上 下
104 / 153
【9】花火と金平糖

【9】花火と金平糖……⑫

しおりを挟む


 どうしたら良いのか分からなかった。

 『好き』のたった一言を伝えるだけで、自分が弱くなってしまうような気もするし、たがのようなものが外れ、気持ちが止めどなく溢れてしまうような気もする。

 なにより、別れが惜しくなるのは目に見えていた。修道院でヴァジムやアントン、エレオノーラやヴィラジーミルを見送るだけでも辛かったのに。

「いや……」

 ミアに触れるシャノンの苦悩に満ちた顔。そんな顔を見たいわけではない。しかし、ミアも苦しいのだ。

 ストーブから薪がはぜる音が聞こえ、ミアはビクッと震えた。

 シャノンがベッドへ横たわったミアの踵を掴み、爪先にキスをして指を一本づつ口へ含んでいる。まるで、飴玉でもしゃぶるように舌先で舐るのだ。

「そんな風に舐めないでくださ……い」

 チュプンと音を立て親指が解放されたかと思うと、足の甲を舌が辿り、足首にキスをして膝頭に再び唇を寄せる。

 シャノンはミアから視線を逸らさず、じっと見つめたままだ。その視線に絡め取られるように、ミアは身動きができず、漏れそうになる声を我慢してシーツを握りしめていた。

「ミアの肌に触れてるだけでゾクゾクする」

 オセに抱きすくめられた時はあんなに嫌だったのに、シャノンの髪が肌を撫でるだけでも、そこから快楽が身体中に滲んでいくのがわかる。

 鼠径部をシャノンの爪が掠めれば、自分の意思とは関係なく甘い吐息が口からこぼれ落ちてしまう。

「ミア、僕が触るのは嫌じゃない?」

 ミアは涙目になりながら、小さくコクンと頷いた。その証拠、になるか分からないが片手で必死に隠している陰茎は固くなって立ち上がり、手のひらを濡らしている。


(『好き』を自覚させるために……、こんなことを)


 服を身に着けていないと言うだけで、心の中まで透けて見えてしまっているのでは、と錯覚してしまう。

「僕はね、ミア。君の足手まといになりたいわけじゃない。僕の想いだけで地下へ戻ったミアを見つけ出して、嫌がる君を無理やり連れ戻すような真似はしたくないんだ。本当に次はミアを手に入れに行くから。そうしてもいいと言う、ゆるしが欲しいんだ」

 身体が大きく、堂々としているシャノンがいつもとは違って、前髪の隙間から見える瞳が不安げだった。そんな目をさせてしまっているのが自分かと思うと、また胸が痛い。

「こんなに近くで君に触れてるのに心が寒くて仕方ないよ、ミア」

 膝を立たせ、シャノンがそこへ頬摺りをしていた。

「シャナ……」
「ん?」

 両腕を広げるとベッドが軋み、胸にそっと耳を寄せるように横たわったシャノンの髪を梳きながら、ミアは窓の外を眺めていた。

「――もっと、ずっと一緒にいたい。明日、あなたが起きる顔を見てみたいし、あなたが本気で怒った顔を想像する事もあります。良いことがあれば一番に伝えたいし、悲しいときはあなたを慰めて差し上げたい」
「ミア……」
「でもそれは、私には贅沢ではありませんか。シャナといると欲張りになってしまうのです」


 視線を部屋へ戻すと、ミアの胸の上でシャノンがこちらを見つめていた。


「シャナ、見すぎです」
「ミアには欲張りになって欲しいな」

 手を伸ばしたシャノンが、ミアの唇を指先で撫でる。

「シャナには私なんかより、もっと素敵な方がいると思います」

「僕はミアより長く生きているけど、ミアほど素敵な人を見たことがないよ」


 思わず両手で顔を隠した。
 心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うほど、バクバクと鳴っている。気持ちを伝えたら、明日から何か変わってしまうような気がする。すべての決意が崩れ去ってしまっている今、自分では何も正常な判断ができなくなってしまっているような気がした。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《完結》狼の最愛の番だった過去

丸田ザール
BL
狼の番のソイ。 子を孕まねば群れに迎え入れて貰えないが、一向に妊娠する気配が無い。焦る気持ちと、申し訳ない気持ちでいっぱいのある日 夫であるサランが雌の黒い狼を連れてきた 受けがめっっっちゃ可哀想なので注意です ハピエンになります ちょっと総受け。 オメガバース設定ですが殆ど息していません ざまぁはありません!話の展開早いと思います…!

異世界でひとりぼっちのSub ~拾ったDomを育てたら執着されてしまいました~

てんつぶ
BL
ヨウスケは大魔法使いとして異世界に召喚され、仲間と共に無事に「瘴気」を封じて早数年経った。 森の中で一人暮らしているヨウスケだったが、自分の魔力でSubとしての欲求を抑える日々が続いている。 日本ではもはや周知されきっていたDom/Subユニバースという第三の性は、この異世界には存在しない。つまり、ヨウスケはこの世界でたった一人のSubであり、ただただ身体の不調と不安感を押し殺すだけだった。 そんな中、近くの廃村で一人の少年と出会う。少年は異質な容貌――頭に獣の耳のようなものを付けて、寒空の下座っている。そして何より彼はヨウスケに「命令」を与えたのだ。 Subとしての本能は自然とそれに従った。少年は、この世界でただ一人のDomだった――? そしてその少年の正体は―― メインは19歳✕26歳、攻めの小年時代は一瞬です

