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調査-事情通◆「月光族はやばいネタだ、一体何に足を突っ込んだ?」
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リドリが狙われたのは、月光族だから、ということらしい。
リドリが実際に月光族なのだというのは信じられる。妙なつかまりかたをしていたうえに、あの時使った魔法だ。
そしてリドリの名乗った名前。
自称だが、千年前から生きているという。
見かけは十四程度のガキのくせに。
しかし、見かけから月光族だとわかるものだろうか。
俺にはわからない。
リドリはごく普通のこましゃくれたガキにしか見えないと思う。
ということは、俺と一緒に月光族がいると知っている奴がいるか、あるいは月光族を探している奴らがいるという事だ。
官憲じゃあない。官憲なら、あんなやり方はしないはずだ。
そこで、俺は月光族の事を知っていそうな奴にあたることにした。
早い話が、情報通にまず尋いてみたんだ。
俺の知ってる情報通は何人かいるが、その一人は身を持ち崩した学者で、今は論文の代筆を仕事にしている。
俺は、その学者崩れ、ミンガスが巣食っている安アパートの扉を叩いた。
まずは紳士的に。
五秒ほど待って、どんどんと。
隣の部屋の扉が開いた。
「うるせえっ」
俺は無言で拳銃を抜き、そいつの頭に銃口を向けた。
すぐにそいつは引っ込んだ。素直な奴だ。
ミンガスはまだ返事をしない。
死んだわけでもあるまい。
俺は思いきり扉を蹴飛ばした。
反対側の部屋の奴が顔を出した。
「なんだ、借金取りか?」
俺が拳銃を手にしているのを見て、すぐに引っ込む。
この界隈じゃあ、拳銃は万能だ。
何しろ、警官が怖くて足を踏み入れないという貧民街なんだから。
とうとう、俺が目の前の扉を銃で吹っ飛ばす事を検討し始めた時、ようやく扉が開いた。
頬のそげた男が顔を突き出す。
こいつがミンガスだ。
「おまえか。入れ」
俺は中に入った。
本が処狭しと積み上げられていて、足の踏み場もない。
かろうじて、獣道のように続いている部分をおそるおそる通り抜け、古ぼけたソファから雑誌の山を押しのけて座った。
「何の用だ、ガッシュ」
「月光族について知りたいんだよ」
ミンガスは顔をしかめた。
「それは禁じられている」
「だからあんたに聞きに来たんだ」
ミンガスは俺をじろじろと見た。
「おまえ、やばい事に足を突っ込んでいるんだろう」
「は?」
「月光族というのはそれだけでやばい存在だってことだ。何しろ」
ミンガスの声が低くなる。
「暗黒の王の、仇敵だった奴らだぞ」
「そのへんの事は、学校じゃちょっとしか習わねえよ」
「……まあ、そうかもしれんな。月光族の痕跡は、可能な限り歴史から消し去られている。残っているのは建国当時の伝説ばかりだ」
ミンガスは少し身を乗り出した。
「というくらい、月光族については漠然としている。いったい何を知りたいんだ?」
「月光族を探している連中がいる」
「ほう」
「そいつらについて、知りたい」
俺は当座の期限を今月末までとした。
金は、リドリが持って来た分がある。
高くつくぞ、とミンガスは言ったが、何とかなるだろう。
ミンガスのねぐらを出ると、ガッシュは帰宅する前に、馴染みの銃砲店に寄った。そろそろ、弾を仕入れておかねばならない。
「いつものカートリッジを三カートンくれ」
「相変わらず弾使いが荒いねえ」
カウンターの上に実包の箱を積みながら店主が言う。
俺は言われた通りの値段を払った。
こいつは命の値段と同じだ。だから値切ることはない。
「たまには暗黒弾にしといたらどうだい。こっちのが安いぜ」
俺はかぶりを振った。
暗黒弾を持ち歩かないのは、俺の主義だ。
退役してから、俺が暗黒弾を射った事はない。
買物を抱えて家まで戻る。
用心していたが、幸い、俺を尾行してくる者はなかったようだ。
家の扉をあけると、ふわっと食欲をそそる匂いが顔をついた。
「おいおい……何の騒ぎだ」
キッチンのドアが開いて、ひょこっと金髪頭が顔を出した。
「おかえり、ガッシュ」
「何やってんだおまえ」
「料理だよ。まともな料理が食べたいでしょ」
「……カップ麺のどこが悪いんだ」
「何もかもっ」
キッチンのテーブルに着くと、更に山盛りにした米に、とろりとした茶色いソースをかけたものが目の前に差し出された。
いや、ソースではない。
大切りの具が転がっているところをみれば、シチューだろうか。
スパイシーな匂いがしている。
「うまそうだな」
「でしょっ」
