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【6】起爆

【6】起爆……⑥

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「ミアもオセとそう言う仲なんでしょ?彼は僕と違ってモテるね」
「はい?」

「ただ、告げ口みたいで嫌なんだけど、彼には気を付けた方がいいと思う。ミアの退行催眠でもそうだったけど、何かを知っているような気がするんだ。ミアの右目のことも」

 ミアは何度も瞬きを繰り返した。確かにいろいろとオセには用心した方がいいとは思っている。ただ、シャノンに大きな誤解をされているような気もする。

「私とオセがどういう仲だと言うのですか」
「だって昼間、オセとテラスでイチャついていたじゃない?」

「――そのあと、どうなったか知ってますか」

「痛いってば、ミア!すぐ、暴力をふるうのは良くないことだよ」

 見られていたことに愕然としたミアは、無表情でシャノンの腕をつねっていた。

「変な誤解をするからです。あの後、私はオセに銃口を向けたのです。殺してやろうと思いました。アルマ様に身を守るためなら、躊躇してはいけないと教わりましたので」
「なんてことを」

「それくらい、嫌だったのです!転化のことをずっと辺境伯に相談したかったのに、避けられていたし」
「避けてないよ!もう何年もかかってる運河建設をこの夏中に終わらせないといけないと思って、今年は冬が早く来そうだったから獣人たちを故郷に返さなければいけない時期も迫っていて」
「辺境伯とエフレムがこの冬、ここで過ごすのにオセが邪魔しようとしているし」

「僕とエフレムが、なんで冬まで一緒にいないといけないの。ミア、少し僕の話を聞いて」

「だって、部屋にある服は私が着るには大きいし、辺境伯の発情は冬が一番ひどい万年発情期の変態だってヴィラジーミルが言っていたので、ご結婚されるのかと」

 矢継ぎ早にミアはしゃべり続ける。いつのまにか、地震や運河のことなどそっちのけで、苛立ちながら自分のことばかり話していた。そんなミアをなだめようと困った顔でシャノンが背中を摩り続けている。

「ミア、ちょっと落ち着いて」

 足を止めたシャノンの顔が近づいてくる。それでもミアは視線をよそへ泳がせ、口を尖らせてシャノンに対してクドクドと文句のような事ばかりを言い続けていた。

「……ッ!!」
「やっと静かになった」

 唇にシャノンの唇が重なった。ピリッとした刺激が久しぶりで、思わず眉間にシワが寄ってしまったがそれ以上に、あれこれ一人で悩んでいたことが嘘のように消えていくのを感じた。

(この人とずっと一緒にいたらいいんだ……)

 オメガに転化したことを受け入れている心の一部が、そう囁く。でも実際は、そんな簡単な話ではなく、頭の中では素直になれない自分がいる。おそらく、シャノンに次のヒートでうなじを噛んで番にしてくれと言ったら、そうしてくれるだろう。しかし、ミアは人間。一か月後にはこの土地を離れ、地下へ戻らなくてはいけない。


 いつのまにか、入り口まで戻って来ていた。少し前かがみになったシャノンは、床へ置いたミアのマントとブーツを取った。そして鋼の扉へしっかりと鍵を閉め、そのまま執務室へ向かって歩き出す。

「下ろしてください」

「万年発情期の変態ーー」

「変態は私が付け加えました!だから、下ろしてくださいってば」

 食堂では宴が盛り上がっているようで、ピアノやギターをかき鳴らす音がいつもより激しくて、手拍子もひときわ大きく聞こえた。

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