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第五話

メンバーリスト

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「史郎さんのお部屋に来るの、久しぶりですね」

「そっか。もうそんなに経つっけ?」

「はい」

二葉を自分の部屋に通して、冷蔵庫の中にあった冷えた麦茶を出したのは良かったけれど。

(女の子が自分の部屋にいるって、改めて考えるとすごいな)

こう見えて、僕はちゃんと大学生の若き男子なのだ。
女の子にだって人並みに興味はある。
しかも相手は、二つ年上のとびきり美人さんな二葉だ。
ドキドキしない方がどうかしている。
さっきから二葉は僕のベッドに腰掛けて、にこにこしている。
くぅう、可愛いなぁ!これは、あれか?
キスとかしていいパターンかな?
二葉だったら許してくれる?

「あら?」

そんな僕の気も知らずに二葉が声を上げる。
どうしたんだろう。もしかして僕の下心がバレたんだろうか。引かれる?
二葉が立ち上がって本棚から一冊本を抜き出した。それは…。

「私の絵本…小説も…」

「あ、それは…!」

「私の本、全部買って下さっていたんですか?」

本人を前にして嘘は付けない。
でもなんだか恥ずかしい。
二葉が僕をじっと見上げてくる。
うーん、可愛いなぁ。

「そ、そうだよ。
僕、二葉のファンだからさ。行きつけの本屋に取り置いてもらってるんだ」

正直に言うと、全てが真実ではない。

僕は二葉のファンの一人でもある。
でも、取り置いてもらっているというと少し違う。いつの間にやら本屋の店員に顔を覚えられて、二葉の新刊が出る度に毎回声をかけられるのだ。
そうなれば買わざるを得ない。
いや、どちらにせよ買うんだけどもね。

「史郎さん、ありがとう」

二葉が抱き着いてくる。
僕はそっと彼女の小さい背中に手を回そうとして、やめた。顔が熱くなる。二葉もそんな僕に気が付いたようだ。

「いちゃいちゃは終わりか?」

「兄さん!!なんで勝手にドアを開けるのさ!」

「開いてたんだからしょうがないだろ?
よう、二葉。久しぶりだな」

「克樹さん!お邪魔しています」

「とりあえず居間に来い。話がある」


***

兄さんが差し出してきたもの。
もちろんそれは例の非営利団体のメンバーリストだった。
早速二葉がそれに目を通している。

「あ…」

二葉が声を上げる。
どうしたんだろう?

「やっぱり気になるよな?」

兄さんの言葉に二葉も頷いて、僕にリストを示してくれた。


ハシヤマキョウヘイ(38)元小学校教諭


とある。僕は意味が分からずに二人を見ると、兄さんがこう言った。

「調べてみたがこいつ。カネダ小学校の教師だったらしい。複数の児童にわいせつしたとかで捕まってる」

なんだかすごく怖いのは僕だけだろうか。
だって、それって…。

「サアヤさんを殺害したのは…」

二葉が呟く。
彼女の雰囲気が変わる。
ものすごく怒っているのがわかった。

「二葉、落ち着いて。まだ証拠がないよ…」

僕の言葉に二葉はゆっくり深呼吸した。

「史郎さん、ありがとうございます。
克樹さん、私達はこの男に話を聞かなくてはいけません」

兄さんが困ったように頭を掻いた。
そして言う。

「そう言うだろうと思ってアポは取ってある。明後日の午後一だ。
言っておくが揉め事なんてごめんだからな」

「かしこまりました」

そう言って二葉が頭を下げる。
僕は不安だった。二葉を抑え切れるだろうか。
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