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ソータが目指しているのは中央都市だ。占いをした結果、そこにいる誰かがこの国アオナのリーダーに相応しいとのことだった。しかし、誰かまでは分からない。だが会えば分かるはずだ。ソータは中央都市までの詳細な地図を買おうと思い、露店が建ち並んでいる道に来ていた。だが、ソータは貨幣を使った買い物を今までしたことがない。ずっと聖域にいて、人間らしいまともな生活をしてこなかった。たまたま見つけた地図を売っている露店に近付いて、銅貨五枚で買えるか聞くと、ちょうどだと言われる。ソータがそれにホッとした瞬間だった。

「それはぼったくりだろう」

「何だあんた?」

割って入ってきたのは赤毛の青年だった。鎧を着ていることから戦闘を専門にしているのだろう。腰には立派な剣をさしている。それはとてもレアリティの高い武器だ。ソータは道具の目利きが生まれつき出来た。

「こんな小さい子からお金を巻き上げて楽しいのか?」

「こちとら慈善事業でやってるわけじゃねえんだ!嫌なら他を当たりな!」

他の露店はいそいそと閉店作業を始めてしまっている。どうやらこの露天商はこの辺り一帯のボス的存在だったらしい。ボスに睨まれては敵わないということだ。これからここで商売をする以上は仕方がないのである。
ソータにはすぐ理由が分かったが、さて困った。地図が買えなければ出発出来ない。青年が屈んで、ソータにすまなそうに言う。

「済まない、俺はエンジ。君の旅に同行するよ。どこまで行きたいんだい?」

「中央都市です。僕はソータ」

「ソータ、君はそこに何をしに行くつもりなんだ?」

「ええっと」

まさか国王直々の依頼でアオナのリーダーを探すとは言えない。聖女という身分はあまりひけらかさないようにと教えられている。

「人探しです」

「人探し?あの人の多い中央都市で?」

ますますエンジは困惑したようである。彼はソータに突っ込むのに疲れてきたのか、わかったと最終的に了承してきた。

「ソータ、君は野草ばかり食べてるのか?」

どうやら村での様子を見られていたようだ。ソータは頷いた。  

「他に食べるものがなくて」

「君は……もういい。宿に行こう」

エンジはとうとう諦めたようだった。エンジと来た宿屋はいわゆる普通の宿屋だった。だがソータはそんなことも知らない。そもそも聖域にあったのは礼拝堂のみだ。夏は暑く冬は寒い。そんな環境にソータはずっといた。冷感魔法や温感魔法もあったが、環境が厳しいことに変わりない。宿屋には空調があり、快適である。ソータはそれに驚いてしまった。

「ソータ、おいで」

2階につくと、エンジはソータに鍵を握らせた。これがソータの部屋のルームキーらしい。

「君の部屋は俺の部屋の隣だ。荷物を置いたらレストランに行こう」

「パン、食べられますか?」

ソータの質問にエンジは笑った。ソータの頭を優しく撫でてくれる。

「もちろん。食べられるよ」

ソータは嬉しくなって笑った。部屋の鍵を開けて中に入り、荷物を置く。貴重品はちゃんと持った。幼い頃からそうするように言いつけられていたからだ。ソータが部屋を出ると、エンジが待っていてくれた。

レストラン、というものにソータは初めて入った。文字は読めるが、初めて食べるものばかりで、料理名など分かるわけがない。
メニューを見る限り、パンという表記がなくてソータは焦った。エンジは嘘を言ったのだろうかと泣きそうになる。いや、もう泣いていた。

「エンジ様、パンは?僕、パンが食べたい」

ボロボロ涙を流しながら聞くとエンジは慌てたように言った。

「パンは料理に付いてくるから。そんなに泣かないでくれ」

「料理…なにも分からない」

うっうっ、と困ってしゃくりあげているとエンジがソータに何が食べられるかと聞いて適当なものを頼んでくれた。

「ソータ、君は今までどんな生活をしてきたんだ?」

「え、えーと…僕は…」

エンジには真実を告げるべきだと直感が言っている。

「私は聖女で、ずっと聖域にいて」

エンジにはようやく理由が分かったようだ。

「そうか、君がアオナの聖女だったのか。君の占いは素晴らしいと聞いたことがあるよ」

「エンジ様はアオナの方じゃありませんよね?」

「あぁ、俺の出身は中央都市だ」

やはりそうなのかとソータは嬉しくなった。アオナの リーダーに相応しい資質を彼は持っている。だが、まだ確定というわけにはいかないらしい。料理が運ばれてきた。いい匂いがしてソータは驚く。

「これが料理…」

「ソータ、沢山食べろ。君は痩せ過ぎだよ」

「い、頂きます」

もちろんソータはフォークすら握ったことがない。ぎゅっとテキトウに握ると、エンジは優しく持ち方を教えてくれたのだった。初めて食べた料理、それはアオナの特産である野菜のソテーだった。聖女という立場上、肉は食べられないが、野菜ならなんでも食べられる。エンジはちゃんとそのことも汲んで注文してくれたのだ。

もきゅもきゅと野菜を噛み締めてパンをちぎって頬張る。

「ソータ、美味しいかい?」

いつの間にかエンジに優しく見つめられている。ソータは嬉しくなって頷いた。

ソータは自分を育ててくれた前聖女が亡くなってからはずっと独りぼっちだった。だが、自分には森にいる動物たちがいる。冷たい礼拝堂にいても寂しいとは思わなかった。しかし、こうしてヒトのそばにいるとやはり違うと感じてしまう。ソータは優しいエンジを好ましく思っていた。彼はとても温かいのだ。

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