メイクした顔なんて本当の顔じゃないと婚約破棄してきた王子に、本当の顔を見せてあげることにしました。

朱之ユク

文字の大きさ
上 下
1 / 1

今更そんなことを言われても困ります。

しおりを挟む
「スカーレット。本当にメイクをしなくてもいいんですか? あなたは昔からメイクが大の大好きだったではありませんか?」
「いいんです。たまには自分の裸のままでいる顔を見せないといけませんからね」

(特にあの最低王子パックスには)

 スカーレットは心に決めて、王宮の扉を開けて押し開いた。そこには豪華絢爛な人間たちがたくさんいるが、中でも目立つのはこの国の王子であり、つい先日まではスカーレットの婚約者であった、パックスだ。
 顔立ちは悔しいけれど破壊的なイケメンだが、正確に壊滅的な不細工だ。

(なんだって、私のことを先日の舞踏会でメイクで顔を隠している女とは仲良くできないと振った挙句に、他の女といちゃついていたクズなんだから)

 スカーレットはパックスが他の女と見せつけられるのはまだしも、パックスが遊んでいた女がバレないようにメイクをしていたのが本当に気に食わない。
 思い知らせてやる、スカーレットの本当の実力を!

「よく来てくれた、スカーレット嬢。この度は我が息子の犯したことをどうか許して欲しい」

 スカーレットはいきなり面食らってしまった。

(どうしてパックスじゃなくて悪くない国王が謝るのよ。これで許さなかったら私の印象の方が悪くなるじゃない)

 当の本人のパックスはアホみたいに口を開いてあくびをしているというのに、どうして国王が代わりに謝っているというのか?
 スカーレットにはそれが許せなかった。

「公爵家と王家のとの結びつきを強くするために行われたこの婚姻の役割を理解せずにバカなことをした息子のことはすでに𠮟りつけている。どうか、これでこの件は許して欲しい」

 さすがのスカーレットも現国王にそこまで言われたら許さないわけにはいかない。スカーレットは言葉を言うとしたその瞬間だった。

「お父様。いったいどうしてこんな女相手に頭を下げいるというのだ。そんなことをしたらお父様の名誉が傷付けられてしまう」

 パックスが阿保そうな口を開いて、そんなことを言ったのだ。
 さすがにこの発言にはこの場にいるもの全員が口を開かざる終えなかった。

(この男。自分のしでかしたことが理解できていないの? 信じられない)

 公爵家という王家に最も近いものと王家との婚姻。
 血の結びつきを強めるために婚姻をくしゃくしゃにしたというのに、どうしてこの男はこんな風に普通そうな顔でいられるのだろうか?

「だいたい。スカーレットも悪いのだ。婚約破棄される方にも原因がある。そんなことも分からないのか?」
「パックス。お前はすこし黙っている」
「まあ、スカーレットはいつもメイクなんてして本当の自分の顔を見せれない臆病者だからな。こんなことは想定済みだよ」
「……」

(たしかに今まではパックスの言うことを否定なんてしてこなかったし、自分の本心を見せたこともない。だけど、それはこれからの結婚生活を快適に送るためのことだし、パックスの言うように私が臆病者だからだなんて言いがかりだ)

 スカーレットとしてはそんなことも理解していないパックスに嫌気がさしてくるころだ。

(どうして、こんな男と結婚する羽目になったんだろう? まあ、いいや。今日の私は一味違うしね)

「パックス王子。婚約破棄される方にも原因があるというのは確かにその通りかもしれません」
「? 久しぶりに口を開いたかと思ったら、ようやく自分の罪を認めたな。さっさとその通りにしていれば」
「たとえば、考えられる原因としては私はパックスを王子よりもあらゆる分野において上の成績を取っていることでしょうか? それとも私にみんなの前で敗北してしまったことですか? 私にはかんがえつく理由がたくさんあり過ぎて、どれに絞ればいいのか見当もつきません」
「なっ! 貴様バカにしているのか?」
「たとえば、もしかしたらパックス王子は何をするにしても私に勝つことができないので、私に対して劣等感を抱いていたのかもしれません。負けず嫌いなパックス王子のことですからね。きっと私に負け続けるのが嫌だったのでしょう」
「ふざけるな! スカーレット!」

 大勢の前で激昂して私に向かってくるパックス。しかし。

「ふざけているのはお前だ! パックス! お前は一体どこまで恥をかけば気が済む! こんな大勢の前で恥をさらして! もう一度言う! ふざけているのはお前だ!」
「お、お父様!」

 国王が切れるのが先だった。

「そういえば先ほど、私に対してメイクなんてしている臆病者と言いましたね? だから、特別に今日はメイクをしないことにしたんです。良かったですね? 珍しい私の素顔ですよ」
「そ、そんな。メイクをしているときと同じくらいきれいじゃないか」

(そんなことに今更気づいたのね?)

 スカーレットからしてみればバカな話だった。

「あと。あなたが結婚するつもりだったあの女の子。あの子は私よりももっとメイクをしていますよ」
「あ、あり得ない!」

(ふっ! みじめな顔)

 そうして、一日が終わっていく。
 
(メイクをしているから本当はかわいくないなんて言いがかりはつけないで欲しいわ。私だって可愛くなる努力を重ねているんだからね)

 家に帰ったら早くメイクをしようと思った。

(自分が可愛くなるならそれで万事オッケイ!)

