スキルテスター!本来大当たりなはずの数々のスキルがハズレ扱いされるのは大体コイツのせいである

騎士ランチ

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第二章カスヤロウあがき編

あがき4:カスヤロウ、特技は手柄の横取り

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「縮地!縮地!縮地!」

 私の名はクレイム。この国で一番頭が良く、故に時間は一秒たりとも無駄にしない。

「縮地!縮地!縮地!」

 今私はゴブリンがひっそり住んでいるという地点に、マリアとマーガレットを連れて向かっている。縮地を連打してピョンピョン跳ねながら。

「お父様、五月蠅いから普通に歩いて下さい」
「心配するな。ゴブリンの生息地に近づいたら一旦辞める」

 明日にはラッコの着ぐるみを着た初老になってしまう事はショックだが、そんな事にクヨクヨしても時間の無駄だ。私の明晰な頭脳は、さっさとゴブリンを倒す事と縮地を磨く事を最優先とした。

「縮地!縮地!縮地!」

 この縮地、ほぼ間違いなく戦闘の役にはたたんが、愚民に対し奇跡を見せるという点におあては、かなり効果が期待できる。

「縮地!」

 人は空を飛べない。だから、空を飛ぶ竜を恐れ、天使を敬い、鳥に憧れる。

「縮地!」

私が華麗に空中浮遊すれば、それだけで聖女の奇跡の使い手として信頼されるだろう。その為にも、反復練習あるのみ。

「縮地縮地縮地ー!む、そろそろゴブリンに気づかれるかもしれんな。マーガレット、ゴブリンの様子を見てくるのだ」

 私はマーガレットに命じたが、彼はそれに従わず言い返してきた。

「吾輩、そんな義務ありませんぞ」
「確かに、君の役割は観測者でしかない。なら、私がゴブリンに向かって真っ直ぐ歩いていくから、死にそうな目に遭ったら守ってくれ」
「試用者殿には自動復活があるから、この場で守る必要は無いのですぞ」

 ふん、そうきたか。だが、これもまあ想定内だ。私はこんなケースも考えずにここまで来た訳ではない。

「ならばマーガレットよ、私が復活条件を満たせずに本当に死にそうな時は助けてくれるのだな?」
「その時は流石に助けますぞ」
「それを聞けて良かった。実は外出前に自室に爆弾を仕掛けて来てな、ベットに人が乗ったら爆発する仕組みになっている」
「「えっ」」

 マーガレットとマリアの驚きの声がきれいにハモる。

「確か、復活地点に設定した場所が無事な事が自動復活には必要だったよな?では、行ってくる」

 私がゴブリンの住処に向かいダッシュすると、青ざめた顔の二人が全力で追いかけて来た。

「お待ち下さいですぞ!守りますぞ!貴方にガチで死なれたら神にどれだけ怒られるか分かりません!だから、一人で前に出ないで下さいぞ!」
「そうよ!マーガレットさん!もしお父様が死んだら、自宅のベットにポーンでチュドーンでチーンで、私の住む家と社会的地位も死ぬから死ぬ気で守ってー!」

 まあ、ベットの下に爆弾があるなんて嘘なのだが、すっかり信じてくれた様で何よりだ。これでマーガレットの力でゴブリンを全滅出来る。

 さあ、後は私がここまで近づいても起きてこないマヌケなゴブリンを一掃するのみ。ゴブリンは夜行性。ここに来るまでに日が沈み始めてはいたが、ゴブリンの活動時間はもうちょい先。とはいえ、ちょっと静かすぎるな。

「村の青年団から聞いた話ではこの辺り、もういつ出合ってもおかしくはないのだが…」

 注意深く草むらを観察し、ゴブリンを探す。もしかしたら、既にこの辺りから逃げ出し次の住処に行った後かもしれない。領主としては、それも結構なのだが、今は死体を持ち帰りたい。頼む、まだ居てくれ。

「居た」

 居た、というのは正確では無いかも知れない。ゴブリン達は確かにそこに転がっていた。死体となって。腐敗具合から、死んだのは結構前、そして、全ての死体が何者かによる他殺だった。領民達がここまで踏み込む事が無かった事と、元々大人しい集団だった事で今まで全滅に気付かれ無かったのだろう。

「ゴブリンの駆除完了だ」
「流石ですね、お父様」
「ええー…」

 犯人は不明だが、ありがたい。私の手柄にしてやろう。

「マーガレット、腐敗の少ない死体から耳と指を集めて討伐の証拠としよう。マリアは穴を掘ってくれ」

 こいつらの墓を作る。それは私達が退治した証拠の一つとなるし、埋葬すれば本当の死亡時期を隠すことが出来る。ついでに私の罪悪感も少し軽くなる。

「天に召します我らが神よ、人々との争いを避けながらも無惨に死を向かえた、この哀れな者達の魂をお導き下さい」

 簡易的な墓を作り、三人でゴブリン達の冥福を祈ってから、回収した指と耳を持って帰宅。

「さてと」

 帰ってきた私は、まずは執務室で明日の演説の為の原稿を書いた。最初はラッコの姿でも威厳を保てる文面にしようと考えたが無理ゲーだったので、マリアに演説させて私は自室に籠もっておく方向で考え直した。

「よし、でけた。次は王への手紙だ」

 王太子の婚約破棄のせいで、聖女が何もせずにボッシュートされてしまって以来、私達親子は王都立入禁止の身だ。しかし、聖女が見つかったとなれば話をするチャンスはあるだろう。これから私がやろうとする事には、国王の協力が必要不可欠なのだ。

「でけた」

 手紙を書き終えた私は、休む為に自室に向かう。

「そう言えば、何か忘れている気がするな」

 自室に入ると、血眼になって爆弾を探すマリアとマーガレットがいた。

「お父様!爆弾ってどこに仕掛けたのおおおお!!!」
「場所を吐くですぞおおおお!解除するですぞおおおお!」
「あれは嘘だ」

 私はマリアのローリングソバットを顎に受けてベッドに沈んだ。
 
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