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第二章カスヤロウあがき編

プロローグ

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 私はクレイム。このアーモンド王国で一番頭が良く、皆から尊敬の念を集める男だった。

 この国には聖女会という聖女の活動を支援し、聖女の伝説を語り継ぐ組織があり、私はそこの一員だった。

 そして、幸運にも私が聖女会に入った頃魔物が徐々に活性化し新たな魔王誕生の噂が立っていた。これは非常に喜ばしい事だった。魔王ある所さんに聖女あり。聖女が降臨したとなれば聖女会は金だけでなく権力まで手に入る。

 私は金と権力が欲しかった。貴族の一番下である男爵家に生まれた私は、自分より上の奴らばかりの社会に嫌気が差していたが、貴族を辞める事も出来なかった。ならば、何としても偉くなるしか無かった。

 聖女会の力が強まるのを予見した私はあらゆる手を使いのし上がり、王家との交渉の場に立つまでになった。だが、私の目的は寧ろここからだった。私は王家にこう提案した。この国の王太子と聖女を契約結婚させて、聖女を生涯この国に定着させるべきだと。

 聖女は基本的には、魔王を倒し世界を救ったら元いた世界に帰るとされている。しかし、異世界からの召喚された存在は、契約結婚を行う事でこちらの世界に残留出来る事が過去の文献に記されていた。ならば、聖女にも同じ事が可能と私は考えたのだ。

 王家の説得は成功し、私は王太子の教育担当となった。この王太子は、国王の長男では無い。契約結婚による束縛を強める事を期待し、王家で一番魔力の強い子供を急遽王太子としたのだ。

 王太子テスタメントは、魔力以外の全てが無能な少年だった。平民の様に純粋で無力で、せっかくの魔力の才能も使う術を持たず、だからこそ操るのは容易い存在だった。

 私は自分の娘を使い王太子を骨抜きにして、国王亡き後はお飾りの王となったテスタメントと政治力の無い聖女を裏から操り世界の頂点に立つ予定だった。幸い、国王は王太子の馬鹿っぷりを世間に公表したくないが為に学校へは通わせず、元々の継承順位も低かったから誰も王太子には興味を持たず私の洗脳教育は順調に進んでいた。

 だが、私は計算ミスをした。私の娘は私が思う以上に魅力的であり、王太子は私の予定以上にバカヤロウに育ってしまった。

「俺は聖女とは結婚しない、ずっと俺を世話してくれたこの男爵令嬢と結婚する!よって婚約破棄だ!」

 この世界に召喚された聖女を迎える場で、王太子はこんな事を叫んだのだ。彼は何故自分が王太子なのか、この契約結婚がどれ程重要なものなのかを全く理解していなかった。

 それからは滅茶苦茶だった。聖女の永住を狙った契約結婚が破棄された事で効果が反転し、聖女は何も為さずに元の世界へと帰還していった。国王は怒り狂いテスタメントを廃嫡。これに対しテスタメントは売り言葉に買い言葉で自分が魔王倒せば問題無いだろとほざき、彼はめでたく国外追放となった。

 国内でも人々に殆ど認知されていなかった元王太子だ。他国では彼の正体を知る者はまずいない。きっと今頃は自分の実力も理解せず魔物に突撃して無駄死にしている事だろう。

 そして、そんなバカヤロウのやらかしにより私は全てを失った訳だ!今の私は娘と共に男爵領に引き篭もり、人々の罵声を耳を塞ぎ耐える日々を送っている。

 ああ、聖女さえ居れば私は世界を取っていたのに!力が、力が欲しい!この罵声を退ける聖女の力が!いや、この際、力なら聖女ので無くでもかまわん!今の私何にでも魂を売り渡したい気分だ!

「貴方様の心の声、しかと聞きましたぞおー!」

 突然、野太い男の声が部屋に響き渡った。民の罵声でも無いし、娘の声でも無い。勿論私の声でも無い。

「だ、誰だ!姿を現せ!」
「吾輩はマーガレット!魔を払う事を強く願いながらも自らはその力を持たない哀しき存在を救済する天使ですぞ!この世界は聖女システムが終了し間もなくスキルシステムに移行しますぞ!そして、貴方様はスキルの機能を確認する試用者に選ばれたのですぞー!」

 おいおいマジか、それが本当なら私と聖女会完全にオワコンじゃないか。だが、この自称天使の言っている話、もう少し詳しく聞くべきだ。今の私には味方は一人もいない。ワラにもすがる思い出私は男と話をする事にした。
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