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最終章:スキルの歴史編

歴史1:スキル、その暴力性で魔王城の守りを粉砕する

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 その日、魔王城は地獄と化した。

「チェーンジウシワカアアア、スイッチオーンンンン!!!」

 巨岩を思わせる大女が一瞬で細身に変身し廊下を駆け抜けると、上位魔族がバタバタと倒れた。

「チェーンジチンギスウウウ、スイッチオーンンンン!!!」

 生き残った魔族が増援と共に一斉に炎のブレスと火の弓矢で彼女を焼き尽くそうとするが、一瞬で再び脂肪の固まりと変化しダメージを最小に押し留めた。

「ゲップー!魔族の皆さん!これがスキルですっ!聖女の力なのですっ!貴方達の地球制服を企むモラル無き野望は今終わるのです!」
「ふ、ふざけんな!この星の名前はチキュウじゃ無いし、我らは魔王様復活を祝ってるだけで、まだ何も侵略とかしとらんわ!!」
「だまらっしゃい!今までの悪事の数々、ツワモノを魔族化し、スキル試用者と天狗様を打ち倒そうとし、船を焼き、更には情報漏洩を防ぐために味方であるゴブリンを虐殺!こんな悪い奴らは肉ちゃんがサンドバッグにしても無問題なのですっ!」
「だから知らん!ぐへっ!」

 魔王城勤務の魔族達の言い訳は肉ちゃんには通じない。実際の所さん、これまでの魔族側の悪事は大体外部顧問のジェニファーが独断で行ったか、攻めて来る人間に対しての防衛活動が殆どである。

 だから、本社勤務の魔族は現状について「へー、そんな事あったんだ。でも、現在進行系で侵略しに来てるあんたらの方が悪くね?魔族だからって一括りにして襲うなよ。ちょっと落ち着いて話し合おな?」という思いを抱きながら防衛にあたっていた。

 魔王とジェニファーが配下に対して必要な情報を共有せず、黒幕ムーブしていた弊害が最悪の形で現れてしまった。

 例えるなら、えーとほら、ナローシュが成り上がって国を建国したりするじゃないですか?そのナローシュが今作では神様から追放された堕天使ジェニファーだったんですよ。でもさ、ナローシュが作る国家って、基本ナローシュと嫁が世直しして現場解決して、その後でモブ国民がスゴイスゴイ褒めるじゃないですか。

 ナローシュ国家って、モブ国民へのホウレン草が足りないんですよ。話のテンポの為仕方無いとはいえ、権力持ったナローシュが勝手に動いて、もしそれでナローシュが死んだら国民も何も分からず終わる危うさを伴ってるんです。

 で、ナローシュが死んで状況の理解が追いつかないまま蹂躙されてるのがこちらの魔族さん達になります。

「海路を守るコバンザメガロドンは何をしていたんだ!」
「何で人間が攻めてきてるんだ!あの堕天使が宣戦布告したというのか?だから、俺はアイツは危険だって言ってたんだ!」
「確かに魔王様は実体を得て軍備は整えてたけど、まだ具体的な案なんて何も無かったぞ!速い!ここに来るの一年速いぞお前ら!打ち切りエンドのラノベか!」

 泣きそうな顔で抵抗する者、我先に逃げる者、通路を破壊して侵入を防ごうとする者、全員の行動がバラバラで、誰もこの状況を解決出来ないまま魔族は数を減らしていった。

「大賢者で得た情報通りだな。士気が低い。これなら肉ちゃんに任せて問題無いだろつ」
「というか、肉ちゃん以外はこの士気が低い魔王軍にすら勝てないゴブ。テスターと同じぐらい強い奴もチラホラ居たゴブよ?」

 テスターが大賢者マーガレットから聞き出した情報により、試用者達は魔王軍の防衛のザルな箇所や士気の低さ、ジェニファーの死すら知らない魔族が多数いる事を知った。そして、肉ちゃんが囮として城の中よ敵を引き付けている間に、テスター・クレイム・リブの三人は魔王の間へと進んでいた。

「この壁の弱点はここゴブ!」
「次は右」
「…」

 リブが急所突きで壁を破壊し、テスターが大賢者で得た情報で警備の薄い道を示す。現在やる事の無いクレイムは、娘との再会が近づいているからなのか無言で二人の後を付いていく。

「大賢者、昨日何食べた?」
(チャーハンと餃子と杏仁豆腐ですぞ!試用者どの、吾輩今マジで手が離せないから黙ってて欲しいですぞー!)

