー、小説とかでよく似たパターンがあったような」
そう、これは前世でプレイした乙女ゲームの世界。だが、元社畜だった社畜パワーを活かしアドリアーヌは逆にこの世界を満喫することを決意する。
(これで憧れのスローライフが楽しめる。ターシャ・デューダのような自給自足ののんびり生活をするぞ!)
と公爵令嬢という貴族社会から離れた”平穏な暮らし”を夢見ながら敵国での生活をはじめるのだが、そこはアドリアーヌが断罪されたゲームの続編の世界だった。
続編の世界でも断罪されることを思い出したアドリアーヌだったが、悲しいかな攻略対象たちと必然のように関わることになってしまう。
さぁ…アドリアーヌは2度目の断罪イベントを受けることなく、平穏な暮らしを取り戻すことができるのか!?
「あのー、私に平穏な暮らしをさせてくれませんか?」
※ファンタジーなので細かいご都合設定は多めに見てください(´・ω・`)
※小説家になろう、ノベルバにも掲載
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
【完結】甘やかな聖獣たちは、聖女様がとろけるようにキスをする
楠結衣
恋愛
女子大生の花恋は、いつものように大学に向かう途中、季節外れの鯉のぼりと共に異世界に聖女として召喚される。
ところが花恋を召喚した王様や黒ローブの集団に偽聖女と言われて知らない森に放り出されてしまう。
涙がこぼれてしまうと鯉のぼりがなぜか執事の格好をした三人組みの聖獣に変わり、元の世界に戻るために、一日三回のキスが必要だと言いだして……。
女子大生の花恋と甘やかな聖獣たちが、いちゃいちゃほのぼの逆ハーレムをしながら元の世界に戻るためにちょこっと冒険するおはなし。
◇表紙イラスト/知さま
◇鯉のぼりについては諸説あります。
◇小説家になろうさまでも連載しています。
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
【完結】身を引いたつもりが逆効果でした
風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。
一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。
平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません!
というか、婚約者にされそうです!
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!
雨宮羽那
恋愛
いきなり神子様と呼ばれるようになってしまった女子高生×過保護気味な騎士のラブストーリー。
◇◇◇◇
私、立花葵(たちばなあおい)は普通の高校二年生。
元気よく始業式に向かっていたはずなのに、うっかり神様とぶつかってしまったらしく、異世界へ飛ばされてしまいました!
気がつくと神殿にいた私を『神子様』と呼んで出迎えてくれたのは、爽やかなイケメン騎士様!?
元の世界に戻れるまで騎士様が守ってくれることになったけど……。この騎士様、過保護すぎます!
だけどこの騎士様、何やら秘密があるようで――。
◇◇◇◇
※過去に同名タイトルで途中まで連載していましたが、連載再開にあたり設定に大幅変更があったため、加筆どころか書き直してます。
※アルファポリス先行公開。
※表紙はAIにより作成したものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる