9 / 92
9
しおりを挟む
「ソーちゃん、大丈夫かな?」
巨大な冷凍庫内でレントとエンジは作業している。この中にある商品を言われたとおりに仕分けをする。言ってみると簡単なようだが、効率ある無駄のない動きが必要だ。冷凍庫内はものすごく冷たいので、規定の防寒着を着ている。
レントはさっと見ただけでどこに何があるか覚えたらしい。さくさく商品を仕分けている。もちろんエンジもだ。二人は作業をしながら話していた。
「ソータはいい子だからな。そうゆうのは他人から結構見られてるよ」
「ならいいんだけど。おっと次はこっちの商品か」
レントは軽い性格だが、与えられた仕事はきっちりこなす男だ。ソータにもそれが分かっているようだ、と分かり、聖女は侮れないとエンジは内心震えた。ソータの人を見抜く目は確かである。
「でもソーちゃん、料理できるの?」
「あ…」
今更エンジは気が付いた。レントが首を振ってため息を吐く。
「エンジ、お前時々抜けてるよね?」
「そ、ソータなら大丈夫だよ」
慌てて言ったが、ソータは今まで外に出たことがないと言っていた。森の奥にある聖域でそこら辺に生えている野草を食べて育ってきた子だ。エンジはしまったと思ったが、自分たちの稼ぎだけでも、節約すればしばらくは、なんとかなると気を引き締める。この日雇いの仕事も以前より、随分報酬が安くなってしまったらしい。お陰で新しい人が来てくれないと店長はボヤいていた。ソータが上手くやれていることをエンジは祈りながら仕事を続けた。
✢✢✢
「まあ、これ美味しいわね」
一方ソータはホットプレートの前でソーセージを炒めていた。いわゆる、試食販売員という職種である。ソータは記憶力がいい。一度教わると、何でも覚えてしまう。ソーセージの焼き方や切り方、売り文句全てを駆使して客にアピールする。
匂いを嗅ぎつけた小さな男の子が欲しいと手を差し伸べているので、ソータはソーセージの載った紙皿を渡してやった。
「わ、本当に美味しいね!お母さん、これ買ってよ!」
「しょうがないわね」
「是非ご家族で楽しんでいただきたいのです!」
「なら、2つ頂くわ」
「ありがとうございます!お母様も是非試食を!」
ソータの周りにはソーセージの試食を待つ客で溢れかえっていた。
それだけソーセージがいい香りを発していたのだ。
店内に人が集まっていれば、なんだろう?と気を取られるのが普通だ。そしてこの香ばしい香りである。試食が出来ると聞けば食べてみたいとなるのは当然のことだろう。ソータはジュージューとソーセージを炒めながら声掛けをしている。
「焼くととっても香ばしい粗挽きソーセージです。今買っていただけると、2袋400Gですよ。お買い得になっております!いかがでしょうか?」
ソータは試食の客を捌きつつ、ソーセージをバンバン売った。
「ソータくん、すごーい」
声を掛けて来たのは、品出し担当の中年女性だった。
「あの、ソーセージがもうなくなってしまって」
ふふ、と女性が笑う。
「まだまだ倉庫にいっぱいあるから持ってきてあげる」
「そんなに人気な商品なのですか?」
ソータの素直な問いに、彼女は首を振った。
「このソーセージのメーカー、最近潰れたの」
その在庫をこの店は全て引き受けたのだそうだ。成る程、とソータは納得した。
やはりあちこちで金回りが悪くなっている。
このまま悪化していけば市民たちの家計も危うい。
もちろんそれはソータたちもだ。
「このソーセージ、小さい頃の子どもたちが大好きで。潰れちゃって残念だわ」
「僕、なんとか在庫がなくなるように頑張ります!」
「あら、ソータくんみたいなイケメンならそれも可能ね!」
「ソータくん、お疲れ様。あがっていいよ」
「店長さん、お疲れ様なのです。承知いたしました」
ソータはペコリと頭を下げて更衣室に戻った。着替えるとは言っても店のロゴが入ったエプロンを外すだけだ。
「ソータ、今上がりか?」
ロッカーの前でエプロンを綺麗に畳んでいると声を掛けられた。顔を上げると、朝、ソータに仕事を教えてくれた先輩だ。どうやら大学生らしい。落ち着きのある喋り方をする青年だった。
「サラ先輩。お疲れ様なのです。明日もよろしくお願いします」
「お前、チビなのに店でめっちゃ目立ってたから驚いたよ」
「え?!そうなのですか?」
サラが笑う。
「やっぱ気付いてなかったか。あ、エプロンこっちにしろ。それ、流石にでかすぎたな、悪い」
「ありがとうございます。お洗濯してお返しいたします」
「律儀なやつ。まぁありがたいけど。ソーセージも好評だったみたいで良かった。まあ元々人気商品だったしな」
「何故会社は潰れたのですか?」
ソータの問いにサラは言葉を詰まらせた。
「原材料の値上げと国の増税が重なったからな。結構ダメージでかかったらしい」
「増税…。もしかしてその会社は中央都市に?」
「あぁ、よく分かったな。お前、アオナから出てきたばかりなんだろ?」
「新聞で経済が大変って書いてありました」
