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副業開始します
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翌日。
「いたたたた!」
筋肉痛が酷い。こんな状況では副業どころではない。
椅子に座ることすらできないほど足を酷使した私は友達と一緒にカフェに来ているのに、まったく楽しめていない。
「だいじょうぶ? そんなに大変だったんだ?」
優しい声掛けをしていると思ったでしょ。
だけど、全然優しくはない。あれは完全に私のことを面白いものを見る目で見ている。
友人の名前はアイナだ。今まで通っていた学校の同級生で私の友達の一人でもある。
いや、彼女のことを友達を言ってもいいのだろうか?
多分大丈夫だろう。
さすがに私の不幸を笑うような人間ではないと思うから、そう信じたい。
「そうだよ。あれは酷すぎる。給料は低いし、重労働だし、それに付け加えて同僚はナンパばっかりしてくるしで本当に大変だったのよ!」
「あっはっはっは! ウケる! 面白過ぎるじゃん」
笑ったな、アイナ!
こいつはもしかしたら友達じゃなかったかもしれない。
だめだ。こいつって言ったらダメだ。嫌われてしまうかもしれない。私はすでに嫌いになりかけているけど。
「あなたあんなにサンタに憧れて、私は絶対にサンタクロースになるんだって意気込んでたのに一回経験したらそれなの? マジでウケるんだけど」
笑うなよ。
私がみっともないじゃん。
「くっ、この筋肉痛は名誉の損傷。仕方ないから受け入れるわ。そうだ。あなたも一緒にサンタをしましょうよ」
バカにした報いを受けさせてやる。
「無理無理。私たちこんなに高学歴なのに、わざわざ肉体労働する意味ないし、サンタなんて必要なくない? わざわざサンタが動くよりも、親が子供に買い与えれば全部解決……」
「ストーップ! ダメだよ。そこから先を言ったら私はあなたを許せないわ! サンタが必要ないなんて許せないの!」
「ごめんって」
また面倒くさそうにして……どうしてみんなサンタの良さを理解してくれないんだ、ってそんなことを話しに来たのではなかった。
「ねえ、アイナ。私の友達として聞いてほしいの」
「はあ? 何で友達なの?」
「……ごめんなさい。私の同級生として聞いてほしいの」
「違うって、そこは親友でしょ? ただの友達と一緒にしないで」
ただの親友のくせに私の不幸を笑うなよ。
いや違う。アイナといると話がどんどん脱線してしまう。
「私はサンタの仕事のほかに副業をしようと思っているの」
「へえ、サンタって副業オッケイなんだ。いい職場よね」
「いえ、もちろん副業は禁止されているわ」
「じゃあ、ダメじゃん」
そんなことはすでに分かっている。だけど、ルールを破らないと幸せになれないことだってあるんだ。
「ダメなのは理解しているけど、どうしても他に仕事がしたいのよ。サンタだけなんて最悪です。私の貴重な人生が奪われていくわ」
「……一年のうち一日だけ働けばいい。給料も若手の平均くらいは出る。残りの日は訓練するも休むも自由。そんな仕事でよく副業したいと思えるわね」
なにも知らないアイナには理解できないんだろう。
このサンタという職業のブラックさを。
「分からないなら分からせてやるわ」
「えっ! 分からせはホテルでお願い!」
そう言う意味じゃない。本当に話が進まない。
「一年のうち一日以外は働かなくていいっていうのは逆に言えば、一年のうち364日くらいは暇なのよ。ゲームも小説も映画も一か月暇だったら制覇できるわ」
「そう? 私は読み足りない本とかたくさんあるんだけど」
「それは働いて忙しいからよ。一日中暇なんだから絶対にすぐに読み終わるわ。というか前に事故で入院した時も暇すぎて大変だったわ」
