そのまま悪役令嬢についていって大丈夫ですよ。溺愛してくれない貴方と別れるために悪役令嬢と結託したことを彼は知らない

朱之ユク

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悪役令嬢ありがとう!

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「スカーレット。貴様とは婚約破棄をする!」

 学校の舞踏会。
 卒業の大切な時にスカーレットは静かにそう宣告された。
 婚約破棄を宣言したのはグレイ・フォン・ラスター。
 公爵家の貴族で非常に強い権力を時期に受け継ぐと噂されている、貴族の中でもくらいが高い男だった。そんな男から婚約破棄をされてしまった。
 他の生徒はスカーレットのことを哀れみの目を向ける……ということはなくどこかの楽しそうに見ていた。

「グレイ。本当に私と婚約破棄をしてもいいのですか?」

 スカーレットにとってみれば今の質問は最終通告だ。
 本当に婚約破棄をするのか。
 今ならばまだなかったことにできるというスカーレットからの優しさ。
 もちろんそれはあくまで形式的なもので、スカーレットの本心から言えばそんなことは言いたくなかった。

「当たり前だ。貴様とは婚約破棄をして、私は新しくアンジェリカを妻に迎えることにする!」

 しかし、グレイがそんな思いをくみ取れるはずもなくその宣告を見事にスルーしてしまった。

(こんなにバカだとは思わなかったんだけど)

「あら、そんなものはアンジェリカの了承がなければだめでしょう? だって婚約なのですから」
「ふっ。貴様は知らんだろうがアンジェリカは俺のことが好きなんだ。そんな彼女が俺との結婚を断るはずがない」

 よっぽどの自信なんだろう。
 本当に了承されるかなんて分からないのに、勝手にそんなことを言っても仕方ないだろう。

「アンジェリカ出てこい」
「はい、グレイ様」

 見事に美しく着飾ったアンジェリカを見て、なんて美しいんだろうかと思った。

「お前はアンジェリカのことを悪役令嬢だと罵っていたな。だが、実際にはそんなことは無かった。アンジェリカは一人の美しいバラだった。多少棘はあるが立派なレディだ。そして、これからの人生を俺と共に歩むものだ」

(ああ、本当になんてばかなんだろう。私の嘘を完璧に信じている)

「アンジェリカ。僕と結婚してくれるか?」

(アンジェリカは私と内通しているスパイなのに)

 ニヤッと不自然に口角が上がってしまった。

「いいえ、お断りします」

 きっとグレイには想像もできなかっただろう。
 アンジェリカが婚約を受けないなどとは絶対に思わなかったはずだ。

 理解できない顔をしているグレイに一言、

「みじめですね」

 アンジェリカの心ない一言が突き刺さった。

 その言葉が受け止め切れなかったんだろう。グレイは逃げるように会場から出ていった。
 ぱちぱちと盛大な拍手が起きて、私たちは一つの盛大な演技が終わったことを喜んだ。

「スカーレット。私の悪役令嬢の演技はどうだった?」
「それはもう最高だったわよ」

 スカーレットとアンジェリカが親友だということは皆が知っている事実。
 知らなかったのはあの男くらいだ。
 これまでのくだりで分かる通り、婚約者に対するモラハラ。それが耐えきれなくなって、わざと別れるために親友と一芝居売ったのだ。
 そして、それは成功した。
 周りの生徒もうすうす気づいていたのだろう。
 こんなにも温かな拍手をしているのだから。

(へんな男と別れられたし、私はこれから幸せになります)

 スカーレットの人生は今ここから始まった。
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