あやかし百鬼夜行

佐藤紗良

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【3】九十九の願い事……⑰

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「えぇぇぇ! 鬼君が射精しなかった?!」
「桐生さん、声大きいです!」

 大宜都比売神《おおげつひめのかみ》の店は、黄色いテントが目印。

 浅草のホッピー通りのような雰囲気で四六時中、酒が飲めるのが売りだ。店内はがやがやと賑わっていて、緑色した液体が入った泡が溢れるジョッキを持った大宜都比売神は、ふくよかな気のいいおばちゃんで、客からは『モッチー』の愛称で親しまれている。前の大通りまで真っ赤なテーブルと椅子が置かれ、桐生が言うには、あやかしの世界では流行りのデートスポットらしい。

「ちょっと待ってよ。佐加江君、色っぽくなってるし抱かれたんでしょ? 発情してたのに、鬼君にはフェロモンが効かないってこと!?」

「初めての発情が遅過ぎて、フェロモンが足りなかったとか……。抱かれたって言うか、気持ち良くして頂いただけというか」

「中出ししなかった、ってだけの話だよね?」
「いいえ」
「まさか、鬼君が挿入しなかったとか言わないよね?」

「……ナシだった、と思います」

「詰んだ」
「詰みました」

 唖然とする桐生に、佐加江は顔を真っ赤にしながら口をへの字にしている。大通りにはみ出した外の席で、風もないのにユラユラと揺れる提灯を佐加江はぼんやり眺めていた。

「ありえない、ありえないよ! あやかしにとって人のオメガのフェロモンって絶対だもん。……少なくともうちの天狐にとっては。注文しちゃったし詳しく話聞きたいから、とりあえずお面つけておこうか」
「お面ですか?」

「うん。そのお面、うちの子たちの子守する為に鬼君が彫ったやつなの。うまく化けられるように天狐が念を込めてるから、霊力が強いもの身につけておいた方がいいわ」

 沈黙が流れ、桐生おすすめの栄養ドリンクが酒の肴と共に運ばれてきた。

「とりあえず発情期、お疲れ!」
「お、お疲れ様です」

「シケた顔しないの、佐加江君。チームオメガにかんぱ~い!!」

 カツーンとジョッキを合わせると、真っ赤な液体がプシュプシュと泡立ちモコモコと膨らんだ。

「チームですか?!」
「そ、チーム。鬼君とはこっちでもお隣同士だからあやかし妻として、仲良くしてくださいな」


「おや、桐生ちゃん。発情おわったんかい?」


 大通りを歩いていた小さな人型のあやかし。どことなく、鬼治の田んぼの脇にある柔和な笑顔をした道祖神《どうそじん》に似ている。

「終わったよ。来年には家族が一人、また増えるかも。途中でコンドームなくなっちゃってさ」

 ひらひらと手を振り、桐生は特製ドリンクを一気に半分くらい飲み干した。佐加江もひとくち飲んでみる。甘酸っぱく口当たりがとても良い飲み物だ。五臓六腑に沁み渡り、元気が湧いてくる。そんな飲み物だったが、面をつけたままの佐加江はうまく飲む事ができず、ジョッキの重さに手首をやられそうだった。

「これは、何が入ってるんですか?」
「枸杞子《くこし》と棗《なつめ》、あとスッポンの生き血」

「スッポン……」

「お肌ツルツルになるよ」

「青藍、お肌ツルツルが好きですかね」

 佐加江はブツブツと言いながら、お面を少し上へあげ、ゴクゴクと飲んだ。

 桐生は笑いながら一番小さな仔狐を抱き寄せ、うまく食べられない油揚げを千切って食べさせている。





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