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【9】花火と金平糖
【9】花火と金平糖……⑫
しおりを挟むどうしたら良いのか分からなかった。
『好き』のたった一言を伝えるだけで、自分が弱くなってしまうような気もするし、箍のようなものが外れ、気持ちが止めどなく溢れてしまうような気もする。
なにより、別れが惜しくなるのは目に見えていた。修道院でヴァジムやアントン、エレオノーラやヴィラジーミルを見送るだけでも辛かったのに。
「いや……」
ミアに触れるシャノンの苦悩に満ちた顔。そんな顔を見たいわけではない。しかし、ミアも苦しいのだ。
ストーブから薪がはぜる音が聞こえ、ミアはビクッと震えた。
シャノンがベッドへ横たわったミアの踵を掴み、爪先にキスをして指を一本づつ口へ含んでいる。まるで、飴玉でもしゃぶるように舌先で舐るのだ。
「そんな風に舐めないでくださ……い」
チュプンと音を立て親指が解放されたかと思うと、足の甲を舌が辿り、足首にキスをして膝頭に再び唇を寄せる。
シャノンはミアから視線を逸らさず、じっと見つめたままだ。その視線に絡め取られるように、ミアは身動きができず、漏れそうになる声を我慢してシーツを握りしめていた。
「ミアの肌に触れてるだけでゾクゾクする」
オセに抱きすくめられた時はあんなに嫌だったのに、シャノンの髪が肌を撫でるだけでも、そこから快楽が身体中に滲んでいくのがわかる。
鼠径部をシャノンの爪が掠めれば、自分の意思とは関係なく甘い吐息が口からこぼれ落ちてしまう。
「ミア、僕が触るのは嫌じゃない?」
ミアは涙目になりながら、小さくコクンと頷いた。その証拠、になるか分からないが片手で必死に隠している陰茎は固くなって立ち上がり、手のひらを濡らしている。
(『好き』を自覚させるために……、こんなことを)
服を身に着けていないと言うだけで、心の中まで透けて見えてしまっているのでは、と錯覚してしまう。
「僕はね、ミア。君の足手まといになりたいわけじゃない。僕の想いだけで地下へ戻ったミアを見つけ出して、嫌がる君を無理やり連れ戻すような真似はしたくないんだ。本当に次はミアを手に入れに行くから。そうしてもいいと言う、赦しが欲しいんだ」
身体が大きく、堂々としているシャノンがいつもとは違って、前髪の隙間から見える瞳が不安げだった。そんな目をさせてしまっているのが自分かと思うと、また胸が痛い。
「こんなに近くで君に触れてるのに心が寒くて仕方ないよ、ミア」
膝を立たせ、シャノンがそこへ頬摺りをしていた。
「シャナ……」
「ん?」
両腕を広げるとベッドが軋み、胸にそっと耳を寄せるように横たわったシャノンの髪を梳きながら、ミアは窓の外を眺めていた。
「――もっと、ずっと一緒にいたい。明日、あなたが起きる顔を見てみたいし、あなたが本気で怒った顔を想像する事もあります。良いことがあれば一番に伝えたいし、悲しいときはあなたを慰めて差し上げたい」
「ミア……」
「でもそれは、私には贅沢ではありませんか。シャナといると欲張りになってしまうのです」
視線を部屋へ戻すと、ミアの胸の上でシャノンがこちらを見つめていた。
「シャナ、見すぎです」
「ミアには欲張りになって欲しいな」
手を伸ばしたシャノンが、ミアの唇を指先で撫でる。
「シャナには私なんかより、もっと素敵な方がいると思います」
「僕はミアより長く生きているけど、ミアほど素敵な人を見たことがないよ」
思わず両手で顔を隠した。
心臓の音が聞こえてしまうのではないかと思うほど、バクバクと鳴っている。気持ちを伝えたら、明日から何か変わってしまうような気がする。すべての決意が崩れ去ってしまっている今、自分では何も正常な判断ができなくなってしまっているような気がした。
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