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「ですからキメル様…気を付けませんと」

キメルは一人、聖域に戻ってきている。フクロウに森を任せたはいいが、心配になり時折こうして帰ってきているのだ。その心配はいつも杞憂で終わるのだが、こうしてフクロウに小言を言われる時間が出来てしまった。忠言であると理解はしているが毎度のことなので、キメルも半分聞き流している。

「俺が狙われているなんて信じないぞ」

キメルは人の姿でいた。この姿でいると森に魔力を流し込みやすい。自分の本来の姿はこちらだが、キメルは人嫌いだ。滅多にこの姿にはならない。

「星時計は前から狙われているのです。キメル様のお祖父様がお作りになったその時から」

キメルは鼻で笑った。

「俺のじいさんがこの星時計がらくたを作ったのなんて随分前だぞ?こんなもん一体、誰が狙ってるって言うんだ」

フクロウが抗議するように鳴いた。

「がらくたではありません!星時計はこの世の叡智が詰まった宝なのです!!」

「…フクロウ、俺の質問に答えろ」

「へ?」

フクロウはバササと翼をはためかせた。キメルが険しい表情をしていたからだろう。キメルの顔立ちはとても整っている。それゆえ、どんな表情も決まる。しかも、普段から無愛想な彼が一睨みすれば大抵の者は怯むのだ。フクロウもそのうちの一人だった。

「き、キメル様?何を言って…」

「星時計を狙っているのが誰か、聞いている」

フクロウは、は、と声を上げた。

「キメル様はご存知かと思いますが、タイタンという組織の者たちです」

「…そいつらは何者なんだ?詳しく教えろ」

「…端的に言えば魔力を持たない者たちのことです」

キメルは目を瞠った。

「まさか西北のやつらじゃ…」

フクロウがコクリと頷いた。キメルにもそれでようやく合点がいく。

「魔力を持たない彼らにとって、化学兵器は欠かせないものです。そしてその星時計には星を破壊するレベルの兵器の鍵が隠されていると言われています」

「は?星を破壊だって?嘘だろ?」

フクロウは目を閉じた。

「確かに真実かどうかは定かではありません。ですが、この間ソータナレア様を襲ったのも、そいつらである可能性がシヴァ様より示唆されています」

「そういや、ソータも妙な力にやられた…って言ってたな」

キメルは思い返していた。ソータは一方的にやられてしまったのだと、あの時言っていた。

普通そんなことは有り得ない。ソータの戦闘能力はそれだけ秀でている。

「…フクロウ、俺は中央都市に戻るぞ。ソータが心配だからな」

「キメル様、貴方様は、ここにいられた方が」

「…忠言感謝する。だが、俺はソータがやられた相手から逃げるわけにはいかない」

「キメル様…」

「フクロウ、後は頼むぞ」

キメルは飛び立った。

✢✢✢

「キメル、まだかな」

ソータは窓から外を眺めながら呟いた。そばには殻付きのゆで卵が4つ置いてある。ソータが自分で作ったのだ。パペも一緒に手伝ってくれた。

「ソータ!」

ソータにもキメルの声はしっかり聞こえていた。
ゆで玉子の入ったバスケットを手に、外に出る。

「キメル!!」

ソータはキメルをぎゅっと抱き締めた。温かい彼の感触にホッとする。自分はずっと彼と一緒だった。きっとこれからも。

「ゆで玉子、食べる?私が茹でたの」

「ソータが?」

フンフンとキメルがゆで玉子の匂いを嗅いでいる。

「ん…半熟だな」

「そうなの!私たちが、半熟のゆで玉子が好きだって言ったらパペが、時間を教えてくれたの」

「そうか…」

なんだかキメルの様子がおかしいとソータは感じた。自分の額をキメルの額に当てる。

「キメル、何かあった?」

「いや…ちょっとな」

「私には言えないこと?」

「いや…」

キメルがこんなに迷っているのを見るのは初めてだった。何かあったのは間違いないだろう。

「キメル、玉子食べよう?」

「あぁ」

二人で頬張るゆで玉子は格別だった。

「美味しいね、どう?キメル」

「あぁ、美味いな」

「ふふ」

「ソータ」

キメルの声が固い。やはり何かあったのだ。ソータは彼を見つめた。キメルがソータから視線を外す。

「その…しばらく俺は一人で世界の様子を見てくる」

「え…?」

ソータはぽかんとなった。

「だからソータはここで…ソータ?」

ソータは泣いていた。キメルが狼狽えるくらいには。

「ソータ、そんなに泣くな!すぐ戻って来る、約束するから」

「キメルの嘘つき!!…っ、ひくっ」

「ソータ…ごめん」

「謝らないで!!何かあったのは分かってる!キメルはいつも私のために行動してくれるって知ってるもの!」

「ソータ、そこまで分かってくれるのか」

ソータはキメルを抱き締めた。

「分かるよ。私たち、ずっと一緒だったもの」

「…そうだな。正直に言うと俺はタイタンに、魔力を持たざる者たちに狙われているようだ。お前を危険な目に遇わせたくない…出来ればお前が大切に思う他の者も」

「キメル…ありがとう。でも私だってこのままやられっ放しでいるわけにはいかない」

「…そうだな。ソータ、俺はしばらく走り回ろうと思う。奴らの狙いは星時計だ。少しでも奴らを邪魔し、可能であれば排除する」

「ほし…どけい?」

「敢えて詳しくは話さない。お前を守るために」

ソータは頷いた。

「分かった。私はキメルを信じてる。だからキメルも私を信じて」

「あぁ、もちろんだ。ソータ、愛してる」

ソータはその言葉にどきん、とした。
キメルがこの言葉を言うだけで何故こんなにも胸が熱くなるのか、ソータには分からない。ソータはキメルを抱き締めた。

「行ってくるよ」

「キメル、信じてるから!」

キメルは一人日が沈む空へ消えて行った。
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