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【9】花火と金平糖

【9】花火と金平糖……⑩

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「僕が万年発情期の変態だからって、誰にでもこうなるわけではないんだよ」
「それは」

「こんな経験がないから僕も正直、戸惑ってる。ミアにだけなんだ、こんな風になるの。ただね、ミア」

 再び抱き上げられたミアは、小さな固いベッドの上におろされた。

「こんな欲望丸出しの僕が言っても説得力がないんだけど、ヒート中の本能だけでミアのが終わってしまうのが嫌なんだ」

 酔いなんか、すっかり飛んでしまった。

「やっぱり、洞窟で最後までしてない……」

「するはずないじゃないか。転化したばかりで、身体の性徴が追い付かなかったんだろう。香気が弱かったから良かったものの、ギリギリだった。ーー先に謝っておく。次のヒートの時は保証できない。僕はミアに狂ってしまうかもしれない。自分をコントロールできる自信がない」

 『ラット』ーー。

 そんな言葉が頭に過った。ミアだってアルファだったのだから、それくらいの知識はある。アルファの発情だ。アルファの発情自体、オメガのフェロモンに当てられて誘発されるものらしいが、『ラット』になるとオメガを死に至らしめるほどの激情になる、と。

 あの洞窟の中は、むせかえるようなミアのフェロモンで充満していた。あれで香気が弱いと言われたら、次のヒートが少し怖かった。

 見つめたシャノンがミアの手を取り、指先に唇を寄せた。シャノンが触れた額も唇も、指先からもミアの中に熱を蓄積させていくようで、身体中が火照って仕方なかった。

「こんな情けないから、ミアは僕のこと信用できないのかな」

 そんな事はない。この世で一番、信用している。信頼もしている。今ではシャノンがいない世界なんて考えられないほどだ。それなのに目の前のシャノンは、苦し気な表情を浮かべながら笑っている。

「ミアは僕とのこと、無かったことにするつもりでしょ?」

「え……」

「前にオセのことで話したとき、首都へ戻って帰還するって言ったんだ」
「そ、それはオセを喋らせるための交換条件に」
「その話がある前だよ」

「……」

「でも、さっき確信した。ミアはもう地上へ残ることも、僕がこちらへ連れ戻すことも期待していないんだなって。そんなに僕のこと信じられない?地下へ戻ったって、僕はミアを本気で取り戻すよ。それも、ミアに気持ちがあればの話だけど」

 口ごもる間の長さを計るように、シャノンはミアのブラウスのボタンをゆっくりと外していく。

 さっきと言われ、ミアは必死にシャノンとの会話を思い出していた。食事の時になにか言っただろうか。それとも――。

 思い当たるのは、シャノンがしたいことを尋ねたとき、ミアは「したかった」と叶わなかった希望のように語っていた事だった。

「悲しいね。まだ始まったばかりだと言うのに、ミアは勝手にひとりで舞台を下りるつもりなんだね。僕を置いて」

 ボタンを外し終えたブラウスの前を慌てて合わせたミアは、シャノンに背中を向けた。

「だ、だって仕方ないではありませんか」
「何が」

「私にはヒートが来ないのです。みなが望むように、シャナの赤ちゃんは産んであげられない」

「それは、僕が望んだことではないよ」

「シャナは、子供がとても好きで」
「うん。子供は好きだけど、それを僕がミアに求めたかい?そもそも、ミアがオメガに転化するなんて思ってなかった。それは偶然だし、ミアがアルファで男性で、それでも僕は好きになったんだよ。ミア、こっちを向いて」

「嫌です」

「子供の話は、ずっとずーっと先の話だ。僕は今の話をしているんだよ。オメガだって、愛し合っていたって、裕福だって子供に恵まれないことはある。それは自分たちではどうにもできないことで、神様からのギフトだ。だから考える必要はない。ミアが僕を好きかどうか、どうしたいかだけを考えるんだ」

 この旅で、笑顔でいようと決めた決意はどこかへ行ってしまった。ずっと黙っていたことが、白日の元へさらされ、まるで心が裸にされたようでミアは身の置き場がなかった。

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