「ああ、小さな会社はまだまだ潰れると思うぞ。もうその波は来てる。俺が就活する頃には何とかなっていてほしいけどな」
サラはあくまで冷静だった。
「あ、もう行かないと!サラ先輩、また明日なのです!」
ソータは更衣室を慌てて後にした。
「小さな台風みたいなやつだな」
サラがこう言っていたことは誰も知らない。
巨大な冷凍庫内でレントとエンジは作業している。この中にある商品を言われたとおりに仕分けをする。言ってみると簡単なようだが、効率ある無駄のない動きが必要だ。冷凍庫内はものすごく冷たいので、規定の防寒着を着ている。
レントはさっと見ただけでどこに何があるか覚えたらしい。さくさく商品を仕分けている。もちろんエンジもだ。二人は作業をしながら話していた。
「ソータはいい子だからな。そうゆうのは他人から結構見られてるよ」
「ならいいんだけど。おっと次はこっちの商品か」
レントは軽い性格だが、与えられた仕事はきっちりこなす男だ。ソータにもそれが分かっているようだ、と分かり、聖女は侮れないとエンジは内心震えた。ソータの人を見抜く目は確かである。
「でもソーちゃん、料理できるの?」
「あ…」
今更エンジは気が付いた。レントが首を振ってため息を吐く。
「エンジ、お前時々抜けてるよね?」
「そ、ソータなら大丈夫だよ」
慌てて言ったが、ソータは今まで外に出たことがないと言っていた。森の奥にある聖域でそこら辺に生えている野草を食べて育ってきた子だ。エンジはしまったと思ったが、自分たちの稼ぎだけでも、節約すればしばらくは、なんとかなると気を引き締める。この日雇いの仕事も以前より、随分報酬が安くなってしまったらしい。お陰で新しい人が来てくれないと店長はボヤいていた。ソータが上手くやれていることをエンジは祈りながら仕事を続けた。
✢✢✢
「まあ、これ美味しいわね」
一方ソータはホットプレートの前でソーセージを炒めていた。いわゆる、試食販売員という職種である。ソータは記憶力がいい。一度教わると、何でも覚えてしまう。ソーセージの焼き方や切り方、売り文句全てを駆使して客にアピールする。
匂いを嗅ぎつけた小さな男の子が欲しいと手を差し伸べているので、ソータはソーセージの載った紙皿を渡してやった。
「わ、本当に美味しいね!お母さん、これ買ってよ!」
「しょうがないわね」
「是非ご家族で楽しんでいただきたいのです!」
「なら、2つ頂くわ」
「ありがとうございます!お母様も是非試食を!」
ソータの周りにはソーセージの試食を待つ客で溢れかえっていた。
それだけソーセージがいい香りを発していたのだ。
店内に人が集まっていれば、なんだろう?と気を取られるのが普通だ。そしてこの香ばしい香りである。試食が出来ると聞けば食べてみたいとなるのは当然のことだろう。ソータはジュージューとソーセージを炒めながら声掛けをしている。
「焼くととっても香ばしい粗挽きソーセージです。今買っていただけると、2袋400Gですよ。お買い得になっております!いかがでしょうか?」
ソータは試食の客を捌きつつ、ソーセージをバンバン売った。
「ソータくん、すごーい」
声を掛けて来たのは、品出し担当の中年女性だった。
「あの、ソーセージがもうなくなってしまって」
ふふ、と女性が笑う。
「まだまだ倉庫にいっぱいあるから持ってきてあげる」
「そんなに人気な商品なのですか?」
ソータの素直な問いに、彼女は首を振った。
「このソーセージのメーカー、最近潰れたの」
その在庫をこの店は全て引き受けたのだそうだ。成る程、とソータは納得した。
やはりあちこちで金回りが悪くなっている。
このまま悪化していけば市民たちの家計も危うい。
もちろんそれはソータたちもだ。
「このソーセージ、小さい頃の子どもたちが大好きで。潰れちゃって残念だわ」
「僕、なんとか在庫がなくなるように頑張ります!」
「あら、ソータくんみたいなイケメンならそれも可能ね!」
「ソータくん、お疲れ様。あがっていいよ」
「店長さん、お疲れ様なのです。承知いたしました」
ソータはペコリと頭を下げて更衣室に戻った。着替えるとは言っても店のロゴが入ったエプロンを外すだけだ。
「ソータ、今上がりか?」
ロッカーの前でエプロンを綺麗に畳んでいると声を掛けられた。顔を上げると、朝、ソータに仕事を教えてくれた先輩だ。どうやら大学生らしい。落ち着きのある喋り方をする青年だった。
「サラ先輩。お疲れ様なのです。明日もよろしくお願いします」
「お前、チビなのに店でめっちゃ目立ってたから驚いたよ」
「え?!そうなのですか?」
サラが笑う。
「やっぱ気付いてなかったか。あ、エプロンこっちにしろ。それ、流石にでかすぎたな、悪い」
「ありがとうございます。お洗濯してお返しいたします」
「律儀なやつ。まぁありがたいけど。ソーセージも好評だったみたいで良かった。まあ元々人気商品だったしな」
「何故会社は潰れたのですか?」
ソータの問いにサラは言葉を詰まらせた。
