引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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「次で最後のポイントだね」

ソータとシオウ、そしてキメルは闇神が出現したとされる最後のポイントに向かっている。
その前のポイントだったブランドショップには闇神の姿がなかったのだ。だが規制線は張られ、ガラス扉は無惨にも割られていた。手口としてはとても大胆で強引なものだ。
それでいて犯人はまだ捕まっていないのだから、警察に文句を言う者の気持ちもよく分かる。最後のポイントはトレーディングカードを扱う店だった。

「トレーディングカードってなんですか?」

ソータの質問にシオウも考える。

「なんだろう?私もあまりそういうのは詳しくなくて」

「子供が遊ぶゲームだ。今はカード1枚にかなりの値がつくらしい」

キメルの説明はシオウにも伝わったらしい。なるほどと彼は顔をほころばせた。キメルがソータ以外の人間に対して関わりを持とうとしてくれたのがソータには嬉しい。

「キメルさんはなんでも知ってるんだね」

そんなシオウに何故かソータがえっへん!と胸を張り、キメルが困惑していた。

「あ、あそこだ」

シオウが地図を見ながら言う。そこだけ異様に暗いのだ。何かあるのだろうと明らかに分かる。

「ソータ、気を付けろ」

「承知」

三人はその中に飛び込んだ。あまりの邪気にソータたちは驚いた。中は黒いもやで充満している。ソータは詠唱を始めている。
キメルも当然、ソータに力を貸してくれた。シオウは倒れている人たちを救出している。皆、巻き込まれた者たちだろうか。

「我願う、悪しき神よ…あっ!!」

バリバリと轟音が響き、ソータを直撃しそうになる。ソータはそれを横に跳んでなんとか躱した。

「ソータ!」

キメルが駆け寄ってくる。

「大丈夫、詠唱する」

ソータは再び詠唱を始めた。相手は自分に反発してきた。それだけ追い込まれてきているということだろう。

「我願う、悪しき神よ、この世より浄化せん!!」

シュウウと黒いもやが消えていく。浄化が無事完了していた。ソータはその場にへたり込んだ。さすがに反動がある。キメルが駆け寄ってくる。

「大丈夫か?ソータ」

「うん」

「ソータさん!!大丈夫?」

倒れていた者の救出を終えたらしいシオウも駆け寄ってきた。

「大丈夫なのです」

「おい、そこの。ソータを俺の背中に乗せろ」

キメルが言う。なんとも偉そうだ。

「キメル!そんな言い方駄目!!」

ソータが叱るとキメルは小さい耳をしゅんとさせる。シオウは笑って、ソータを抱き上げてキメルの背に乗せてくれた。

「ごめんなさい、シオウ様」

「私はなんとも思っていないよ。キメルさんはソータさんを心配しているんだよね?」

キメルが面白くなさそうにぷいと顔を背ける。

「こら、キメル!」

「俺はソータがいればいいんだ」

遠くからサイレンが聞こえてくる。どうやら救急車をシオウは呼んでくれていたらしい。

「キメルさん、あとは私がやるから、ソータさんをフレンさんの所に…」

「…」

キメルは答えず駆け出した。走っている間ソータはキメルの背中にしっかり掴まっていようとした。だが意識が遠のく。

「ソータ?」

キメルはソータの異常に気が付いたのか歩を止めた。

「ソータ!!」

背中にまたがるソータは完全に意識を失っている。このままでは彼女を下に落としてしまう。キメルは人型に変身した。この姿を見せたことがある人間はソータを育てた前聖女くらいだ。魔力を放つならこの姿が一番いい。自分は人間が嫌いなはずなのに皮肉な話だとキメルは嘲笑った。

キメルはソータを横抱きに抱え歩き出した。

「ごめん、ソータ」

キメルはソータの額に口づけを落とした。

「ん…だれ?」

ソータがうっすら目を開ける。

「心配するな。フレンのところにいくだけだ」

「ありがとう…ございます」

ソータは自分がキメルだと気が付いていない。人型になると気配が変わるようだと知っていたが、どうしようもない。それにソータには人型になれることは隠している。あくまで自分はただの幻獣なのだから。

フレンの気配を辿るとフレンは病院にいた。レントやエンジもいる。

「ソータ!」

エンジたちがキメルに駆け寄ってくる。

「倒れていたから連れてきた。もう一人は他の者を救出している」

キメルは本当はここでソータを渡したくなかった。このまま聖域に連れて帰りたかったくらいだ。だがそれは、ソータが望んでいたらだ。ソータは聖女として自分の任務を遂行している。それを自分が邪魔するわけにはいかない。

「あの、君の名前は?」

「名乗るほどの者ではない」

キメルはちらり、とソータを見て、くるりと踵を返した。ソータの仮面はいつの間にか無くなっている。魔力は枯渇していないはずだが、浄化というものはそれだけエネルギーがいるものなのだとキメルも実感していた。

病院から出てキメルは街の外れに来ている。そこで幻獣の姿に戻った。病院に向かって駆け出す。早くソータの現状が知りたかった。

姿を消して病院の裏側にまわると小さな庭があった。入院していると思われる子どもたちが砂遊びをしている。周りには保育士が二人いた。
キメルはするり、とそれを躱し病院内に入った。
表から入ると病室は恐ろしく遠いのである。姿を消せても、実体をなくすことは出来ないのだから人に会わないに越したことはない。キメルはソータの気配を辿り、病室を見つけていた。
幸運なことにソータはひとりだ。彼女は既に意識を取り戻している。

「キメル?」

キメルは嬉しくなってソータの前に姿を現した。

「キメル!!」

「ブルル」

ぎゅっとソータに抱き着かれた。

「ソータ、大丈夫か?」

「うん、大丈夫。私を運んでくれた方は誰だったんだろう?」

ソータが首を傾げるが、キメルは知らないと首を横に振った。ソータは残念そうにそう、とだけ頷いた。

「シンラはいたのか?」

キメルの言葉にソータは首を振った。そう言えばいなかったと呟く。

「シンラ様、どこに行っちゃったんだろう」

「あいつのことだ。遊んでるんじゃないか?」

キメルの言葉にソータはそうかもしれないと笑った。神々は気まぐれなものである。その中でも特に気まぐれなのはシンラだった。

「ソータ、もう休め」

「うん。キメル、ありがと」

ソータが目を閉じたのを確認する。キメルは街の外を目指した。
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