推しの正体は溺愛結婚した冴えないはずの幼馴染でした。

朱之ユク

文字の大きさ
上 下
1 / 1

なんで君がカムイの格好をしているの?

しおりを挟む
 こんこんという音が聞こえた。きっと、推し活をしている真っ最中のスカーレットをグレイが呼び出したのだ。

「ちょっと、待ってて」

(今は推し活の途中。そして、カムイくんの推し活をしている姿をあんまりグレイに見せたくなのよね)

 カムイくんというのは人気アイドルグループのトップ的な存在での男の子であり、今一番影響力があると言って問題ないと思う。
 ファンがいう「もういいかい?」というセリフの後の決め台詞の「君に決めた!」というセリフはライブでとても盛り上がる言葉だ。

 推しを押すということは全ての女性がしている行為と言って問題ないと思う。人生に彩を与えてくれる素晴らしい行動が推し活なのだ。
 だけど、それを夫であるグレイに見せるのはまた別だ。
 たとえば、夫がグラビアアイドルを推しにしていたらスカーレットはきっと嫉妬していると思う。それと同じでスカーレットが夫以外の男を好きなんて知られたらきっと夫はショックを受けるだろう。
 推しも好きだけど、夫も好きだから推しであるカムイくんのことは出来るだけばれないようにしていた。
 いそいで推しのグッズを片付けて、ドアを開ける。
 
(グレイももうちょっとカッコよかったらいいのにな)

 そんなことを考えるのは失礼だろうか。グレイは髪の毛を伸ばして、ろくに整えもせず暮らしているため、とてもカッコいいとは言えない。
 スカーレットが好きなのは推しのような短髪の切りそろえたカッコいい髪形なのに、それから夫は外れていた。
 夫が私のことを溺愛してくれているのは感謝している。
 でも、それでもスカーレットが夫に不満を持ってしまうのは仕方がないことだ。

(別に推しに成れって言っているわけじゃなく、ちょっとは外見に気を使ってほしいだけなのに)

 スカーレットはそれが叶わない願いを知りながら、扉を開けた。
 そこにはいつもの冴えない夫の姿があるはずだった。
 しかし、違ったのだ。

「えっ! なんでここに推しのカムイくんが!」

 目のまえには先ほどまで押していた推しがそこにはいたのだ。髪形はいつの間にか切ったのか、短く切りそろえられており、今までよく見ていなかった彼の顔の全貌が明らかになっている。

(本当にグレイなの? それにしてはイケメン過ぎない?)

「スカーレット。今日は伝えたいことがあってきた」
「うん」

 その伝えたいことと言うのが何なのかを一瞬で理解する。

「実は僕は、……いや、俺はカムイって言う名前でアイドルとして活動しているんだよ」
「うん。その姿を見れば分かるよ」

(まさか! まさか、私の夫が私の推しのカムイくんだったなんて!」

「うふふふふ。グレイ、いや、カムイくんがうちの中にいる」

 こんなに幸せなことがあるのだろうか、会っていいのだろうか? 

 もしそうだとしたらスカーレットは本当に幸せな人間かもしれなかった。

(おっと。そうだとしたら確認しないと!)

「ねえ、グレイ!」
「なに?」
「もういいかい?」
「君に決めた!」
「きゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

(本物だ! 本物だ!)

 スカーレットは歓喜した。

(私の夫が本物のカムイくんだ!)
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

学園にいる間に一人も彼氏ができなかったことを散々バカにされましたが、今ではこの国の王子と溺愛結婚しました。

朱之ユク
恋愛
ネイビー王立学園に入学して三年間の青春を勉強に捧げたスカーレットは学園にいる間に一人も彼氏ができなかった。  そして、そのことを異様にバカにしている相手と同窓会で再開してしまったスカーレットはまたもやさんざん彼氏ができなかったことをいじられてしまう。  だけど、他の生徒は知らないのだ。  スカーレットが次期国王のネイビー皇太子からの寵愛を受けており、とんでもなく溺愛されているという事実に。  真実に気づいて今更謝ってきてももう遅い。スカーレットは美しい王子様と一緒に幸せな人生を送ります。

【完結】もったいないですわ!乙女ゲームの世界に転生した悪役令嬢は、今日も生徒会活動に勤しむ~経済を回してる?それってただの無駄遣いですわ!~

鬼ヶ咲あちたん
恋愛
内容も知らない乙女ゲームの世界に転生してしまった悪役令嬢は、ヒロインや攻略対象者たちを放って今日も生徒会活動に勤しむ。もったいないおばけは日本人の心! まだ使える物を捨ててしまうなんて、もったいないですわ! 悪役令嬢が取り組む『もったいない革命』に、だんだん生徒会役員たちは巻き込まれていく。「このゲームのヒロインは私なのよ!?」荒れるヒロインから一方的に恨まれる悪役令嬢はどうなってしまうのか?

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

【完結】夜会で借り物競争をしたら、イケメン王子に借りられました。

櫻野くるみ
恋愛
公爵令嬢のセラフィーナには生まれつき前世の記憶があったが、覚えているのはくだらないことばかり。 そのどうでもいい知識が一番重宝されるのが、余興好きの国王が主催する夜会だった。 毎年余興の企画を頼まれるセラフィーナが今回提案したのは、なんと「借り物競争」。 もちろん生まれて初めての借り物競争に参加をする貴族たちだったが、夜会は大いに盛り上がり……。 気付けばセラフィーナはイケメン王太子、アレクシスに借りられて、共にゴールにたどり着いていた。 果たしてアレクシスの引いたカードに書かれていた内容とは? 意味もなく異世界転生したセラフィーナが、特に使命や運命に翻弄されることもなく、王太子と結ばれるお話。 とにかくツッコミどころ満載のゆるい、ハッピーエンドの短編なので、気軽に読んでいただければ嬉しいです。 完結しました。 小説家になろう様にも投稿しています。 小説家になろう様への投稿時から、タイトルを『借り物(人)競争』からただの『借り物競争』へ変更いたしました。

【完結】新皇帝の後宮に献上された姫は、皇帝の寵愛を望まない

ユユ
恋愛
周辺諸国19国を統べるエテルネル帝国の皇帝が崩御し、若い皇子が即位した2年前から従属国が次々と姫や公女、もしくは美女を献上している。 既に帝国の令嬢数人と従属国から18人が後宮で住んでいる。 未だ献上していなかったプロプル王国では、王女である私が仕方なく献上されることになった。 後宮の余った人気のない部屋に押し込まれ、選択を迫られた。 欲の無い王女と、女達の醜い争いに辟易した新皇帝の噛み合わない新生活が始まった。 * 作り話です * そんなに長くしない予定です

私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。

石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。 自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。 そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。 好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。 この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

処理中です...