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家庭科室という名の教室で、ソータは制服に着替えていた。ここには姿見があったので、それを見て最後の確認をする。茶色いブレザーに緑のタイ。下はチェック柄の茶色い膝丈までのプリーツスカートだった。足元は黒いタイツに茶色の革靴を履いている。まさに学生といった様子にソータはじっと姿見を見た。
「これが制服…私がこんな格好をするなんて…」
生まれてこの方、ソータはずっと足元まであるローブを着ていた。ワンピースもこの間着たが、それとはまた違う趣がこの制服にはある。そう、特別な感じがあるのだ。たまごを背負うと不思議としっくり来た。
コンコンと扉をノックされ、ソータは返事をした。
「着替え出来たか?」
ソータは家庭科室を出た。サラ、キメル、パペがソータを見つめてくる。みんながあまりにも不思議そうにソータを見るのでソータは自分の姿がおかしかったのかと焦った。
「可愛い」
三人が揃って言う。ソータは急に恥ずかしくなってキメルの後ろに隠れた。キメルが尻尾でソータの腕を撫でる。出てこいということだろう。
「制服似合うな!ソータ!」
「ソータナレア様、とても愛らしいのです」
サラとパペに褒められてソータは困った。
「ソータ、お前はいつも可愛いな」
「キメルまで!て…照れるのです。でもなんで私まで制服を着るのですか?」
サラがあぁと頷いた。
「ソータが生徒としていてくれると、この学校が安心だからな」
「…私は警備会社ではないのですが」
「ソータナレア様、大丈夫です。実際お強いのですから」
パペにこう言われてしまえば、ソータは頷くことしか出来ない。
「じゃあ次は寮を案内するよ」
「寮?!ですか?」
「あぁ。教師用だから個室だ。結構居心地いいぞ」
本当に自分は学校に通うことになるのだとソータは今更ながらに実感していた。
サラに案内された個室はベッドと机、キャビネットというシンプルな内装だった。自分だけの部屋というものにソータはずっと憧れていた。
「わあ、ここが私の部屋!」
ソータは嬉しくなって、机の引き出しを開けたりベッドに座ってみたりした。机の上には真新しいバッグと教科書なんかが置かれている。サラが腕時計を見た。
「お、もうこんな時間か。教科書はそれだけじゃないんだ。残りは事務室に取りに行ってくれないか。俺は次の時間、授業の見学なんだ」
「サラ先生、ありがとうなのです!」
ソータが頭を下げると、サラが笑う。
「これから楽しみだな!」
「はい!」
それから事務室に行き、必要な教科書をもらった。中央都市の教育理念に、学生は無償で教育を受けられるとあるらしい。パペがそう説明してくれた。
「お腹すいた」
ソータは気が付いた。もう昼過ぎだ。学校で空腹になった場合どうすればいいのだろう、とソータは焦った。
「大丈夫ですよ。ソータナレア様。そこに購買がありますし、三階には学生食堂があります」
パペはいつの間にか学校の中の様子を把握していたらしい。自分には彼がいなければすごく困るのは間違いないだろう。
「あぁそうだ。筆記用具も買ったほうがいいですね」
三人は購買に近付いた。真龍含む様々な神々が届けてくれた物資で食料などの生活必需品は十分にある。
ソータはふとあるものに目を奪われていた。それはピンク色のボディのボールペンである。それは艷やかに光っている。
「可愛い…でも」
「ソータナレア様?どうかされましたか?」
「えと、これ可愛いなって」
パペに指で示すと、彼はそれを手に取った。
「ください」
そう言って会計を済ませている。
「パペも欲しかったの?」
「ソータナレア様に」
「え?で、でも私、何もしてないのに」
「これから頑張るためにですよ」
無表情なパペが笑ったような気がした。三人は購買の前にある椅子で遅い昼食を摂った。
「ふぁ、うま」
あんバターサンドという悪魔的なパンにソータはすっかり虜にされてしまっている。サラダとミルクも忘れていない。キメルは一口で、かつサンドを食べてしまった。パペはしっかり噛み締めながら食事をする人のようだ。ハムレタスサンドを食べている。
「美味しいですね。食べたら私たちも先程の子どもたちがいる教室に行ってみましょう。確か一コマ授業が入ってましたよ」
「うん!」
✢✢✢
ソータがそうっと教室の中を覗くと子どもたちは授業の準備をしているところだった。この時限はソータが進行しなければならない。
「あ、ソータナレア様」
先程召喚術を行おうとした女の子がこちらに気が付く。ソータは教室の中に入ってみた。子どもたちに一斉に取り囲まれる。
「ねえどうやったらそんなに強くなれるの?」
「あたしの召喚術が効かないなんてなんでよ!!」
「皆さん、落ち着くのです。鍛錬は裏切らないのですよ!」
「鍛錬って一体何するの?」
「えーと」
ソータは自身の幼い頃を思い出してみた。いつも前聖女にボコボコにされた過去が蘇る。前聖女はあれでも手加減してくれていたのだが、辛い気持ちになったのは間違いない。自分だから耐えられたのであって、普通なら心が折れてしまう。
ソータは考えた。