「たしかにあの時は空想の友達に話しかけていたからね」
「そのことは忘れて!」
あんなに恥ずかしいことは無かったんです。
だから、もう忘れてください、お願いします。
「それに年収は300万。一か月およそ20万ちょい。遊ぼうと思っても贅沢できないくらいの年収で、しかも昇給はそこまでない。だから金持ちには絶対になれないわ」
「まあ、それはそうなの? 結構いいと思うんだけど」
アイナは別に金持ちになれなくても幸せになれると思っている。だけど、それはサンタではないから。
「サンタはトナカイの維持費にプレゼント入れの魔法の袋の費用が自己負担なの。上は助けてくれないの」
女の私はトナカイに乗れないとはいえ、トナカイに荷物を持たせるくらいなら認められている。そうなったら、トナカイの食費、病気にかかった時は病院代、トナカイの寿命は十歳くらいと言われているから8年もしたらおいて動けなくなってしまう。その時に新しいトナカイの購入費。
どれもこれも自分一人だけの出費では育てきれない。せめて、トナカイの維持費くらいは偉いサンタが払ってくれてもいいだろうに、そんなことは誰もしようと思っていなかった。
「あなたには分からないでしょ? 王国の王宮に努めているあなたにはそんなこと理解できないでしょ。福利厚生がしっかりしている場所で働いているあなたには理解できないでしょ!」
「うるっさいわね! そんなに言うならサンタなんてやめればいいじゃない」
「いや! 私の憧れなの! ようやくつかんだ夢なの。手放したくないの!」
「それじゃあ、黙って冒険者にでもなればいいじゃない。モンスターを適当に狩って、ぼろもうけすればいいじゃない。サンタに成れるくらいの運動神経があるならきっと冒険者になっても成功できるわよ」
……私が冒険者なんかに成れるわけが……いや、案外いい案かもしれない。たしかに私は冒険者という職業が向いているかもしれない。
「分かったわ、アイリ! 私冒険者になる!」
「え? 今のは完全に冗談なんだけど」
ものすごくいい案を教えてくれた。確かに冒険者になってぼろ儲けすればいい。副業禁止だからできるだけバレないように冒険者をしてトナカイを買えるくらいにお金を稼いでサンタクロース家業をこなそう。
これぞ完璧な人生設計だ。
「ありがとうアイリ! 私頑張ってみる!」
「ちょっとまちなさい」
その言葉を無視して椅子から立ち上がった。
「大丈夫だよ。私だってしっかり冒険者出来るんだから! 死なない程度に頑張るから」
「そう言う意味じゃなくて、あなた今筋肉痛だから……ほら、言ったじゃない」
私は大きな痛みを足に感じて、バランスを崩して倒れ込んでしまった。
涙なんか流してないからね。別に痛くもかゆくもなんだから。
「そんなんで冒険者なんて本当にできるのかな?」
「バカにするな」
こうなったら意地でも冒険者になってやる。
聖夜祭の美少女サンタクロースだけど夏の間くらいはギルドの剣士になってやる!
「いたたたた!」
筋肉痛が酷い。こんな状況では副業どころではない。
椅子に座ることすらできないほど足を酷使した私は友達と一緒にカフェに来ているのに、まったく楽しめていない。
「だいじょうぶ? そんなに大変だったんだ?」
優しい声掛けをしていると思ったでしょ。
だけど、全然優しくはない。あれは完全に私のことを面白いものを見る目で見ている。
友人の名前はアイナだ。今まで通っていた学校の同級生で私の友達の一人でもある。
いや、彼女のことを友達を言ってもいいのだろうか?
多分大丈夫だろう。
さすがに私の不幸を笑うような人間ではないと思うから、そう信じたい。
「そうだよ。あれは酷すぎる。給料は低いし、重労働だし、それに付け加えて同僚はナンパばっかりしてくるしで本当に大変だったのよ!」
「あっはっはっは! ウケる! 面白過ぎるじゃん」
笑ったな、アイナ!
