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料理しましょう
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さっと作れる、あまり時間がかからないものがいい。
材料は、鰆に牛肉、ストックしておいた野菜など。
レシピサイトを眺めながら、何を作るか模索する。料理の傾向さえ決まれば、味付けはぼくが勘で行える。
「肉と魚があまり主張しすぎないのがいいかな。両方が主役級だから、味が喧嘩しないように」
メニューを決めた。
鰆のムニエルに、肉じゃが。アラ汁。
野菜はにんじん、じゃがいも、玉ねぎ、白菜を使う。
神谷さんはあれからたまにうちを訪れて、その日に採れた野菜をおすそわけしてくれていた。
採った日が一番鮮度がいいからね、と。
おかげで野菜が高騰している今季もうちの食卓は豊だ。ありがたいよな。
泉さんからもらった缶詰の詰め合わせは、日持ちがするので一旦キッチンの棚に置いておく。
雨宮さんからのデザートは、冷蔵庫に保存する。
エプロンをつけて、腕まくり。
さあ、やるか!
まず鰆は内臓が抜かれていることを確認して、三枚におろす。身が柔らかくて崩れやすいから、気をつけて包丁を動かす。
小さめの切り身にしていく。
塩胡椒を振りかけ、サラダ油に漬け込んで、ごま油もひとしずく、しばらく放置。
肉じゃがは、一番手間がかかるじゃがいもが大サイズなので、ふたつ程度皮を剥けば、もうあとは細かくするだけ。
質が良くて断面が瑞々しい。
人参は乱切り、玉ねぎはくし切り。
彩りのさやえんどうを加える。
まずは牛脂で牛肉を炒めて、醤油とみりんで甘辛く味付けする。
そこに野菜を投入、少しの調理酒をかけて落し蓋をして中火で放置。
たまにかき混ぜながら、完成を待つだけ──
アラ汁はさっき三枚下ろしにした魚の骨を使う。
骨が生臭くないように炙り、野菜くずとともにだし汁で煮て、火が通ったら、味噌を溶いた。
あとは空いた時間で、フライパンで鰆を焼いてしまえば、三品が見事にできあがる。
油に漬け込んでいるからそのまま焼くだけ。
40分!
まあ良い手際だったんじゃない?
「よしっ」
「はにゃあぁ……!」
キッチンにふらふらと雨宮さんが現れた。
鼻をひくひくとさせながら。
「なんと、黒猫耳が生えてきてから、嗅覚が向上したような気がするのですよねー。んー、良い匂い!」
「えっ。……確かに、ぼくも目が良くなったような気はしてるかも?」
「でしょー」
瞬きしてみると、雨宮さんの赤くなったほっぺがとても詳細に見えた。
こたつに入って温まったみたいだ。良かった。
「ユウレイちゃんは黒猫だから、恩恵なのかもしれませんね!」
「黒猫だから……?」
ピンとこないぼくに、雨宮さんは得意げに話す。
「黒猫って幸運の象徴なんですよ! だから、黒猫に横切られると良くないことが起こる……って言われているんです。幸運が遠ざかったってことですもんね。ということは、黒猫とご縁があった私たちは幸運なのです! やったー!」
雨宮さんは小さくバンザイをした。
この独特のしゃべり方は、もはや雨宮節と言ってもいいだろう。
「詳しいね」
「大学では民俗学も学んでいるので!」
「へぇ、意外……」
「そうですかー? 正しくは心理学科で、人間の心を学びつつ、歴史的な恐怖心のルーツとか、幸運への願いを知ろうとしているんですよ~」
へぇ……自分でやりたいことが明確なんだな。眩しいくらいだ。
雨宮さんがじいっとこちらを凝視するので、ぼくはどきっとした。
ゾクッと、ともいえる。
彼女の視線がぼくのなにかを見つけてしまうんじゃないだろうか? と思って……平凡な本質に気づかれたくなかったんだ。
だって他の人たちはみんな、個性的で、ぼくのつまらなさを知ったらこの日常も終わってしまうような気がして。
誤魔化すように動き始めてしまった。
「雨宮さん。そこのお盆をリビングに運んでってくれる?」
「はぁい! おまかせあれですよ」
「ありがとう。雨宮さんに肉じゃがでしょ、ぼくは……汁物を運ぼうかな」
順番を考えていると、みんながキッチンにやってくる。
こうなると狭いんだけど?
「やっとコタツから抜け出したわ……! んもー気持ちいいったらないよねぇ。陸くん、なに運んだらいいかな? 美味しそう!」
「その魚、そう料理したのかぁ。なんだかシャレてるなぁ、初めて見た。美味そうだ!」
「肉じゃがに牛肉使うタイプなんですね。うちの実家と同じです。……美味そう」
「野菜を隅々まで活用してくれて嬉しいよ。うん、美味しそう」
食べる前から「美味しそう」が何度も聞こえてきて、これはすごく気分がいいな!
みんながぼくの頭の上を見ながら笑いを堪えている気がするのは、気のせいってことで!
