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サンタクロース面接
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子供のころからサンタクロースに憧れていた。
聖夜祭の日に家にやってきてものすごい手際でプレゼントを置いていく、サンタ。
雪が降り積もる中トナカイに引かれて走るという幻想的なサンタ。
多くの子供たちを笑顔にしてくれる素敵なサンタ。
赤と白のトレードマークを身に着けながら、緑や金色、赤色にイルミネーションされる街を疾走するサンタ。
そのすべてが私の心にクリーンヒットした。毎年、聖夜祭の季節になれば映像機の前に貼りついて聖夜祭のアニメを楽しんでいるのは私にとってのルーティーンだ。十六になった今でもそれは変わらない。他のどんな行事であっても私はサンタクロースと聖夜祭が大好きだった。
それは今も衰えることのない願望として私の胸の中に渦巻いている。
「よろしくお願いします」
「はい、よろしくね。セイラちゃんって言うんだね」
外では雪が降り注ぐ中、部屋に入っていく。暖房がついている温かい部屋の中にはクリスマスツリーが飾られていて、今年も聖夜祭の到来を感じさせる。
ああ、私は今聖夜祭に囲まれているのだ。なんて幸せなんだろうか。
そして、この面接に受かればもっと幸せになることができる。
子供のころからの憧れをついに手にすることができるんだから。
「ああ、座っていいよ」
「ありがとうございます」
「それでサンタクロース面接を始めたいと思います。よろしくね」
「はい! よろしくお願いします」
私の憧れのサンタクロース。
今日はそんなサンタになることができるかもしれない特別な日だ。
私がサンタクロース面接に応募できるなんて思いもしなかった。私はとんでもない幸せ者だ。
「それじゃあ、まずは……すごいねセイラちゃん。こんなにいい学校を卒業する予定なんだ? よく頑張っているじゃないか。サンタたちも高学歴は歓迎するよ」
「はい、ありがとうございます!」
面接における必殺技。
それは高い学歴。
これさえ持っていれば大抵の会社には入ることができる。
あんまり高すぎると逆に嫌煙されると聞いたことが有るけど、少なくともサンタの業界ではそんなことは無かった。
心がドキドキしちゃいそうになる。
こんなにも勉強を頑張った過去の自分を褒めてあげたくなるとは思わなかった。
(よく頑張ったね、私。よしよし)
セイラだってこの学歴を手に入れるために大変な努力を積み重ねてきたのだ。毎日血反吐を吐きながら勉強をして、塾に行き、学校で内職をして恐ろしいほどの努力で今の学校に入学することができた。
勉強しているときは一体こんなものが将来何の役に立つんだ?!と発狂しそうになったことも一度や二度ではないが、この努力はきちんと実ってくれたらしい。
学生のみんな。
今自分のしていることが何の役に立つが分からなくなる時が必ずやってくると思う。
だけど、これだけは断言して置こうじゃないか。
「サンタクロースになるために勉強を頑張ったんです」
高学歴ならサンタに成れる!
この事実があるだけでしっかりと勉強に頑張れるだろう。
「いいね! そんなにサンタが好きなら君にはぜひともここで働いてほしいよ」
「! お願いします!」
好調だ。
この面接サンタもきっと私のことを良いように思ってくれているに違いない。
「それに君は可愛らしいからね。サンタが家にやってきたときも子供の夢を壊さないで済むよ」
……ルッキズム?
サンタって外見とか必要なの?
私は心の中に生まれた違和感を無視して、さっさといい印象を残そうとする。今だって面接サンタは私の表情を見てい……見てない。
私の胸とかお尻の方に目線が言っている。
気持ちはわかるよ?
私って人にすごいって言われるような体型しているし、見たくなる気持ちはわかるよ? でもそんな目をしてみることは無いんじゃないかな。
ちょっとキモイ。
「素晴らしい。君なら美少女サンタとして人気が出るはずだ」
「び、美少女サンタ?」
「……ああ、今の君には関係ないよ。安心してくれ」
「は、はい」
ちょっと変な感じがするけれども、これもサンタに成るためだ。憧れのものに手が届くのにサンタに成らない理由がない。
どうせ白いひげをつけて、帽子をかぶって、赤い服を着るんだから外見なんて関係ない。子供たちが寝付くのを待つんだから外見なんて関係ない。
私の顔がかわいいとか体が素敵とかはあの面接をしているサンタが勝手に言っているだけだ。
きっと私のサンタの仕事には一つも関係はないだろう。
……仕事に関係ないのに、私の体を見ていたのはだいぶキモいけどサンタに成るためだったら問題はない。
見ていろ、世界!
慄け、友よ!
サンタに成りたいと言ったらみんな私のことをバカにしてきたけど、私は今本当にサンタに成ることができる。
「分かった。セイラちゃん。君は合格だ。もうあと少しで聖夜祭が始まるから、君は今年、ただのサンタクロースとして活動してくれ」
今年は? ただのサンタクロース?
なんだか本当に言い方が引っ掛かるけど、憧れのサンタに成れたんだし、まあいいや。どうせサンタショーでもするんだろう。
「いろいろと条件を言うけど、サンタは一回の仕事で給料が300万。そして、副業は禁止だ。分かったね」
「はい!」
たった一回仕事をするだけでなんと300万も貰える。それなら副業が禁止というのも頷ける。
そもそもサンタに憧れてこの業界に入ったのに、副業するとかありえない。副業して本業に迷惑かける気はサラサラない。
私はただ自分の仕事に全うしていればいいだけなんだ。
よし、今度からの仕事を頑張るぞ!
