あやかし百鬼夜行

佐藤紗良

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【4】百鬼夜行……㉓

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 ーー僕は、おじさんに何をしてあげられる……?

「あ……ッ」

 両手は、越乃の腕を掴み上げていた。

 最初は自然に射精し、採取された。が、精神的なものか、勃起も射精もできなくなった。そんな佐加江の精子を絞り取るように、越乃が持って来たのは搾乳機を改造したものだった。

 それは、佐加江の父親にも使っていたもの。搾乳部がガラス管になっており、そこへ性器を挿入する。採取された精液は保存処理を施して、スピッツ試験管で窒素凍結するらしい。

『浩太君のおかげで、隠し立てする必要がなくなったから、感謝をしなければいけないね』

 下腹部にチリチリとした痛みがあり、もうすぐ発情が近いのでは、と佐加江は予感していた。

『オメガは番ができるとただでさえ少ないのに、さらに射精量が減るからね。今しかないんだ、協力してくれるね。もし、採取量が期待できないようなら、精巣生検するから』

 越乃は研究に魂を売った狂人のようだった。

 浩太に傷つけられた身体も癒えていないと言うのに、佐加江の陰茎は赤くただれたようになっている。

「ヒ……ッ」
「そろそろ乳首をいじって欲しいだろう」

 唾液で濡らした指先で越乃に乳首を捏ねられ、佐加江は腹が引きつって声にならぬ叫び声をあげた。この装置に初めてつながれた時は、なかなか達する事が出来ず、越乃に尻を叩かれると同時に射精した。

 青藍との激しくも甘やかだった営みを思い出せない。佐加江の身体はいつしか、恐怖や痛みが伴わないと射精できない身体となっていた。

「母乳がちゃんと出るか、確認してみないとな」
「乳首、ダメ……ッ」

 佐加江は爪を噛む。ザラついた舌でレロッと舐められ、吸われた乳首は唇で甘噛みされた。

「佐加江」

 越乃がうわごとのように呟き、そこへむしゃぶりつく。佐加江の名を呼ぶたびに、越乃は亡き初恋の人を思い出しているのかもしれない。

「イ……ッッ」

 歯先で乳首をギリっと噛まれ、試験管が白く染まった。精液を吸引するために、内部の空気を抜く。その過程で性器も引っ張られるのだ。

「痛い、そんなに吸わないで」

 少量であったが、精液が吸い出され一滴も残らず搾り取られる。そんな混沌とした日々の中で佐加江は正常な判断ができなくなって行った。

 ――研究を終わりにしてもらいたい。

 第二の性に囚われている越乃を救ってあげたい。そんな事を考えてはいるが、何も思い浮かばなかった。

「毎日こればかりじゃ、さすがに量が取れないな。後で血液も採らせてな」

 今までの保護者としての仮面が外れた越乃は、幼い子供がブロック遊びにでも夢中になるかのように瞳を輝かせていた。

 浩太のように手荒な事をする訳ではない。

 研究材料として後世にオメガのサンプルを残そうとしているのだ。が、その越乃には後継ぎがいない。第二の性の研究も越乃の代で終わりなのだ。言うなれば、越乃と佐加江は運命共同体ーー。

「……おじさん」
「ああ、少し強く吸い過ぎたな。ごめんな、佐加江。軟膏を塗っておこうか」

 佐加江の股の間でガラス管を外し、後処理まで丁寧にしている越乃の姿が滲んで見えた。

「おじさん」

 言いたくはなかった。

「ん?」

「跡継ぎ、欲しい……?」

 誰からも認められることのない研究を、白髪が交じるまでしてきた越乃が哀れで仕方なかった。

 決して心移りした訳ではない。

 情にほだされ、こぼれ落ちるように口から出た言葉だった。


「うん。佐加江との赤ちゃんが欲しい」


 越乃は満面の笑みで何度も頷いていた。

 鬼の紋がありながら、それはとても恐ろしい事だとすぐに気付いた。が、心の底でいつからか思っていた事だった。






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