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

【完結】オオカミ様へ仕える巫子はΩの獣人

亜沙美多郎
BL
 倭の国には三つの世界が存在している。  一番下に地上界。その上には天界。そして、一番上には神界。  僕達Ωの獣人は、天界で巫子になる為の勉強に励んでいる。そして、その中から【八乙女】の称号を貰った者だけが神界へと行くことが出来るのだ。  神界には、この世で最も位の高い【銀狼七柱大神α】と呼ばれる七人の狼神様がいて、八乙女はこの狼神様に仕えることが出来る。  そうして一年の任期を終える時、それぞれの狼神様に身を捧げるのだ。  もしも"運命の番”だった場合、巫子から神子へと進化し、そのまま神界で狼神様に添い遂げる。  そうではなかった場合は地上界へ降りて、βの神様に仕えるというわけだ。  今まで一人たりとも狼神様の運命の番になった者はいない。  リス獣人の如月(きさら)は今年【八乙女】に選ばれた内の一人だ。憧れである光の神、輝惺(きせい)様にお仕えできる事となったハズなのに……。  神界へ着き、輝惺様に顔を見られるや否や「闇の神に仕えよ」と命じられる。理由は分からない。  しかも闇の神、亜玖留(あくる)様がそれを了承してしまった。  そのまま亜玖瑠様に仕えることとなってしまったが、どうも亜玖瑠様の様子がおかしい。噂に聞いていた性格と違う気がする。違和感を抱えたまま日々を過ごしていた。  すると様子がおかしいのは亜玖瑠様だけではなかったと知る。なんと、光の神様である輝惺様も噂で聞いていた人柄と全く違うと判明したのだ。  亜玖瑠様に問い正したところ、実は輝惺様と亜玖瑠様の中身が入れ替わってしまったと言うではないか。  元に戻るには地上界へ行って、それぞれの勾玉の石を取ってこなくてはいけない。  みんなで力を合わせ、どうにか勾玉を見つけ出し無事二人は一命を取り留めた。  そして元通りになった輝惺様に仕えた如月だったが、他の八乙女は狼神様との信頼関係が既に結ばれていることに気付いてしまった。  自分は輝惺様から信頼されていないような気がしてならない。  そんな時、水神・天袮(あまね)様から輝惺様が実は忘れられない巫子がいたことを聞いてしまう。周りから見ても“運命の番”にしか見えなかったその巫子は、輝惺様の運命の番ではなかった。  そしてその巫子は任期を終え、地上界へと旅立ってしまったと……。  フッとした時に物思いに耽っている輝惺様は、もしかするとまだその巫子を想っているのかも知れない。  胸が締め付けられる如月。輝惺様の心は掴めるのか、そして“運命の番”になれるのか……。 ⭐︎全て作者のオリジナルの設定です。史実に基づいた設定ではありません。 ⭐︎ご都合主義の世界です。こういう世界観だと認識して頂けると幸いです。 ⭐︎オメガバースの設定も独自のものになります。 ⭐︎BL小説大賞応募作品です。応援よろしくお願いします。

花霞に降る、キミの唇。

冴月希衣@商業BL販売中
BL
ドS色気眼鏡×純情一途ワンコ(R18) 「好きなんだ。お前のこと」こんな告白、夢の中でさえ言えない。 -幼なじみの土岐奏人(とき かなと)に片想い歴10年。純情一途男子、武田慎吾(たけだ しんご)の恋物語- ☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*・☆.。.*☆.。.*・☆ 10年、経ってしまった。お前に恋してると自覚してから。 ずっとずっと大好きで。でも幼なじみで、仲間で、友達で。男同士の友情に恋なんて持ち込めない。そう思ってた。“ あの日 ”までは――。 「ほら、イイ声、聞かせろよ」 「もっと触って……もっとっ」 大好きな幼なじみが、『彼氏』になる瞬間。 素敵表紙&挿絵は、香咲まり様の作画です。 ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

【完結】糸と会う〜異世界転移したら獣人に溺愛された俺のお話

匠野ワカ
BL
日本画家を目指していた清野優希はある冬の日、海に身を投じた。 目覚めた時は見知らぬ砂漠。――異世界だった。 獣人、魔法使い、魔人、精霊、あらゆる種類の生き物がアーキュス神の慈悲のもと暮らすオアシス。 年間10人ほどの地球人がこぼれ落ちてくるらしい。 親切な獣人に助けられ、連れて行かれた地球人保護施設で渡されたのは、いまいち使えない魔法の本で――!? 言葉の通じない異世界で、本と赤ペンを握りしめ、二度目の人生を始めます。 入水自殺スタートですが、異世界で大切にされて愛されて、いっぱい幸せになるお話です。 胸キュン、ちょっと泣けて、ハッピーエンド。 本編、完結しました!! 小話番外編を投稿しました!

【完結】獣人一家の箱入りオメガ~復讐を誓った少年オメガは雪豹アルファに守られる~

きよにゃ
BL
両親をむごたらしく殺された少年・シリルは獣人の家に引き取られる。仇(かたき)を討とうとするシリルだが、獣人一家の息子グレンの思いやりに癒やされ、あきらめる。やがて自身がオメガだと分かり、周囲から孤立する。グレン達一家は違ったが、発情期にグレンにいやらしいことをねだったことでギクシャクしてしまう。そんなとき、職場で光るキノコを一緒に見ようと先輩に誘われる。反対するグレンを振り切って職場に居残ったシリルは、獣人に変化した先輩に犯されそうになる。間一髪で助けてくれたのはグレンだった。 【※印はR15描写あり、★印はR18描写あり】

【完結】お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

処理中です...