あやかし百鬼夜行

佐藤紗良

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【3】九十九の願い事……⑬

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「初めてなの」

「綺麗な色をしています」

「暗くて見えないくせ……、に」

「鬼は夜目が利くのですよ。暗くても真昼のように見える」

 その言葉にハッとした。佐加江はパジャマの裾を伸ばし、勃起してしまっている性器を隠そうとする。道理で青藍の目が暗がりでもはっきりと見えたわけだ。今も海中の夜光虫のように、青白く二双の瞳が闇に浮かんでいる。

 膝に割り込まれ股を広げる姿も、頬を高揚させている顔も青藍に見えてしまっているかと思うと堪らなかった。

「……んふ」

「随分と苦しそうですね」

 青藍の目を見つめながら、佐加江は小さく頷く。体内できしむ子宮が、何か別の生き物のように身体の底で、番を迎えることを待ちわびている。

「人の丙の前でこんな顔をされたらと思うと、嫌なものです」
「あ……っ」

「大丈夫ですよ。爪はしまいましたから」

 独り言のように呟いた青藍の言葉の意味を理解するよりも先に、指先がニュルっと後孔へと入り込んだ。が、初めてという事もありそこは狭く、押しだそうとしている。

 声というよりは、喉から空気が抜けたような気のない音が漏れる。押し広げられる感覚に内腿が震え、背中は畳の上をずりあがろうしていた。

 ゆっくりと繰り返される抽送。鼻にかかったような甘ったるい喘ぎに、佐加江は必死に手の甲を噛んでいた。臍の辺りに落ちた髪にしゃらしゃらとくすぐられ、その毛先は胸を通り過ぎ、頬をなでる。

 外の雷雨は激しさを増すばかりで、一瞬の稲光が雨戸の隙間を縫って二人の距離を白日の下へ晒した。息遣いが触れ合う距離。すぐそこに落ちたような雷鳴におののき、佐加江は青藍にしがみついた。

「昔から、お前は怖がりです」
「ち、違う」

 鳩尾みぞおちあたりがヒクヒクとして、嗚咽が止まらない。

「……オメガで良かったなって。こんな風に発情が起こらなかったら、青藍に相手にしてもらえなかったと思うと」

「発情が起こらなくとも、私は佐加江が欲しい」

 言い終わらぬうちに重なった唇は、震えていたように思う。唇を愛撫する舌先が、喘ぎを吐き出した緩んだ口内へと入り込んだ。舌が触れ合い、絡み合いながら裏顎辺りを弄られるとゾクッとして腰が震える。

「ん……」

 そこばかりを舌先で撫でられ、口角からは互いの唾液が滴り落ちた。口内を出て行こうとする舌に佐加江がしゃぶりつくと、チュプッと音がして離れて行く。

「あ……、そこ、や」

 背中がしなり、青藍の首に回していた手が解けそうになった身体は片腕で抱きとめられる。佐加江の肩に埋めた青藍の息も荒く、欲情していることに妙な安堵を覚えた。

「赤子の寝室への入り口ですね」
「アッ、ア……ッ」
「熟れた柿のように、柔らかい」

 明らかに、そこは感じ方が違う。長い中指の先端に前立腺小室への入り口の窪みを貫通しそうなほど激しく突つかれ、飛び散る愛液が青藍の着物を濡らしていた。と、佐加江は眉間に皺を寄せながら仰け反り、つま先をキュッと縮こまらせながら身体を強張らせる。

「………っ」

 小さな陰茎にむしゃぶりつかれた佐加江は、悲鳴にも似た声を上げた。

「ダメ、ダメ……イきそうなの、やめっ」

 青藍の髪に指を絡ませ、除けようとするが離してくれない。温かな感触に包まれ、舌全体で舐られる性器は一段と怒張し、鈴口がヒクヒクとしていた。
 前と後ろ、どちらが気持ちよいのか分からない。かつてないほどの快楽に頭の中が真っ白になり、佐加江は腰を激しく振っていた。

「イク……、イッ」

 身体が激しく波打つ。

 腰を高く突き上げ吐きだした精液は、フェロモンの匂いを濃縮したような、甘く蕩けそうな味をしていた。

 佐加江の汗も分泌液も同じような味をしている。喉に絡めるようにして味わい、青藍はゆっくりと精液を飲みくだす。

 ただ、青藍は佐加江を愛撫しながらも額に脂汗を滲ませていた。

 欲に支配されそうになればなるほど耳とうに邪魔をされ、佐加江を舐めるたび、味わうごとにそれは耳たぶの穴を押し広げ、重くなっていた。




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