「原材料の値上げと国の増税が重なったからな。結構ダメージでかかったらしい」
「増税…。もしかしてその会社は中央都市に?」
「あぁ、よく分かったな。お前、アオナから出てきたばかりなんだろ?」
「新聞で経済が大変って書いてありました」
「ああ、小さな会社はまだまだ潰れると思うぞ。もうその波は来てる。俺が就活する頃には何とかなっていてほしいけどな」
サラはあくまで冷静だった。
「あ、もう行かないと!サラ先輩、また明日なのです!」
ソータは更衣室を慌てて後にした。
「小さな台風みたいなやつだな」
サラがこう言っていたことは誰も知らない。
0
お気に入りに追加
28
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたけどヤバい国だったので逃げ出したら、イケメン騎士様に溺愛されました
平山和人
恋愛
平凡なOLの清水恭子は異世界に集団召喚されたが、見るからに怪しい匂いがプンプンしていた。
騎士団長のカイトの出引きで国を脱出することになったが、追っ手に追われる逃亡生活が始まった。
そうした生活を続けていくうちに二人は相思相愛の関係となり、やがて結婚を誓い合うのであった。
【本編完結】五人のイケメン薔薇騎士団団長に溺愛されて200年の眠りから覚めた聖女王女は困惑するばかりです!
七海美桜
恋愛
フーゲンベルク大陸で、長く大陸の大半を治めていたバッハシュタイン王国で、最後の古龍への生贄となった第三王女のヴェンデルガルト。しかしそれ以降古龍が亡くなり王国は滅びバルシュミーデ皇国の治世になり二百年後。封印されていたヴェンデルガルトが目覚めると、魔法は滅びた世で「治癒魔法」を使えるのは彼女だけ。亡き王国の王女という事で城に客人として滞在する事になるのだが、治癒魔法を使える上「金髪」である事から「黄金の魔女」と恐れられてしまう。しかしそんな中。五人の美青年騎士団長たちに溺愛されて、愛され過ぎて困惑する毎日。彼女を生涯の伴侶として愛する古龍・コンスタンティンは生まれ変わり彼女と出逢う事が出来るのか。龍と薔薇に愛されたヴェンデルガルトは、誰と結ばれるのか。
この作品は、小説家になろうにも掲載しています。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
王宮医務室にお休みはありません。~休日出勤に疲れていたら、結婚前提のお付き合いを希望していたらしい騎士さまとデートをすることになりました。~
石河 翠
恋愛
王宮の医務室に勤める主人公。彼女は、連続する遅番と休日出勤に疲れはてていた。そんなある日、彼女はひそかに片思いをしていた騎士ウィリアムから夕食に誘われる。
食事に向かう途中、彼女は憧れていたお菓子「マリトッツォ」をウィリアムと美味しく食べるのだった。
そして休日出勤の当日。なぜか、彼女は怒り心頭の男になぐりこまれる。なんと、彼女に仕事を押しつけている先輩は、父親には自分が仕事を押しつけられていると話していたらしい。
しかし、そんな先輩にも実は誰にも相談できない事情があったのだ。ピンチに陥る彼女を救ったのは、やはりウィリアム。ふたりの距離は急速に近づいて……。
何事にも真面目で一生懸命な主人公と、誠実な騎士との恋物語。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!
楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。
(リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……)
遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──!
(かわいい、好きです、愛してます)
(誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?)
二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない!
ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。
(まさか。もしかして、心の声が聞こえている?)
リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる?
二人の恋の結末はどうなっちゃうの?!
心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。
✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。
✳︎小説家になろうにも投稿しています♪
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる