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第三章キモヤロウ暴走編

暴走2:キモヤロウ、スキルコピーを得るが相手がいない

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「天狗様!おはようございます!さ、ニクちゃんの自慢の料理を堪能して下さい!」
「朝からいきなりステーキッスか」
「イエース!ニクちゃん印のホーガンステーキはこの道場とカシュー国のレストランでしか食べられない特別なお肉です!」

 裏山ダブルクレーターの翌日、レーゼはステーキを食べながら今日のスキルについて説明した。

「ニクちゃん、今日のスキルなんスけど」
「お味はどうですか!」
「ウマいッス。けど、味が濃いからすぐ飽きるッス。で、今日のスキルなんスけど、コピーッス!その名の通り、他人のスキルをコピー出来るッス!」

 今日はアタリスキルだろと自信満々に語るレーゼだったが、やはりニクちゃんの反応は悪かった。

「駄目ですね」
「どうしてッスか?」
「人類全てにスキルが与えられた時ならともかく、ニクちゃん以外にスキル持ちがいない今、どうやってスキルをコピーするんですか?」
「あっ」

 指摘を受けてようやくレーゼは問題点に気付いた。彼はあの神に作られた存在であり、ヒースの弟である。やはり彼もなんやかんやアホの血統なのだった。

「しゅーりょー!本日の調査終了ッス!」
「では、今日はラブラブ夫婦生活を満喫しましょう天狗様!」

 例え子供が出来なくてもニクちゃんはレーゼの事が大好きなのだ。自分に殴り合いで勝った上に、伝説の天狗なのだから。そらもう好感度カンストなのである。

「しゃあないッスねー」

 レーゼも試用者と仲良くなる事でデータを得られるならばと、ニクちゃんを拒まなかった。

 だがしかし、この状況を喜ばない連中が居た。そう、今までニクちゃん目当てで道場破りをしてきたツワモノ達だ。

「ニクちゃん!その男は一体誰なんだよ!」

 窓を破って侵入し、絶叫するツワモノA。

「ニクちゃんに彼氏だと!?認めるもんかー!」

 天井の換気口からボトリと落下するツワモノB。

「な、なんかんッスかこいつら!」
「弱いくせに、何度も私に球根してくるツワモノです!しかし妙ですね。この人達はしっかり骨と心を折ったから、半年は来ないと踏んでいたのですか」

 不思議がるニクちゃんに対し、ツワモノ二人は高笑いしながら答えた。

「わっはっは、その理由が聞きたいか?」
「ならば教えてやろう!」

 ツワモノ達は服を脱いで全裸になると、身体を重ね合わせ一体の巨人へと変貌した。

「これぞ融合型魔族!俺達は魔王軍の幹部を名乗る男からこの力を授かり、一つのツワモノとなった!さあ、ニクちゃんの旦那の座をかけて勝負だ!」
「ええーっ、この国って住人がホイホイ魔族化する様な危険地帯だったんス!?」
 
 意気揚々と勝負を挑むツワモノを見て、レーゼは震えながら彼らに聞いた。

「あ、違う違う。我々はニクちゃんにやられた傷のリハビリの為に海で泳いでたのだが、ついノリでピスタチオまで辿り着いてしまってな、腕試しをしていたらどんどん強い魔族がエンドレスで現れ、遂に力尽きこのまま死ぬか魔族になるかの二択を突きつけられたのだ」
「完全自業自得のアホだったッスね」
「ならばニクちゃんも全力で貴方達との決着をつけましょう!天狗様、私達も合体です!」

 ニクちゃんは布団を敷き、レーゼを中に押し込み、自分も布団にインする。

「ニクちゃん!こんな時に何をやるッス!?」
「こんな時だからこそですよ!私の今日のスキルはコピー!もしかしたら、魔族が持つ固有の力とかも真似出来るかも知れませんね!レッツ検証!」

 レーゼはスキル検証の為に生まれた天使である。検証と言われたら断れない。

「ムッフー!ムッフー!ムッフー!ムッフー!」

 布団の中で二つのコブがグネグネと動き、やがて、汗だくになったニクちゃんとレーゼが飛び出ひた。

「駄目でした~!ただ楽しくて気持ち良かっただけで合体出来ませんでした!仕方無い、いつも通りに相手してやります!」

 しかし、融合巨人はそこには居なかった。そこには人間二人分の灰があるだけだった。ニクちゃんとレーゼの合体チャレンジを間近で見せつけられた彼らは完全に心が破壊され、肉体が崩壊したのだ。

「布団に入って布団から出たら、何か勝手に死んでたッスー!」
「せめて墓は作ってあげましょう。裏山に丁度良い穴があります」

 今日もまた、スキルは役に立たなかった。
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