こいつはもしかしたら友達じゃなかったかもしれない。
だめだ。こいつって言ったらダメだ。嫌われてしまうかもしれない。私はすでに嫌いになりかけているけど。
「あなたあんなにサンタに憧れて、私は絶対にサンタクロースになるんだって意気込んでたのに一回経験したらそれなの? マジでウケるんだけど」
笑うなよ。
私がみっともないじゃん。
「くっ、この筋肉痛は名誉の損傷。仕方ないから受け入れるわ。そうだ。あなたも一緒にサンタをしましょうよ」
バカにした報いを受けさせてやる。
「無理無理。私たちこんなに高学歴なのに、わざわざ肉体労働する意味ないし、サンタなんて必要なくない? わざわざサンタが動くよりも、親が子供に買い与えれば全部解決……」
「ストーップ! ダメだよ。そこから先を言ったら私はあなたを許せないわ! サンタが必要ないなんて許せないの!」
「ごめんって」
また面倒くさそうにして……どうしてみんなサンタの良さを理解してくれないんだ、ってそんなことを話しに来たのではなかった。
「ねえ、アイナ。私の友達として聞いてほしいの」
「はあ? 何で友達なの?」
「……ごめんなさい。私の同級生として聞いてほしいの」
「違うって、そこは親友でしょ? ただの友達と一緒にしないで」
ただの親友のくせに私の不幸を笑うなよ。
いや違う。アイナといると話がどんどん脱線してしまう。
「私はサンタの仕事のほかに副業をしようと思っているの」
「へえ、サンタって副業オッケイなんだ。いい職場よね」
「いえ、もちろん副業は禁止されているわ」
「じゃあ、ダメじゃん」
そんなことはすでに分かっている。だけど、ルールを破らないと幸せになれないことだってあるんだ。
「ダメなのは理解しているけど、どうしても他に仕事がしたいのよ。サンタだけなんて最悪です。私の貴重な人生が奪われていくわ」
「……一年のうち一日だけ働けばいい。給料も若手の平均くらいは出る。残りの日は訓練するも休むも自由。そんな仕事でよく副業したいと思えるわね」
なにも知らないアイナには理解できないんだろう。
このサンタという職業のブラックさを。
「分からないなら分からせてやるわ」
「えっ! 分からせはホテルでお願い!」
そう言う意味じゃない。本当に話が進まない。
「一年のうち一日以外は働かなくていいっていうのは逆に言えば、一年のうち364日くらいは暇なのよ。ゲームも小説も映画も一か月暇だったら制覇できるわ」
「そう? 私は読み足りない本とかたくさんあるんだけど」
「それは働いて忙しいからよ。一日中暇なんだから絶対にすぐに読み終わるわ。というか前に事故で入院した時も暇すぎて大変だったわ」
「たしかにあの時は空想の友達に話しかけていたからね」
「そのことは忘れて!」
あんなに恥ずかしいことは無かったんです。
だから、もう忘れてください、お願いします。
「それに年収は300万。一か月およそ20万ちょい。遊ぼうと思っても贅沢できないくらいの年収で、しかも昇給はそこまでない。だから金持ちには絶対になれないわ」
「まあ、それはそうなの? 結構いいと思うんだけど」
アイナは別に金持ちになれなくても幸せになれると思っている。だけど、それはサンタではないから。
「サンタはトナカイの維持費にプレゼント入れの魔法の袋の費用が自己負担なの。上は助けてくれないの」
女の私はトナカイに乗れないとはいえ、トナカイに荷物を持たせるくらいなら認められている。そうなったら、トナカイの食費、病気にかかった時は病院代、トナカイの寿命は十歳くらいと言われているから8年もしたらおいて動けなくなってしまう。その時に新しいトナカイの購入費。
どれもこれも自分一人だけの出費では育てきれない。せめて、トナカイの維持費くらいは偉いサンタが払ってくれてもいいだろうに、そんなことは誰もしようと思っていなかった。
「あなたには分からないでしょ? 王国の王宮に努めているあなたにはそんなこと理解できないでしょ。福利厚生がしっかりしている場所で働いているあなたには理解できないでしょ!」
「うるっさいわね! そんなに言うならサンタなんてやめればいいじゃない」
「いや! 私の憧れなの! ようやくつかんだ夢なの。手放したくないの!」
「それじゃあ、黙って冒険者にでもなればいいじゃない。モンスターを適当に狩って、ぼろもうけすればいいじゃない。サンタに成れるくらいの運動神経があるならきっと冒険者になっても成功できるわよ」
……私が冒険者なんかに成れるわけが……いや、案外いい案かもしれない。たしかに私は冒険者という職業が向いているかもしれない。
「分かったわ、アイリ! 私冒険者になる!」
「え? 今のは完全に冗談なんだけど」
ものすごくいい案を教えてくれた。確かに冒険者になってぼろ儲けすればいい。副業禁止だからできるだけバレないように冒険者をしてトナカイを買えるくらいにお金を稼いでサンタクロース家業をこなそう。
これぞ完璧な人生設計だ。
「ありがとうアイリ! 私頑張ってみる!」
「ちょっとまちなさい」
その言葉を無視して椅子から立ち上がった。
「大丈夫だよ。私だってしっかり冒険者出来るんだから! 死なない程度に頑張るから」
「そう言う意味じゃなくて、あなた今筋肉痛だから……ほら、言ったじゃない」
私は大きな痛みを足に感じて、バランスを崩して倒れ込んでしまった。
涙なんか流してないからね。別に痛くもかゆくもなんだから。
「そんなんで冒険者なんて本当にできるのかな?」
「バカにするな」
こうなったら意地でも冒険者になってやる。
聖夜祭の美少女サンタクロースだけど夏の間くらいはギルドの剣士になってやる!
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