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ソータはパペを子供たちの眼の前に立たせている。

「では、改めて、これから基礎を振り返ります」

「なにするのー?」

子どもたちは体育座りで二人を見つめている。みなの視線が熱い。

「まずは気配を消す方法から。パペいい?」

「はい」

パペの存在感が明らかに薄くなる。それに子供たちが沸いた。

「すごい!本当にいなくなったみたい!」

「今は姿が見えてるから分かるけど、視界の外にいたら分からないと思うのです」

「どうやるの?僕たちも出来る?」

ソータは笑った。彼らの才能はとっくに見極めている。みな、優秀な子たちばかりだ。

「気配を消す方法と共に、読む方法も教えるのです」

ワッと子どもたちが沸いた。

「おいおい、なんか楽しそうだな」

ふらりと現れたのはハ・デスだ。

「ひえ、ハ・デス様!!」

子どもたちが悲鳴を上げる。高位な神だ。やはり威厳がある。

「そんなに怖がるなよ、僕が直々に遊んでやると言っているんだ」

子どもたちがちらり、とソータを窺っている。
そうだ、とソータは思いついた。せっかくハ・デスがいるのだからそれを利用しない手はない。

「校庭は…」

ソータが教室の窓から校庭を見ると他のクラスが使っているようだ。サラの姿も見える。ソータは心の中で頑張れ!とサラに応援し、パペに聞いてみた。

「体育館ってこの時間、使えるのでしょうか?」

パペが頷いて答えてくれる。彼に聞けば大抵のことが分かるようだ。

「半分でしたら使えます。何をされるのですか?」

ソータは頷いた。

「サバイバル鬼ごっこです!」

「え…」

「なんだそれは!すごく面白そうじゃないか!」

パペは固まり、ハ・デスが腕を組んでふんぞり返る。

「皆さん、体育館に移動します!」

「はい!」

ソータは子どもたちが言うことを聞いてくれて良かったと安堵した。何かを教えるというのは難しい。そして教えたことを実践してもらえるようになるのも。子どもたちのこれからの選択肢を広めるために頑張ろう、ソータは誓った。

✢✢✢
体育館にいる。子どもたちは体操着に着替えていた。

「え…僕は目隠しするのか?」

ハ・デスに目隠しをしながらソータが笑った。

「丁度いいハンデなのです」

ハ・デスはそれを聞いて、ははっと笑った。

「そうだ、僕は強いからな!」

子どもたちの背中には一つずつ風船を着けた。お楽しみ会で使ったものが余っていたらしい。

「サバイバル鬼ごっこって何するの?」

子供たちの疑問は最もだ。ソータは頷いた。

「いいですか?気配を消すというのは、言ってしまえば、空気に紛れ込むということなのです。自分を周りに同化させようとしてみてください」

子供たちの気配が少し薄くなる。やはり優秀な子たちだ。

「鬼はハ・デス様なのです。制限時間は15分。皆さんが一人でも逃げられたら皆さんの勝ちです。風船を割られたら失格。私の所で待機していてください。気配を上手に消してみましょう」

「はい!」

「ハ・デス様は15秒後から移動してください。では、はじめ!」

子どもたちがあちらこちらに走り出していく。

「そろそろ僕も行くからな!」

ハ・デスは目隠しをしているとは思えないほど軽快に走り出した。子どもたちは四人。ハ・デスが一人、またひとりと捕まえていく。

「やはりハ・デス様相手では厳しいのでは?」

パペの言うことは最もだ。ソータも分かってやっている。ハ・デスは最後の一人に牙を剥いた。その子はソータに剣術で挑んできた少年である。彼の名前はコタロウと言った。彼は体術に秀でているらしい。ハ・デスからなんとか逃げ回っている。気配を上手く消せているからこそ出来ていることだ。

「ちょこざいな」

ハ・デスも本気を出す。いよいよ気配を読み取り始めた。

「あと1分だよ!頑張れコター!」

子供たちからコタロウに声援が飛ぶ。だがハ・デスも負けていない。身軽に跳ぶとコタロウを捕まえて風船を割った。

「捕まえた!」

「あー、捕まっちゃった」

コタロウが残念そうに言う。ソータは子どもたちを集めた。

「皆さん、お疲れ様でした。後半は気配を消すコツを掴めたのではないですか?コタロウ様、よく頑張られました。お見事なのです。拍手!」

ソータがパチパチ手を叩くと子どもたちも拍手をする。

「そして、今回協力してくださったハ・デス様にお礼を言いましょう。ありがとうございました!」

「ありがとうございました!!」

ハ・デスはそれに顔を赤らめた。

「む。僕はただ遊んでやっただけだしな」

「これからも協力してくださると助かるのです」

ハ・デスがまたもふんぞり返る。分かりやすい神である。

「僕ならいつでも遊んでやるぞ!」

そして、この時限は終了したのだった。

✢✢✢

「えーと日誌って何を書けばいいのでしょう」

ソータはどんな授業を行ったかを記すための日誌を見つめて固まっていた。教える側は意図を持って授業を行わなければならない、と、今更教頭に聞いて焦っている。ソータは今日行った授業について詳しく記し始めた。今回は、戦闘をすることを念頭に置いた授業だった、とソータも書きながら気が付いた。子どもたちを一人前の力のある精霊にする。それがソータの新たな任務である。

「ソータ」

ずん、とキメルがソータの肩に頭を乗せてきた。
ソータはそんなキメルの顔を撫でた。

「ソータナレア様。何か飲みませんか?」

パペが声を掛けてくれる。確かに少し喉が乾いていた。書いていた日誌を閉じる。

「ソータナレア様。今日の授業、とてもよかったです」

「へ?」

パペがソータに頷く。

「実戦を踏まえた素晴らしい授業でした。子どもたちも楽しんでいましたね」

「て、照れるよ」

「今日はよくお休みになってください」

「ありがとう」

部屋に戻りシャワーを浴びたソータはぐっすり眠った。
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