上 下
40 / 92

40

しおりを挟む
家庭科室という名の教室で、ソータは制服に着替えていた。ここには姿見があったので、それを見て最後の確認をする。茶色いブレザーに緑のタイ。下はチェック柄の茶色い膝丈までのプリーツスカートだった。足元は黒いタイツに茶色の革靴を履いている。まさに学生といった様子にソータはじっと姿見を見た。

「これが制服…私がこんな格好をするなんて…」

生まれてこの方、ソータはずっと足元まであるローブを着ていた。ワンピースもこの間着たが、それとはまた違う趣がこの制服にはある。そう、特別な感じがあるのだ。たまごを背負うと不思議としっくり来た。

コンコンと扉をノックされ、ソータは返事をした。

「着替え出来たか?」

ソータは家庭科室を出た。サラ、キメル、パペがソータを見つめてくる。みんながあまりにも不思議そうにソータを見るのでソータは自分の姿がおかしかったのかと焦った。

「可愛い」

三人が揃って言う。ソータは急に恥ずかしくなってキメルの後ろに隠れた。キメルが尻尾でソータの腕を撫でる。出てこいということだろう。

「制服似合うな!ソータ!」

「ソータナレア様、とても愛らしいのです」

サラとパペに褒められてソータは困った。

「ソータ、お前はいつも可愛いな」

「キメルまで!て…照れるのです。でもなんで私まで制服を着るのですか?」

サラがあぁと頷いた。

「ソータが生徒としていてくれると、この学校が安心だからな」

「…私は警備会社ではないのですが」

「ソータナレア様、大丈夫です。実際お強いのですから」

パペにこう言われてしまえば、ソータは頷くことしか出来ない。

「じゃあ次は寮を案内するよ」

「寮?!ですか?」

「あぁ。教師用だから個室だ。結構居心地いいぞ」

本当に自分は学校に通うことになるのだとソータは今更ながらに実感していた。
サラに案内された個室はベッドと机、キャビネットというシンプルな内装だった。自分だけの部屋というものにソータはずっと憧れていた。

「わあ、ここが私の部屋!」

ソータは嬉しくなって、机の引き出しを開けたりベッドに座ってみたりした。机の上には真新しいバッグと教科書なんかが置かれている。サラが腕時計を見た。

「お、もうこんな時間か。教科書はそれだけじゃないんだ。残りは事務室に取りに行ってくれないか。俺は次の時間、授業の見学なんだ」

「サラ先生、ありがとうなのです!」

ソータが頭を下げると、サラが笑う。

「これから楽しみだな!」

「はい!」

それから事務室に行き、必要な教科書をもらった。中央都市の教育理念に、学生は無償で教育を受けられるとあるらしい。パペがそう説明してくれた。

「お腹すいた」

ソータは気が付いた。もう昼過ぎだ。学校で空腹になった場合どうすればいいのだろう、とソータは焦った。

「大丈夫ですよ。ソータナレア様。そこに購買がありますし、三階には学生食堂があります」

パペはいつの間にか学校の中の様子を把握していたらしい。自分には彼がいなければすごく困るのは間違いないだろう。

「あぁそうだ。筆記用具も買ったほうがいいですね」

三人は購買に近付いた。真龍含む様々な神々が届けてくれた物資で食料などの生活必需品は十分にある。

ソータはふとあるものに目を奪われていた。それはピンク色のボディのボールペンである。それは艷やかに光っている。

「可愛い…でも」

「ソータナレア様?どうかされましたか?」

「えと、これ可愛いなって」

パペに指で示すと、彼はそれを手に取った。

「ください」

そう言って会計を済ませている。

「パペも欲しかったの?」

「ソータナレア様に」

「え?で、でも私、何もしてないのに」

「これから頑張るためにですよ」

無表情なパペが笑ったような気がした。三人は購買の前にある椅子で遅い昼食を摂った。

「ふぁ、うま」

あんバターサンドという悪魔的なパンにソータはすっかり虜にされてしまっている。サラダとミルクも忘れていない。キメルは一口で、かつサンドを食べてしまった。パペはしっかり噛み締めながら食事をする人のようだ。ハムレタスサンドを食べている。

「美味しいですね。食べたら私たちも先程の子どもたちがいる教室に行ってみましょう。確か一コマ授業が入ってましたよ」

「うん!」

✢✢✢

ソータがそうっと教室の中を覗くと子どもたちは授業の準備をしているところだった。この時限はソータが進行しなければならない。

「あ、ソータナレア様」

先程召喚術を行おうとした女の子がこちらに気が付く。ソータは教室の中に入ってみた。子どもたちに一斉に取り囲まれる。

「ねえどうやったらそんなに強くなれるの?」

「あたしの召喚術が効かないなんてなんでよ!!」

「皆さん、落ち着くのです。鍛錬は裏切らないのですよ!」

「鍛錬って一体何するの?」

「えーと」

ソータは自身の幼い頃を思い出してみた。いつも前聖女にボコボコにされた過去が蘇る。前聖女はあれでも手加減してくれていたのだが、辛い気持ちになったのは間違いない。自分だから耐えられたのであって、普通なら心が折れてしまう。
ソータは考えた。

「これから基礎をやります」

「えー!」

子どもたちは不満そうだが、基本にかえるのは大事だ。教室の机を後ろにどかす。

いよいよソータによる授業が始まるのだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました

平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。 騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。 そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。

【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!

七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。 この作品は、小説家になろうにも掲載しています。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

「聖女は2人もいらない」と追放された聖女、王国最強のイケメン騎士と偽装結婚して溺愛される

沙寺絃
恋愛
女子高生のエリカは異世界に召喚された。聖女と呼ばれるエリカだが、王子の本命は一緒に召喚されたもう一人の女の子だった。「 聖女は二人もいらない」と城を追放され、魔族に命を狙われたエリカを助けたのは、銀髪のイケメン騎士フレイ。 圧倒的な強さで魔王の手下を倒したフレイは言う。 「あなたこそが聖女です」 「あなたは俺の領地で保護します」 「身柄を預かるにあたり、俺の婚約者ということにしましょう」 こうしてエリカの偽装結婚異世界ライフが始まった。 やがてエリカはイケメン騎士に溺愛されながら、秘められていた聖女の力を開花させていく。 ※この作品は「小説家になろう」でも掲載しています。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

処理中です...