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第三章キモヤロウ暴走編

暴走10:キモヤロウ、お布団で泣く

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 燃え盛る船、倒れ伏すレーゼ、死んだと思われていたテスター、そして謎のマッチョ。ニクちゃんは視界に入る数々の情報を整理し、直ぐ様最善の行動へと向かう。

「天狗様!今助けます!」

 レーゼを確保する為に真っ直ぐ走るニクちゃん。だが、その動きはテスターに読まれていた。

「やっぱニクちゃんならそうするよな」

 真っ直ぐに進むニクちゃんにファイアーボールが放たれる。

「まわし受けですっ!」

 腕の動きだけでファイアーボールを弾き飛ばし、レーゼの下に到着。

「今の攻撃で確信しました!テスターさん、貴方はやはり魔族側で、ニクちゃん丸を燃やし天狗様を倒したのも貴方なんですね?魔王を倒しに行くとか言ってたのも嘘だったんですね?」
「こないだ会った時は本当に魔王を倒すつもりだった。だが、事情が変わってね。ニクちゃんこそ、魔王との戦いはスルーする気じゃ無かったのか?」
「こちらも、テスターさんとの前の戦いの後色々あったんですよ」

 お互い相手が何者か分かってないが、敵対関係である事は間違い無いと理解した。

「なあ、ニクちゃん。その天使はニクちゃんと契約してるのか?」
「天狗様が何か関係あるんですか?結婚は残念ながら、してませんが」
「…どうやら、スキル試用者では無いみたいだな」
「はい!スキルは使用してません!」
「そうか」

 ニクちゃんの変な返答とテスターのアホのせいで、この期に及んでも自分達の関係に気付かない両者。

「マーガレット、帰るぞ」
「よろしいのですか?」
「俺達は元々船壊しにきただけなんだ。天使はあの通りだし、ニクちゃんは言動からして契約書じゃない」
「しかしですぞ…」
「お前は知らないんだ。ニクちゃんはマジでやべーやつなんだよ。正直、今の俺達でも勝てるか分からん」

 テスターは強引に話を締めくくると、自分の胸にナイフを突き立てた。

「ニクちゃん、どうか今まで通りインゲンの護り人でいてくれ。その方がお互いの為と思うから」

 そう告げると、テスターの姿は消えていき、マーガレットも飛び去って行った。

「テスターさん、やっぱりエルダーリッチだったんですか」

 スキル試用者が死んだらどうなるかを知らないニクちゃんの誤解はさらに深まった。

「って、そんな事よりも天狗様です!天狗様!しっかりして下さい!」

 レーゼの顔面に、ビビビビと高速ビンタするニクちゃん。すると、顔面パンパンになったレーゼはゆっくりと目を開けた。

「天狗様、大丈夫ですか!」
「今のビンタがトドメになりそうッス」
「すみません!」

 レーゼの身体からピコーンピコーンと警告音が鳴り、だんだん透けていく。
 
「俺は当分天界で怪我を治すから、いつ帰ってこれるか分からないッス。だから今の内に大事な事を二つ言うッス」
「はい!ヘソのゴマかっぽじって聞きます!」
「まず謝るッス。実は俺、スキルを使わないニクちゃんに、頼むからスキル使うか死ぬかしてくれねーかなって思っちゃったッス。身内の事やノルマの事でどうかしてたッス」
「だから釣りの時から殺気を放ってたんですね!天狗様がいつガチバトルを仕掛けてくるかワクワクしてました!」

 レーゼの殺意など、ニクちゃんはお見通しだった。

「事情はさっぱりですが、天狗様は複雑に考え過ぎですよ。ニクちゃんなんて、ムカっときたらバキっと殴って解決です!たまに相手が死んじゃうけど、その時はお墓作ってゴメンナサイしてお肉食べればモウマンタイです!」
「あんたには敵わないッスね。それで、もう一つ教えるッスが最後の試用者と天使がマカダミアに居るッス」
「マカダミアって、あの魔法学園のある都市国家ですか?」

 カシューにはホーガンステーキの系列店があるからちょくちょく顔を出すニクちゃんだったが、マカダミアには殆ど行った事が無かった。

「時間が無いから説明出来ないッスけど、魔王側にスキル試用者と天使が最低一人は加わったのが確定したッス。相手のスキルの中には、ニクちゃんをも倒せるスキルがあるかもッス。だから、ニクちゃんが魔王と戦うなら、マカダミアの試用者何としても味方にするべきッス」

 レーゼの点滅が早くなっていく。いよいよ別れの時が近づいていた。

「天狗様!身体がスケスケです!」
「あ、これマジで復活に時間掛かる奴ッス。消える前に、ニクちゃん以外の奴のスキルの事とか言って」
「このステーキで元気になって下さい!」
「モガー!」

 強引に口の中にステーキをねじ込まれたレーゼ。ホーガンステーキの素敵な製造工程を知っている彼は反射的に吐き出そうとし、そこで最後の力を使い切ってしまった。

「オロロロロ!オロっ…」
「あーん!天狗様がゲロ吐きながら消えましたー!」

 その日、ニクちゃんは布団の中でむせび泣いた。
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