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「あー、なるほどな」

キメルは空から様子を窺っている。タイタンという組織は魔力を持たない代わりに最新鋭の科学力を誇っている。キメルはその科学力について把握できるものはすべて把握したつもりだ。タイタンは当然、宇宙衛星も保持している。キメルは鼻を鳴らした。

「こうやって拠点から離れていても衛星から俺の様子が分かるのか。よし、あとで衛星を壊そう」

西北の地域で起きている紛争は、現在停戦という形を取っている。あまりにも民間人の被害が大きかったためだ。キメルはそのことをシンラから聞いていた。

「魔力を持たなくても便利な暮らしは十分出来るってのに、わざわざ差別するのか。人間ってやつは本当に不便だな」

キメルは魔法を使わない家電を思い出していた。その家電を作るメーカーの社長は確か西北の出身だったはずだ。

「まぁここまで来ればもう理屈じゃねえか」

キメルは飛んだ。タイタンの拠点は人里を離れた森の中にある。おそらく自分たちの姿を隠すためだろう。人型になり、キメルは森の中を歩き出した。銃を持った兵士らしき男たちに取り囲まれる。

「止まれ!!」

キメルは両腕を上げた。武装すらしていないキメルに兵士たちも銃を下げる。どうやらまだ話の分かる部類の者たちらしい。

「お前、どうしてここに?」

兵士の一人が声を掛けてくる。キメルは彼らを見回した。

「戦争をとっととやめろ。そもそもなんで戦いをけしかけた?あんたたちの科学力は便利に暮らすためのものじゃないのか?」

争いの火種はもとからあった。宗教の信仰の違い、そして魔力を持つか持たないかという違い。

「あんたたち、スリニアの人間だろう?魔力を持たないことをずっと蔑視されてきたことに関しては同情するが、なんでわざわざ戦争を起こす?」

一人の少年が顔を出した。見た所十代半ばだろうか。少女のような可愛らしい顔立ちをしている。キメルは彼の顔を見つめた。

「そんなのやられっぱなしになるのが嫌だからに決まっているからだろ!」

「ロニ、落ち着け!」

もう一人の兵士が諌めるが、ロニは止まらない。

「俺達には星読み様が付いている。今まで差別されてきた分やり返してやるんだ!」

「で、やり返してどうするんだ?」

「え…」

キメルの問いに兵士たちは虚をつかれたような顔をする。キメルはその場に胡座をかいて座った。

「お前らの言う星読み様、とやらは本当にお前たちのために動いてくれるのか?」

「な…何を言って…」

「星読み様を侮辱するな!!!」

ロニが銃を向けてくるがキメルは怯まない。

「いいぜ。撃てるものなら撃てよ」

「く…!!」

ロニの震える手が引き金を引こうとしたその時だった。

「おやおや、キメル様じゃないですか?」

「星読み様!!」

ロニが慌てて後ろに下がる。星読み様と呼ばれたその男はトタン鉱山でソータに襲い掛かった男である。キメルはこの男に見覚えがあった。ソータが幼い頃、聖域にリョクシュの共としてやってきたことがある。確か、名前はスイレイと言ったか。スイレイの後ろには護衛が二人控えている。どちらも黒いローブを身につけフードを目深に被っていた。

「スイレイ…」

「おや、私を覚えていたとは。光栄なことです」

「あんただったのか、トタン鉱山でソータを襲ったのは」

キメルは幻獣の姿になり、スイレイに飛び掛かろうとした。だが護衛の一人がすかさず前に出る。キメルは動けなかった。

「これは…なんだ?」

「キメル様、世界を新しいものにしたいと思いませんか?タイタンにはそれだけの力があるのです」

「ぐ…ふざ…けるな」

護衛が腕を下ろすとキメルも地面に倒れ込む。

「早くこいつを牢へ!おそらく星時計をどこかに隠している!一刻も早く星時計を探すのだ!」

キメルはソータを思った。そしてリョクシュのことも同時に思い出していた。

✢✢✢

「きめるー、どこいくのー?」

キメルは困っていた。ソータがどこまでも自分の後を付いてくるのだ。ついこの間ちょこちょこと歩くようになったと思っていたソータが、もう7歳になっている。キメルはソータの体を鼻先で優しく押し返した。これから自分は、スイギョクの駅までリョクシュたちの迎えに行かなければいけないのだ。彼はこれからアオナの視察に来る。だがソータはそういう遊びだと思ったらしい。笑いながら抱き着いてくる。それが可愛くないはずがない。キメルは困って、ソータにちゃんと理由を話すことにした。ソータは魔力を潤沢にもつ優秀な子だった。おかげで思念伝播の魔法がすぐに使えるようになっていた。初めはキメルを怖がっていたソータも今ではすっかり心を許してくれている。

「ソータ、俺はこれからリョクシュを迎えに行くんだ」

「きめるが?」

ソータの目が輝く。

「あぁ」

「きめるがお迎えにきてくれたら、りょくしゅ様もきっとよろこぶね」

「ソータ…」

ソータのあまりの可愛らしさにキメルが心の中で悶えていると、ソータが抱き着いてくる。

「いってらっしゃい、きめる」

「あ、あぁ」

キメルからすれば隣の国のスイギョクまであっと言う間である。ソータのいってらっしゃいはなかなか効いた。将来、ソータは可愛らしい女性に成長するだろう。その時自分が彼女の隣にいられたら、と悶々としながら地上へ舞い降りた。リョクシュが手を振っていたからだ。うっかりスルーしてしまうところだった。

「キメル様が直々にお迎えに来てくださるとは」

リョクシュが、はっはっはと笑っている。彼は禿頭に白く長い顎髭を蓄えた老人だ。だがその瞳には強い意志を宿している。その年齢84であるが、彼は戦闘にも秀でている。過去にキメルも彼とやり合ったことがあった。後ろにはお供を連れている。彼がスイレイだ。

「リョクシュ、お前、ソータを見に来たんだろう?」

「さすがキメル様。よく分かってらっしゃる。ソータナレアが可愛らしいと神々から聞いてね」

全く、とキメルは鼻を鳴らした。ソータが聖域に預けられてからというもの、神々の訪問が激しい。ソータはそんな時、大抵自分の後ろに隠れているのだが。今は勉強にとアオナにフレンも来ている。生意気なガキとキメルは無視しているがフレンは挫けない。

「可愛いんだろう。ソータちゃん」

「ソータに近付くなよ、エロジジイ」

「こりゃ参ったな。じゃあスイレイ、私は先に行くよ」

「は」

キメルはリョクシュを背中に跨がらせた。ソータに会わせるのは気が重いが、一応この世界の重鎮である。キメルは聖域に向かって走り出した。

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