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第三章キモヤロウ暴走編

暴走8:キモヤロウ、ラッコを釣り上げる

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 ニクちゃんが船を作り始めてからそれなりの日が過ぎた。

 相変わらずスキルをほとんど使おうとしないニクちゃんを見て、やはり排除するしかないのかと思うレーゼだったが、試用者は簡単には殺せない。自動復活に加え、ニクちゃんが普通に強い。

「ニクちゃん、もっとスキル使いましょうッスよ」
「もう十分使いましたよー、その上で使わない方がニクちゃんは強いと結論づけました。これも立派なデータですよね?」

 それは正しい。しかし、それでは駄目なのだ。ヒースとマーガレットは未だ帰ってこない。二人の契約した試用者はどんな人物か詳しい話はレーゼには分からないが、スキルを有効活用出来ていなかったとは聞いている。契約者が結果を出せていなかった事と二人がいなくなった理由に関係があるのなら、次はレーゼがそうなってもおかしくはない。

「…」
「天狗様、引いてます」
「あ、どもッス」

 レーゼが釣り竿を上げるとイワシが掛かっていた。

「これは煮干しにしましょう」
「そっスね」

 二人は海岸で釣りをしていた。狙いは大型の海獣である。海獣の油を船に塗り込めば魔物よけの効果があるのだ。ニクちゃんが魔王城に乗り込んでいる間に船を襲われたら帰る手段が無くなる。ニクちゃんだけなら最悪デスワープするか、海を走れば帰れるが、他のツワモノはそうは行かない。

「ニクちゃん、引いてるッス」
「おお~っ、このしなり方は間違い無く大物です!シードラゴンか、クラーケンか?今日のご注文はどっち!」

 船に塗る油を確保したら残りの部位は食卓に並ぶ。豪華な夕飯を期待しヨダレをドバドバ流しながらニクちゃんが竿を持ち上げた。

 ザッパーン!

「マリアー!どこだー!マリアー!」

 水飛沫を飛ばしながら、吠えるラッコマンが釣り上げられた。

「今夜はラッコ鍋ですね!」
「待つッス、それ多分人間!」
「そーれノッキンノッキン!」

 レーゼの静止を聞かず、ニクちゃんは、釣り上げられた後もピチピチしているラッコマンの頭にノッキンして無力化しようとする。しかし、ラッコマンは素早く立ち上がりノッキンを回避すると、高速のパンチを連打して反撃を開始した。

「貴様も魔王軍か、ならば秘技・ラッコンボ!」

 ジャブからのローキック、ニクちゃんの足を止めた所さんでボディに正拳突きを放つ。

「ぐっはー!」

 これにはニクちゃんも悶絶!

「ニクちゃんがダメージを受けている!?あのオッサン何者ッスか!?」

 ラッコマンの正体は、神様がノリで作ったスキルで変身したクレイムである。しかし、残念ながらレーゼはクレイムの見た目もラッコマンの見た目も知らなかった。もし、この時にクレイムが試用者だと気付いたなら、人類側全員にとってプラスなイベント発生となったのだが…、現実は非情である。


一方、ニクちゃんの安否だが、ニクちゃんはこの程度では倒れない女だった!地面に血を吐きながらもファイティングポーズは崩さず勝負続行。

「今のは効きました、貴方の強さには感謝感激!ニクちゃんも奥義でお応えしましょう!」

 そう言い、ニクちゃんはラッコマンの尻尾を掴んでブンブンと振り回す。周囲の砂を吹き飛ばす程の竜巻となった時、ニクちゃんはラッコマンの尻尾を手放した。

「これぞホーガン流奥義、八艘飛びです!!」
「マリアアアアアーーーー!!」

 ホーガン流奥義八艘飛びとは、その名の通り敵を船八艘分以上の遠くに投げ飛ばす技である。特にニクちゃんの八艘飛びは歴代最強のソレであり、ラッコマンは奇声を上げながらマカダミアの方まで飛んでいった。

「しまったー!食べたり油を取る為に釣ったのにリリースしてしまいました!」
「ドンマイッス」

 テスターの時に続き、今日もまた試用者をスルーしてしまったニクちゃんだった。
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