俺専用のマグカップに、濃い珈琲が注がれる。
「料理ができるとは、ほんと器用な奴」
「千年も生きてたら、料理くらいできるようになるよ」
その台詞を聞いたのは、今日で二度目だ。
リドリが実際に月光族なのだというのは信じられる。妙なつかまりかたをしていたうえに、あの時使った魔法だ。
そしてリドリの名乗った名前。
自称だが、千年前から生きているという。
見かけは十四程度のガキのくせに。
しかし、見かけから月光族だとわかるものだろうか。
俺にはわからない。
リドリはごく普通のこましゃくれたガキにしか見えないと思う。
ということは、俺と一緒に月光族がいると知っている奴がいるか、あるいは月光族を探している奴らがいるという事だ。
官憲じゃあない。官憲なら、あんなやり方はしないはずだ。
そこで、俺は月光族の事を知っていそうな奴にあたることにした。
早い話が、情報通にまず尋いてみたんだ。
俺の知ってる情報通は何人かいるが、その一人は身を持ち崩した学者で、今は論文の代筆を仕事にしている。
俺は、その学者崩れ、ミンガスが巣食っている安アパートの扉を叩いた。
まずは紳士的に。
五秒ほど待って、どんどんと。
隣の部屋の扉が開いた。
「うるせえっ」
俺は無言で拳銃を抜き、そいつの頭に銃口を向けた。
すぐにそいつは引っ込んだ。素直な奴だ。
ミンガスはまだ返事をしない。
死んだわけでもあるまい。
俺は思いきり扉を蹴飛ばした。
反対側の部屋の奴が顔を出した。
「なんだ、借金取りか?」
俺が拳銃を手にしているのを見て、すぐに引っ込む。
この界隈じゃあ、拳銃は万能だ。
何しろ、警官が怖くて足を踏み入れないという貧民街なんだから。
とうとう、俺が目の前の扉を銃で吹っ飛ばす事を検討し始めた時、ようやく扉が開いた。
頬のそげた男が顔を突き出す。
こいつがミンガスだ。
「おまえか。入れ」
俺は中に入った。
本が処狭しと積み上げられていて、足の踏み場もない。
かろうじて、獣道のように続いている部分をおそるおそる通り抜け、古ぼけたソファから雑誌の山を押しのけて座った。
「何の用だ、ガッシュ」
「月光族について知りたいんだよ」
ミンガスは顔をしかめた。
「それは禁じられている」
「だからあんたに聞きに来たんだ」
ミンガスは俺をじろじろと見た。
「おまえ、やばい事に足を突っ込んでいるんだろう」
「は?」
「月光族というのはそれだけでやばい存在だってことだ。何しろ」
ミンガスの声が低くなる。
「暗黒の王の、仇敵だった奴らだぞ」
「そのへんの事は、学校じゃちょっとしか習わねえよ」
「……まあ、そうかもしれんな。月光族の痕跡は、可能な限り歴史から消し去られている。残っているのは建国当時の伝説ばかりだ」
ミンガスは少し身を乗り出した。
「というくらい、月光族については漠然としている。いったい何を知りたいんだ?」
「月光族を探している連中がいる」
「ほう」
「そいつらについて、知りたい」
俺は当座の期限を今月末までとした。
金は、リドリが持って来た分がある。
高くつくぞ、とミンガスは言ったが、何とかなるだろう。
ミンガスのねぐらを出ると、ガッシュは帰宅する前に、馴染みの銃砲店に寄った。そろそろ、弾を仕入れておかねばならない。
「いつものカートリッジを三カートンくれ」
「相変わらず弾使いが荒いねえ」
カウンターの上に実包の箱を積みながら店主が言う。
俺は言われた通りの値段を払った。
こいつは命の値段と同じだ。だから値切ることはない。
「たまには暗黒弾にしといたらどうだい。こっちのが安いぜ」
俺はかぶりを振った。
暗黒弾を持ち歩かないのは、俺の主義だ。
退役してから、俺が暗黒弾を射った事はない。
買物を抱えて家まで戻る。
用心していたが、幸い、俺を尾行してくる者はなかったようだ。
家の扉をあけると、ふわっと食欲をそそる匂いが顔をついた。
「おいおい……何の騒ぎだ」
キッチンのドアが開いて、ひょこっと金髪頭が顔を出した。
「おかえり、ガッシュ」
「何やってんだおまえ」
「料理だよ。まともな料理が食べたいでしょ」
「……カップ麺のどこが悪いんだ」
「何もかもっ」
キッチンのテーブルに着くと、更に山盛りにした米に、とろりとした茶色いソースをかけたものが目の前に差し出された。
いや、ソースではない。
大切りの具が転がっているところをみれば、シチューだろうか。
スパイシーな匂いがしている。
「うまそうだな」
「でしょっ」
俺専用のマグカップに、濃い珈琲が注がれる。
「料理ができるとは、ほんと器用な奴」
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