引きこもり不憫聖女でしたが、逆ハーレム状態になっていました!

はやしかわともえ

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「むうう」

ガルマが唸っている。シオウはソータが持っていた神を封じられたとされる呪符を拡大鏡で見ていた。乱暴に扱われたせいか、呪符はところどころ破れ、シワになっている。

ダイアをはじめとする男四人は今、地下にある牢獄に閉じ込められている。セキヒで改めて裁判をすることが決まったようだった。

「うちの息子が本当に申し訳ない」

そう謝ってきたのは、デイと名乗る痩せ型の男性だった。ガルマの友人らしい。彼がダイアの父親だ。
自分の息子が犯した罪は絶対に許さないと息子の勘当も辞さない様子だった。

「シオウ様、どうでしょうか?」

ソータの目は泣いたことですっかり腫れ上がり、声も掠れている。エンジはそれを見て、少し休んだ方がいいと提案したのだが、ソータが聞き入れるはずもなかった。仮面を着けるのだから大丈夫だと。

「うん、呪符自体は無事修復出来そうだよ。ただ神が復活するかは分からないけど」

「そんな…」

「これを元に戻すためには、ソータさん。貴女の魔力が必要だ」

「やってやるのです。絶対に復活させてみせます」

ふんす、とソータは意気込んだ。

「ソーちゃん、ガッツあるなー。さすが聖女」

「聖女?!」

ガルマとデイが同時に叫んだ。エンジがあぁと顔を手で押さえる。

「あ、やっぱ今のナシ」

レントも取り消そうとしたが、ソータがそれを制する。

「大丈夫なのですよ、レント様。このお二人にはちゃんと言っておいた方が良いと考えていました」

「本当に聖女様なのですか?」

ソータがこくん、と頷き仮面を外す。

「私はアオナの聖女、ソータナレアなのです。今は、ある任務のために旅をしています。皆様を偽るような真似をして申し訳ありません」

ソータが深々とお辞儀をするとデイとガルマが慌てた様子で、ソータにこう言った。

「聖女様、あの子たちの罪をあの子たちに懺悔させてやれませんか?おそらく彼らは死罪です、せめてその前に」

「彼らは反省していますか?」

ソータの言葉にデイとガルマは顔を見合わせた。その様子は彼らには見られない。未だに牢獄に入れられたことを恨みに思っているようだった。

「自分たちの罪を認められないうちは、懺悔も意味を成しません。これから彼らがどう変わるか、楽しみに思っています」

「聖女様…私たちはどうすればいいのでしょう。あの子の、あの子たちの育て方を間違えたのでしょうか」

ソータは笑った。目元は赤く腫れて自分でも酷い顔をしていると分かっている。だが、聖女たるもの強くあらねばならない。

「人は不意に自分を見失います。それは誰のせいでもないのです。今回の場合、見失った結果、取り返しがつかないことになってしまいました。それを彼らがどう捉えるかは彼ら次第なのです。私たちに出来るのは一つ、見守ることです」

「聖女様…」

「私は祈ります。今まで傷付けられて命を奪われた方はもちろん、それを行った彼らのことも。人は神の前ではみな、平等なのです」

ソータはそっと両手を組んだ。ソータからまばゆい光が飛び散る。聖女の祈りはそれだけ特別なものだ。

「この祈りがどうか彼らに届きますように」

✢✢✢

ソータは空を見上げていた。今日はこのままヤム島に泊まることになったのだ。急拵えの巨大なテントを村人たちが建ててくれた。空には、満天の星たちが煌めいている。

「ソータ」

声を掛けられて振り向くと、エンジがいた。今は鎧を外しているらしい。それでも彼の体躯が人一倍たくましいことがよく分かる。彼が訓練を怠っていないことも。

「眠らないのか?」

「はい。シオウ様が呪符を修復されています。修復が終わったら魔力をなるべく早く流し込まないと」

「ソータはすごいな」

「え?」

隣にやってきたエンジが座ったので、つられてソータも座った。

「ソータは自分のやるべきことがちゃんと分かってる。俺みたいに逃げ出さないし」

「エンジ様の場合は無意識だったのでは?」

「はは。そうだった。俺、辛かったんだってアオナの山を見ながら思ったんだよ」

「アオナの自然は人を癒やしてくれるのです!」

エンジがソータの頭を撫でる。

「ソータ、この旅で君はいっぱい傷付いたんじゃないか?」

エンジの瞳を見つめてソータは笑った。

「僕は引きこもりだったので、発見もいっぱいあったのです!それに一人じゃないですし」

「あぁ、俺たちは君を守るよ。だから信じて欲しい」

「はい、へくしっ」

ソータが小さくくしゃみをすると優しく肩を抱き寄せられた。

「ほら、もう中に入ろう」

「はい」

テントの一角に担ぎ込まれた木製の机の前で、シオウが呪符を修復している。シオウが言うには、ヤム島に伝わる伝統的な技術を用いて作られた特殊な紙を呪符に貼り付けて繋げるという地道な方法を使うらしい。すごく細かそうな作業で、ソータは見ているだけでクラクラしそうになる。

「とりあえずお茶を淹れよう」

テントの中にはなみなみと水の入った水瓶や竈も置かれている。竈には特殊な熱炎魔法がかけられており、煙を出さずに発熱が可能だ。スイギョクでソータが使ったホットプレートにも同様の魔法がかけられていた。エンジが手慣れた様子でみんなの分の茶を淹れている。

「はい、ソータ。すごく甘いから驚くなよ」

「甘いの大好きなのです」

熱々のお茶をふうふうと冷まして、ソータは一口飲んでみた。

「あっっまぁ!!!」

「甘くて美味いだろ?ゆっくり飲めよ。中央都市の茶葉だ」

「中央都市の名産の茶葉ってこれなんだ、昔から飲んでたから気にしたことなかったけど」

レントが呟く。

「中央都市はなんでも揃うし、俺もこれが当たり前なんだって思ってたよ。でも大人になって国外に出るようになってから違うんだって」

「懐かしい味です」

シオウが笑う。ソータはだんだん眠たくなってきていた。ホッとしたからだと分かる。

「ソーちゃん、眠そうだね」

「疲れたよな。もうすぐ日が明けるぞ」

「ソータさん、少し休んでください」

ソータはもう目すら開けていられなかった。
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