顔がちょっと熱いけどね。
「お料理は美味しそうで、陸くんは可愛い人でーす!」 って、先にリビングに戻った雨宮さんに、羞恥心へのトドメを刺された。
いただきます、とみんなで手を合わせる。
材料は、鰆に牛肉、ストックしておいた野菜など。
レシピサイトを眺めながら、何を作るか模索する。料理の傾向さえ決まれば、味付けはぼくが勘で行える。
「肉と魚があまり主張しすぎないのがいいかな。両方が主役級だから、味が喧嘩しないように」
メニューを決めた。
鰆のムニエルに、肉じゃが。アラ汁。
野菜はにんじん、じゃがいも、玉ねぎ、白菜を使う。
神谷さんはあれからたまにうちを訪れて、その日に採れた野菜をおすそわけしてくれていた。
採った日が一番鮮度がいいからね、と。
おかげで野菜が高騰している今季もうちの食卓は豊だ。ありがたいよな。
泉さんからもらった缶詰の詰め合わせは、日持ちがするので一旦キッチンの棚に置いておく。
雨宮さんからのデザートは、冷蔵庫に保存する。
エプロンをつけて、腕まくり。
さあ、やるか!
まず鰆は内臓が抜かれていることを確認して、三枚におろす。身が柔らかくて崩れやすいから、気をつけて包丁を動かす。
小さめの切り身にしていく。
塩胡椒を振りかけ、サラダ油に漬け込んで、ごま油もひとしずく、しばらく放置。
肉じゃがは、一番手間がかかるじゃがいもが大サイズなので、ふたつ程度皮を剥けば、もうあとは細かくするだけ。
質が良くて断面が瑞々しい。
人参は乱切り、玉ねぎはくし切り。
彩りのさやえんどうを加える。
まずは牛脂で牛肉を炒めて、醤油とみりんで甘辛く味付けする。
そこに野菜を投入、少しの調理酒をかけて落し蓋をして中火で放置。
たまにかき混ぜながら、完成を待つだけ──
アラ汁はさっき三枚下ろしにした魚の骨を使う。
骨が生臭くないように炙り、野菜くずとともにだし汁で煮て、火が通ったら、味噌を溶いた。
あとは空いた時間で、フライパンで鰆を焼いてしまえば、三品が見事にできあがる。
油に漬け込んでいるからそのまま焼くだけ。
40分!
まあ良い手際だったんじゃない?
「よしっ」
「はにゃあぁ……!」
キッチンにふらふらと雨宮さんが現れた。
鼻をひくひくとさせながら。
「なんと、黒猫耳が生えてきてから、嗅覚が向上したような気がするのですよねー。んー、良い匂い!」
「えっ。……確かに、ぼくも目が良くなったような気はしてるかも?」
「でしょー」
瞬きしてみると、雨宮さんの赤くなったほっぺがとても詳細に見えた。
こたつに入って温まったみたいだ。良かった。
「ユウレイちゃんは黒猫だから、恩恵なのかもしれませんね!」
「黒猫だから……?」
ピンとこないぼくに、雨宮さんは得意げに話す。
「黒猫って幸運の象徴なんですよ! だから、黒猫に横切られると良くないことが起こる……って言われているんです。幸運が遠ざかったってことですもんね。ということは、黒猫とご縁があった私たちは幸運なのです! やったー!」
雨宮さんは小さくバンザイをした。
この独特のしゃべり方は、もはや雨宮節と言ってもいいだろう。
「詳しいね」
「大学では民俗学も学んでいるので!」
「へぇ、意外……」
「そうですかー? 正しくは心理学科で、人間の心を学びつつ、歴史的な恐怖心のルーツとか、幸運への願いを知ろうとしているんですよ~」
へぇ……自分でやりたいことが明確なんだな。眩しいくらいだ。
雨宮さんがじいっとこちらを凝視するので、ぼくはどきっとした。
ゾクッと、ともいえる。
彼女の視線がぼくのなにかを見つけてしまうんじゃないだろうか? と思って……平凡な本質に気づかれたくなかったんだ。
だって他の人たちはみんな、個性的で、ぼくのつまらなさを知ったらこの日常も終わってしまうような気がして。
誤魔化すように動き始めてしまった。
「雨宮さん。そこのお盆をリビングに運んでってくれる?」
「はぁい! おまかせあれですよ」
「ありがとう。雨宮さんに肉じゃがでしょ、ぼくは……汁物を運ぼうかな」
順番を考えていると、みんながキッチンにやってくる。
こうなると狭いんだけど?
「やっとコタツから抜け出したわ……! んもー気持ちいいったらないよねぇ。陸くん、なに運んだらいいかな? 美味しそう!」
「その魚、そう料理したのかぁ。なんだかシャレてるなぁ、初めて見た。美味そうだ!」
「肉じゃがに牛肉使うタイプなんですね。うちの実家と同じです。……美味そう」
「野菜を隅々まで活用してくれて嬉しいよ。うん、美味しそう」
食べる前から「美味しそう」が何度も聞こえてきて、これはすごく気分がいいな!
みんながぼくの頭の上を見ながら笑いを堪えている気がするのは、気のせいってことで!
顔がちょっと熱いけどね。
「お料理は美味しそうで、陸くんは可愛い人でーす!」 って、先にリビングに戻った雨宮さんに、羞恥心へのトドメを刺された。
いただきます、とみんなで手を合わせる。
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