私はこの時サンタという職業がどれだけブラックなものかまったく理解していなかった。
聖夜祭の日に家にやってきてものすごい手際でプレゼントを置いていく、サンタ。
雪が降り積もる中トナカイに引かれて走るという幻想的なサンタ。
多くの子供たちを笑顔にしてくれる素敵なサンタ。
赤と白のトレードマークを身に着けながら、緑や金色、赤色にイルミネーションされる街を疾走するサンタ。
そのすべてが私の心にクリーンヒットした。毎年、聖夜祭の季節になれば映像機の前に貼りついて聖夜祭のアニメを楽しんでいるのは私にとってのルーティーンだ。十六になった今でもそれは変わらない。他のどんな行事であっても私はサンタクロースと聖夜祭が大好きだった。
それは今も衰えることのない願望として私の胸の中に渦巻いている。
「よろしくお願いします」
「はい、よろしくね。セイラちゃんって言うんだね」
外では雪が降り注ぐ中、部屋に入っていく。暖房がついている温かい部屋の中にはクリスマスツリーが飾られていて、今年も聖夜祭の到来を感じさせる。
ああ、私は今聖夜祭に囲まれているのだ。なんて幸せなんだろうか。
そして、この面接に受かればもっと幸せになることができる。
子供のころからの憧れをついに手にすることができるんだから。
「ああ、座っていいよ」
「ありがとうございます」
「それでサンタクロース面接を始めたいと思います。よろしくね」
「はい! よろしくお願いします」
私の憧れのサンタクロース。
今日はそんなサンタになることができるかもしれない特別な日だ。
私がサンタクロース面接に応募できるなんて思いもしなかった。私はとんでもない幸せ者だ。
「それじゃあ、まずは……すごいねセイラちゃん。こんなにいい学校を卒業する予定なんだ? よく頑張っているじゃないか。サンタたちも高学歴は歓迎するよ」
「はい、ありがとうございます!」
面接における必殺技。
それは高い学歴。
これさえ持っていれば大抵の会社には入ることができる。
あんまり高すぎると逆に嫌煙されると聞いたことが有るけど、少なくともサンタの業界ではそんなことは無かった。
心がドキドキしちゃいそうになる。
こんなにも勉強を頑張った過去の自分を褒めてあげたくなるとは思わなかった。
(よく頑張ったね、私。よしよし)
セイラだってこの学歴を手に入れるために大変な努力を積み重ねてきたのだ。毎日血反吐を吐きながら勉強をして、塾に行き、学校で内職をして恐ろしいほどの努力で今の学校に入学することができた。
勉強しているときは一体こんなものが将来何の役に立つんだ?!と発狂しそうになったことも一度や二度ではないが、この努力はきちんと実ってくれたらしい。
学生のみんな。
今自分のしていることが何の役に立つが分からなくなる時が必ずやってくると思う。
だけど、これだけは断言して置こうじゃないか。
「サンタクロースになるために勉強を頑張ったんです」
高学歴ならサンタに成れる!
この事実があるだけでしっかりと勉強に頑張れるだろう。
「いいね! そんなにサンタが好きなら君にはぜひともここで働いてほしいよ」
「! お願いします!」
好調だ。
この面接サンタもきっと私のことを良いように思ってくれているに違いない。
「それに君は可愛らしいからね。サンタが家にやってきたときも子供の夢を壊さないで済むよ」
……ルッキズム?
サンタって外見とか必要なの?
私は心の中に生まれた違和感を無視して、さっさといい印象を残そうとする。今だって面接サンタは私の表情を見てい……見てない。
私の胸とかお尻の方に目線が言っている。
気持ちはわかるよ?
私って人にすごいって言われるような体型しているし、見たくなる気持ちはわかるよ? でもそんな目をしてみることは無いんじゃないかな。
ちょっとキモイ。
「素晴らしい。君なら美少女サンタとして人気が出るはずだ」
「び、美少女サンタ?」
「……ああ、今の君には関係ないよ。安心してくれ」
「は、はい」
ちょっと変な感じがするけれども、これもサンタに成るためだ。憧れのものに手が届くのにサンタに成らない理由がない。
どうせ白いひげをつけて、帽子をかぶって、赤い服を着るんだから外見なんて関係ない。子供たちが寝付くのを待つんだから外見なんて関係ない。
私の顔がかわいいとか体が素敵とかはあの面接をしているサンタが勝手に言っているだけだ。
きっと私のサンタの仕事には一つも関係はないだろう。
……仕事に関係ないのに、私の体を見ていたのはだいぶキモいけどサンタに成るためだったら問題はない。
見ていろ、世界!
慄け、友よ!
サンタに成りたいと言ったらみんな私のことをバカにしてきたけど、私は今本当にサンタに成ることができる。
「分かった。セイラちゃん。君は合格だ。もうあと少しで聖夜祭が始まるから、君は今年、ただのサンタクロースとして活動してくれ」
今年は? ただのサンタクロース?
なんだか本当に言い方が引っ掛かるけど、憧れのサンタに成れたんだし、まあいいや。どうせサンタショーでもするんだろう。
「いろいろと条件を言うけど、サンタは一回の仕事で給料が300万。そして、副業は禁止だ。分かったね」
「はい!」
たった一回仕事をするだけでなんと300万も貰える。それなら副業が禁止というのも頷ける。
そもそもサンタに憧れてこの業界に入ったのに、副業するとかありえない。副業して本業に迷惑かける気はサラサラない。
私はただ自分の仕事に全うしていればいいだけなんだ。
よし、今度からの仕事を頑張るぞ!
私はこの時サンタという職業がどれだけブラックなものかまったく理解していなかった。
応援ありがとうございます!
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