「これから基礎をやります」
「えー!」
子どもたちは不満そうだが、基本にかえるのは大事だ。教室の机を後ろにどかす。
いよいよソータによる授業が始まるのだ。
「これが制服…私がこんな格好をするなんて…」
生まれてこの方、ソータはずっと足元まであるローブを着ていた。ワンピースもこの間着たが、それとはまた違う趣がこの制服にはある。そう、特別な感じがあるのだ。たまごを背負うと不思議としっくり来た。
コンコンと扉をノックされ、ソータは返事をした。
「着替え出来たか?」
ソータは家庭科室を出た。サラ、キメル、パペがソータを見つめてくる。みんながあまりにも不思議そうにソータを見るのでソータは自分の姿がおかしかったのかと焦った。
「可愛い」
三人が揃って言う。ソータは急に恥ずかしくなってキメルの後ろに隠れた。キメルが尻尾でソータの腕を撫でる。出てこいということだろう。
「制服似合うな!ソータ!」
「ソータナレア様、とても愛らしいのです」
サラとパペに褒められてソータは困った。
「ソータ、お前はいつも可愛いな」
「キメルまで!て…照れるのです。でもなんで私まで制服を着るのですか?」
サラがあぁと頷いた。
「ソータが生徒としていてくれると、この学校が安心だからな」
「…私は警備会社ではないのですが」
「ソータナレア様、大丈夫です。実際お強いのですから」
パペにこう言われてしまえば、ソータは頷くことしか出来ない。
「じゃあ次は寮を案内するよ」
「寮?!ですか?」
「あぁ。教師用だから個室だ。結構居心地いいぞ」
本当に自分は学校に通うことになるのだとソータは今更ながらに実感していた。
サラに案内された個室はベッドと机、キャビネットというシンプルな内装だった。自分だけの部屋というものにソータはずっと憧れていた。
「わあ、ここが私の部屋!」
ソータは嬉しくなって、机の引き出しを開けたりベッドに座ってみたりした。机の上には真新しいバッグと教科書なんかが置かれている。サラが腕時計を見た。
「お、もうこんな時間か。教科書はそれだけじゃないんだ。残りは事務室に取りに行ってくれないか。俺は次の時間、授業の見学なんだ」
「サラ先生、ありがとうなのです!」
ソータが頭を下げると、サラが笑う。
「これから楽しみだな!」
「はい!」
それから事務室に行き、必要な教科書をもらった。中央都市の教育理念に、学生は無償で教育を受けられるとあるらしい。パペがそう説明してくれた。
「お腹すいた」
ソータは気が付いた。もう昼過ぎだ。学校で空腹になった場合どうすればいいのだろう、とソータは焦った。
「大丈夫ですよ。ソータナレア様。そこに購買がありますし、三階には学生食堂があります」
パペはいつの間にか学校の中の様子を把握していたらしい。自分には彼がいなければすごく困るのは間違いないだろう。
「あぁそうだ。筆記用具も買ったほうがいいですね」
三人は購買に近付いた。真龍含む様々な神々が届けてくれた物資で食料などの生活必需品は十分にある。
ソータはふとあるものに目を奪われていた。それはピンク色のボディのボールペンである。それは艷やかに光っている。
「可愛い…でも」
「ソータナレア様?どうかされましたか?」
「えと、これ可愛いなって」
パペに指で示すと、彼はそれを手に取った。
「ください」
そう言って会計を済ませている。
「パペも欲しかったの?」
「ソータナレア様に」
「え?で、でも私、何もしてないのに」
「これから頑張るためにですよ」
無表情なパペが笑ったような気がした。三人は購買の前にある椅子で遅い昼食を摂った。
「ふぁ、うま」
あんバターサンドという悪魔的なパンにソータはすっかり虜にされてしまっている。サラダとミルクも忘れていない。キメルは一口で、かつサンドを食べてしまった。パペはしっかり噛み締めながら食事をする人のようだ。ハムレタスサンドを食べている。
「美味しいですね。食べたら私たちも先程の子どもたちがいる教室に行ってみましょう。確か一コマ授業が入ってましたよ」
「うん!」
✢✢✢
ソータがそうっと教室の中を覗くと子どもたちは授業の準備をしているところだった。この時限はソータが進行しなければならない。
「あ、ソータナレア様」
先程召喚術を行おうとした女の子がこちらに気が付く。ソータは教室の中に入ってみた。子どもたちに一斉に取り囲まれる。
「ねえどうやったらそんなに強くなれるの?」
「あたしの召喚術が効かないなんてなんでよ!!」
「皆さん、落ち着くのです。鍛錬は裏切らないのですよ!」
「鍛錬って一体何するの?」
「えーと」
ソータは自身の幼い頃を思い出してみた。いつも前聖女にボコボコにされた過去が蘇る。前聖女はあれでも手加減してくれていたのだが、辛い気持ちになったのは間違いない。自分だから耐えられたのであって、普通なら心が折れてしまう。
ソータは考えた。
「これから基礎をやります」
「えー!」
子どもたちは不満そうだが、基本にかえるのは大事だ。教室の机を後ろにどかす。
いよいよソータによる授業が始まるのだ。
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