 魔王軍でこの状況を唯一解決可能なマーガレットは、テスターから数十秒おきに無意味な質問をされてマトモに動けなかった。

「そっちに居るレーゼは無事か?」
(まだまだ吾輩と絶賛戦闘中ですぞ!)
「おまえ、勝てそう?」
(試用者どのが邪魔しなければ!)

 城内での混乱を抑える為に肉ちゃんの居るフロアに向かっていたマーガレットは、そこでリベンジに燃えるレーゼと出会い足留めされていた。ステータス上は二倍以上の差があり、本来ならマーガレットの圧勝に終わるはずの戦いは、テスターの質問が脳内に響く事で泥沼化していた。

「頑張れ♡頑張れ♡ところでマーガレット、ヒースの今日のパンツの色は?」
(青ですぞー!)

 そんな感じでレーゼの援護をしつつ、テスター達は遂に目的の場所に辿り着いた。

「来たか、聖女の代役達よ」

 仮面を着けた女が玉座から立ち上がり、テスター達に呼びかける。

「ここまでの旅路、ジェニファの妨害で大変だったろう?だが、それもここで終わりだ。」

 追い詰められているにも関わらず、魔王は来客を歓迎するかの様な態度で話しかけてきた。

「…モンスター名、今代の魔王。ステータスは天使さん達とジェニファーの中間ぐらい。スキル試用者の一人、クレイム・ナードの娘が器となり現世に物理的干渉が可能となっている、だゴブ」
「マーガレット、今俺ら魔王様の前にいるんだけどさ、魔王様の肉体ってマリアのなのか?うん、やっぱそっか。ありがとな」

 リブが鑑定結果を読み上げ、テスターが大賢者で確認する。
そして、二人が確認行動をしたその一瞬の間にクレイムは娘に向かい距離を詰めた。

「縮地!」
「カスヤロウ、何をしてるゴブ!」
「お父さん、打ち合わせと違う!」

 テスターとリブが止める間も無く、クレイムは極限まで鍛えた縮地で前進し魔王の頭にポンと手を置いた。

「我が娘よ、戻る時が来たのだ。さあ」
「五月蠅い」
「ぶべらー!」

 クレイムの言葉が終わるのを待たず、堕天使級のビンタがクレイムの身体を壁に叩きつけた。

「お父さん、そりゃそうなるよ。マリアはあんたの野望に付き合わせれてこうなったんだ。よし、やはり予定通り俺が説得するしかないな!マリアー!好きだー!結婚してくれー!」
「だから五月蠅い」
「ぶべらー!」

 魔王に駆け寄るテスターに堕天使級のビンタが放たれ、クレイムが刺さった壁の隣にテスターも仲良く突き刺さった。

「ブハぁ!お、おかしい!お父さん曰く俺とマリアはお似合いLOVELOVEカップルだったんだ!魔王、マリアに何を吹き込んだ!」
「我は何もしとらん!つーか、貴様らが来るまでにこの娘の記憶を読み取っていたが、お前ら本当に最低でアホでカスでクズだな!そりゃ、この娘も魔王の器になれるわ!」
「お、俺がマリアを傷つけていたと言うのか?」
「自覚が無いなら教えてやる!いいか、あれはもう二年近く前、聖女召喚の準備が始まった頃…」

 魔王はマリアの身体を乗っ取ると共に彼女の記憶を読み取り、聖女召喚までの間にクレイムやテスターに何をされたかを理解した。その結果、彼ら二人への嫌悪感は限界突破。魔王もドン引きの所業を目の当たりにした彼はただテスター達を殺すには飽き足らず、マリアに代わっておしおきよモードへと突入していたのだった。

「あのー、魔王様?過去回想に入るのはいいけど、その件と無関係なリブはどうすればいいゴブ?」
「我が話し終えるまで全員正座!動いたら殺す!いや、手加減して死んだほうがマシなぐらい痛めつける!」
「あっ、ハイゴブ」

 こうして、魔王名物・悲しき過去回想が急遽開催となった。
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