スキルテスター!本来大当たりなはずの数々のスキルがハズレ扱いされるのは大体コイツのせいである

騎士ランチ

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第二章カスヤロウあがき編

あがき5:カスヤロウ、神の考えの逆をひた走る

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 家の外では、マリアが領民に対しゴブリン退治の成功と、これからについて演説をしていた。

「異世界から聖女様が降臨為されてから、もうすぐ一年になります。彼女は何もせずに帰ったとされていますが、それは部分的には正解で部分的には間違いでした」

 よすよす。私の書いた原稿に従い、マリアは上手く領民の心を掴んでいる。

「彼女は去り際にこう言いました。この世界の問題はこの世界の人が解決すべき問題だと。それは、聖女様が我々を見捨てたという事でしょうか?いいえ、違います」

 私ならマリアより上手く演説する事が出来ただろう。しかし、今の私はラッコマン。

「神様は、新たな手段により私達をお救いする事にしたのです。私を新たな聖女とし、私を守護する為に、四人の人間に聖女の力を分け与えたのです」

 私の名はクレイム。この国で一番頭が良く、貝を腹に乗せて石で割る。

「その内の一人は私の父クレイムでした。彼は戦闘の経験が無いにも関らず、一晩でゴブリンを全滅させました。これこそ、聖女の力の一部を父が得た証拠に違いありません」

 私はベッドから立ち上がり、ラッコダンスを始めた。

「天使マーガレットは告げました。カシューとマカダミアとインゲンにも聖女の力を授かりし戦士が居ると。彼ら聖女の四戦士は、間もなくこのアーモンド国に集まり、そして、魔王の住む地ピスタチオを目指すでしょう」
「ラッコらしょ、ラッコらしょ、ラッコらしょしょしょ!」

 家の外でマリアの演説がクライマックスに入った頃、家の中で私のラッコダンスが始まった。

「男爵領の民よ、貴方達は新たなる聖女の最初の奇跡に立ち会った選ばれし民です」
「私はラッコマン、得意な事は川走り」
「ゴブリンがいなくなった今、農業を再開し、また、余裕のある者は今日の話を人々に伝導して下さい」
「ラッコパンチは岩砕き、ラッコシェルは無敵盾、ラッコストーンで頭割り、ラッコダンスでハッピーだ」
「人々に聖女信仰を取り戻す、それが人類の最優先すべき使命であり、貴方達の力が必要なのです」
「もう我慢できん!どけ、マーガレット!私のラッコダンスを領民に見てもらう!」

 私は止めようとするマーガレットをラッコ一本背負いで投げ飛ばし、窓からダイブした。

「縮地!」

 ビタァァァァン!!!

 ノーブレーキで地面に激突。そうか、今日は縮地使えないのだったな。しかし、問題無い。今日の私はラッコマン。らっこラッコ猟虎シーオッターだからノーダメージだ。

「領民よ、マリアの演説の後は私のラッコダンスを楽しんてくれ!」
「もう皆帰りましたよ。さ、お家に戻りましょう」
「…うん」

 私の尊厳は守られた。そして翌日、王都からの使者がこの地に到着した。

「クレイム・ナード男爵、ここ数日に何があって、貴方が何をしたのか王都にて話して貰いたいとの事です。馬車に乗っていただけますか?」
「うむ、私としても陛下に説明せねばと思っていた所さんだ」

 私とマリアとマーガレットは馬車に乗り込み王都へ向かう。その途中、マーガレットはずっと不満気だった。

「契約者殿、はっきり言って貴方の行動は神の意志とは違う方向へと向いていますぞ」
「そうだな。本来ならば、スキルの力はまだ公にせず、試用者個人のデータを集めてから人々にその存在を流布する予定だったのだろう?」
「その通りですぞ。それが分かっていながら、貴方様はスキルの力をどんどん民衆に広めていってしまってますぞ」
「契約書には、スキルの事を外部に漏らした場合のペナルティなど書いてなかったからな」
「それでも普通は、自分だけが未知の力を手に入れたならその事実は暫くは隠しておくのが人の心というものでは?ですぞ」

 そんなの知るか。というか、私より先に三人の試用者がいて、そいつらがそれぞれ十のスキルを持っていて後発の私は余りの二つな時点で『自分だけ使える未知の力』という前提は消し飛んでいるだろう。

「マーガレット、君の目的はスキルを得た人間のデータ収集だろう?ならば、契約文面や君への質問から得た情報を利用し、好き勝手する私の行動も立派なデータだ。私に罰が下るとしたら、それは神がする事であり、君は何も心配する事は無い」
「ですぞ…」

 さあ、懐かしの王都だ。果たして、私の行末は斬首か神罰か、それとも栄光か。
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