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4-③:愛のカタチ
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有川樹はその日生まれて初めて遅刻した。愛用の腕時計が気付かない内に止まっていた為だ。閉まった正門を前に、途方に暮れていると後ろから軽快な足音がして、ガシャンッと何かが正門に跳び付いて、ひょいと樹の頭上で軽々と正門を乗り越えていった。
「……」
その様を呆然と見つめる樹。スタンッと両の足で学校の敷地内に降り立った女子生徒は振り返って樹を一瞥する。そして正門脇の通用口を内側から開けて、そこからか細く白い手で、ちょいちょいと手招きした。これが芝野美咲との出会いである。
これを切っ掛けに会話を交わす訳ではなかったが、樹は普通科に在籍する美咲の存在を意識するようになった。その想いは、自分に無いものに惹かれる恋心へと育っていった。
一世一代の告白をした時、美咲は樹との面識を覚えておらず、それこそキョトンと目を丸くした。そんな訳で、後日承諾の返事を貰えた時は、今度は樹が思わずキョトンと制止した。だが直ぐに沸々と世界を手に入れたような歓びに打ち震えた。
(想像した通り彼女は表情豊かで、そして素直に真っ直ぐ僕に心を捧げてくれた。だが、彼女を知れば知る程、彼女の心には僕以外の人間が僕とは違う立ち位置で存在している……)
この事に気付いて以来、樹は美咲の心を信じて疑わないのに、美咲を通してちらつく杉原智紀の影に無意識の内に蝕まれていった。
美咲の心も躰も欲すれば与えて貰えるのに、充足感を得ることが出来ず、焦燥感だけが日に日に募っていった。
そんな心の在り様に心底辟易し、大学の進路選択も迫られ、終に樹は意地悪な質問を美咲に投げ付けた。
「美咲は僕と杉原の二人が崖にぶら下がっていたら、どちらを助けたい?」
「…………」
美咲は答えることが出来なかった。樹はその沈黙を以て美咲との未来を諦めざるを得なかった。
「……」
その様を呆然と見つめる樹。スタンッと両の足で学校の敷地内に降り立った女子生徒は振り返って樹を一瞥する。そして正門脇の通用口を内側から開けて、そこからか細く白い手で、ちょいちょいと手招きした。これが芝野美咲との出会いである。
これを切っ掛けに会話を交わす訳ではなかったが、樹は普通科に在籍する美咲の存在を意識するようになった。その想いは、自分に無いものに惹かれる恋心へと育っていった。
一世一代の告白をした時、美咲は樹との面識を覚えておらず、それこそキョトンと目を丸くした。そんな訳で、後日承諾の返事を貰えた時は、今度は樹が思わずキョトンと制止した。だが直ぐに沸々と世界を手に入れたような歓びに打ち震えた。
(想像した通り彼女は表情豊かで、そして素直に真っ直ぐ僕に心を捧げてくれた。だが、彼女を知れば知る程、彼女の心には僕以外の人間が僕とは違う立ち位置で存在している……)
この事に気付いて以来、樹は美咲の心を信じて疑わないのに、美咲を通してちらつく杉原智紀の影に無意識の内に蝕まれていった。
美咲の心も躰も欲すれば与えて貰えるのに、充足感を得ることが出来ず、焦燥感だけが日に日に募っていった。
そんな心の在り様に心底辟易し、大学の進路選択も迫られ、終に樹は意地悪な質問を美咲に投げ付けた。
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「…………」
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