 そうして、今回の騒動は幕を下ろした。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢の私が転校生をイジメたといわれて断罪されそうです

白雨あめ
恋愛
「君との婚約を破棄する! この学園から去れ!」 国の第一王子であるシルヴァの婚約者である伯爵令嬢アリン。彼女は転校生をイジメたという理由から、突然王子に婚約破棄を告げられてしまう。 目の前が真っ暗になり、立ち尽くす彼女の傍に歩み寄ってきたのは王子の側近、公爵令息クリスだった。 ※2話完結。

婚約破棄ですか? では、この家から出て行ってください

八代奏多
恋愛
 伯爵令嬢で次期伯爵になることが決まっているイルシア・グレイヴは、自らが主催したパーティーで婚約破棄を告げられてしまった。  元、婚約者の子爵令息アドルフハークスはイルシアの行動を責め、しまいには家から出て行けと言うが……。  出ていくのは、貴方の方ですわよ? ※カクヨム様でも公開しております。

【完結】私の馬鹿な妹~婚約破棄を叫ばれた令嬢ですが、どうも一味違うようですわ~

鏑木 うりこ
恋愛
 エリーゼ・カタリナ公爵令嬢は6歳の頃からこの国の王太子レオールと婚約をしていた。 「エリーゼ・カタリナ!お前との婚約を破棄し、代わりに妹のカレッタ・カタリナと新たに婚約を結ぶ!」  そう宣言されるも、どうもこの婚約破棄劇、裏がありまして……。 ☆ゆるっとゆるいショートになります( *´艸`)ぷくー ☆ご都合主義なので( *´艸`)ぷくーと笑ってもらえたら嬉しいなと思います。 ☆勢いで書きました( *´艸`)ぷくー ☆8000字程度で終わりますので、日曜日の暇でも潰れたら幸いです( *´艸`)

婚姻破棄された私は第一王子にめとられる。

さくしゃ
恋愛
「エルナ・シュバイツ! 貴様との婚姻を破棄する!」  突然言い渡された夫ーーヴァス・シュバイツ侯爵からの離縁要求。    彼との間にもうけた息子ーーウィリアムは2歳を迎えたばかり。  そんな私とウィリアムを嘲笑うヴァスと彼の側室であるヒメル。  しかし、いつかこんな日が来るであろう事を予感していたエルナはウィリアムに別れを告げて屋敷を出て行こうとするが、そんなエルナに向かって「行かないで」と泣き叫ぶウィリアム。 (私と一緒に連れて行ったら絶対にしなくて良い苦労をさせてしまう)  ドレスの裾を握りしめ、歩みを進めるエルナだったが…… 「その耳障りな物も一緒に摘み出せ。耳障りで仕方ない」  我が子に対しても容赦のないヴァス。  その後もウィリアムについて罵詈雑言を浴びせ続ける。  悔しい……言い返そうとするが、言葉が喉で詰まりうまく発せられず涙を流すエルナ。そんな彼女を心配してなくウィリアム。  ヴァスに長年付き従う家老も見ていられず顔を逸らす。  誰も止めるものはおらず、ただただ罵詈雑言に耐えるエルナ達のもとに救いの手が差し伸べられる。 「もう大丈夫」  その人物は幼馴染で6年ぶりの再会となるオーフェン王国第一王子ーーゼルリス・オーフェンその人だった。  婚姻破棄をきっかけに始まるエルナとゼルリスによるラブストーリー。

家族から見放されましたが、王家が救ってくれました!

マルローネ
恋愛
「お前は私に相応しくない。婚約を破棄する」  花嫁修業中の伯爵令嬢のユリアは突然、相応しくないとして婚約者の侯爵令息であるレイモンドに捨てられた。それを聞いた彼女の父親も家族もユリアを必要なしとして捨て去る。 途方に暮れたユリアだったが彼女にはとても大きな味方がおり……。

幼馴染に裏切られた私は辺境伯に愛された

マルローネ
恋愛
伯爵令嬢のアイシャは、同じく伯爵令息であり幼馴染のグランと婚約した。 しかし、彼はもう一人の幼馴染であるローザが本当に好きだとして婚約破棄をしてしまう。 傷物令嬢となってしまい、パーティなどでも煙たがられる存在になってしまったアイシャ。 しかし、そこに手を差し伸べたのは、辺境伯のチェスター・ドリスだった……。

【完結】婚約破棄されるはずが、婚約破棄してしまいました

チンアナゴ🐬
恋愛
「お前みたいなビッチとは結婚できない!!お前とは婚約を破棄する!!」 私の婚約者であるマドラー・アドリード様は、両家の家族全員が集まった部屋でそう叫びました。自分の横に令嬢を従えて。

僕を拾ってくれた義姉さんが王太子に婚約破棄を言い渡されています、呪っていいですよね。

克全
恋愛
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に投稿しています。

処理中です...