上 下
8 / 55
第一章バカヤロウやらかし編

やらかし7:バカヤロウ、完全に死ぬ

しおりを挟む
「馬鹿金髪、おはよーさん。今日のスキルは死に戻りや」
「死に戻りって何だ?」 
「えーとな、死んでも記憶持ったまんま戻ってくるスキルって神様が言っとった」
「自動復活と効果一緒じゃねえか!ハズレだこんなん。」

 その日の朝、ヒースからいつもの様に日替わりスキルの説明を受けたテスターだったが、死に戻りの説明を受けた途端にガッカリした。

「何で自動復活持ってる俺に、自動復活と同じスキル試させようとしてるんだよ。神様ってアホなのか?」
「否定できへん。神様は自分の作ったスキルがどんな感じで発動するか分からへんから、試用者にやらせとる訳で、うん、まあ、神様もミスの一つや二つするかも。でもなあ、アタシが地上にくる前にしっかりとテストするスキルが何か、神様や他の天使を交えて確認したんやけどなあ」

 ヒースは納得いっていない様子だったが、テスターからすれば今日はスキルを貰わなかったに等しい。

「まあ、ハズレスキルなのはいつもの事だ。今日はゆっくりしろって神様が言っていると思う事にしよう」
「うーん、自動復活と同じスキルなんて入ってないハズなんやけどなあ」

 テスターはそれ以上死に戻りについて深くは考えず、自室を出て宿屋の食堂に向かった。

「よっ、ご両人!今日は何回戦したんだ?」

 食堂に入ると、酒臭い冒険者が下品な冗談を言ってきた。

「片手で数えられるぐらいだったかな。ヒース、覚えてる?」
「3回や」
「ぐへへ、二人とも元気だねえ。おじさんにも分けて欲しいねえ」

 ヒースの事については、『最近買った奴隷』と周囲には説明している。テスターは冒険者や社会人としては超のつくアホだが、こういう時のごまかしはそこそこ上手かった。

 この宿屋に来た当初は、ヒースの身体目当てで近こうとする男もいたが、「アタシこう見えて女とちゃうねん」と言ってからは声を掛ける者は殆どいなくなった。ヒースとしては、天使だから生殖が出来ない事を簡潔に説明しただけだが、冒険者達からは同性カップルと誤解を受け距離を取られる事となった。

 しかし、そんな二人に今も堂々と話し掛ける男が一人いた。それがこの酔っ払い、この町最強の冒険者にしてテスターと同レベルの駄目人間ブライアンである。彼に話し掛けられる度に、テスターとヒースはイチャイチャ同性カップルのフリを続けなければならないのだった。

「お前ら、今日は随分とゆっくりしてんなあ。ここ最近は一日中部屋でドタバタしてるか、無人の採取地でデートしてるかだったじゃねえか」
「ははは、流石に疲れたから今日はオフって訳です」
「採取地では気をつけろよ~、お前らはいつも夕方には帰ってるから良いけど、日が沈むとゴブリンが出るからなあ。グヘヘヘ」
「は、はい。グヘヘヘ。じゃあブライアンさん、俺達は買い物言ってくるからこれで。夕飯適当な店で食ってから帰りますんで」
 
 実際の所さん、何度もゴブリンと出会ったし、何度もゴブリンによったりよらなかったりして死んで、その度にデスワープして宿屋の自室に帰ってるのだが、そんな事言えるはずも無く適当に愛想笑いで誤魔化してやり過ごすテスターだった。

「アタシ、あのオッサン苦手やわ」
「俺も。でもまあ、面倒見の良い人なんだよ。この町に流れ着いたばかりの俺に、冒険者としての基本とかを教えてくれた恩人でもある」
「その恩人の教え無視して、ゴブリンに挑んで返り討ちにあっとるお前は、ホンマ馬鹿金髪やな」

 他愛の無い会話をしながら、テスターとヒースは町を巡る。適当な店で買ったお菓子を食べ、公園で休憩し、本屋で好きな本を買い、気がつけば夕飯の時間だ。

「じゃあ、今夜はここで夕食にするか」

 テスターが夕食の場に選んだのは、そこそこリッチな層向けのレストランだった。

「一度も死なずに、そして頭の中がやかましい事も無く一日を終える。当たり前の事なのに、なんだか久しぶりな気がするなあ」
「…うーん」
「どうした?まだ死に戻りの事考えてるのか?そのステーキ冷める前に食えよ」

 レストランに入ってから、ヒースの様子がおかしい。レストランに来るまではお菓子や本を見て子供みたいに喜んでいたのに、ステーキを奢った途端口数が急に減った。

「やっぱおかしい」
「え?」
「テスター、アンタ底辺冒険者の癖にお金持ちすぎやん!その金どっから出てきとるん!?」

 多分読者の大半が気にしていた疑問を、遂にぶっこむヒース。

「前に言っただろ。魔王倒すって実家出る時に親父から貰った手切れ金だって」
「もっと詳しく言わんかい」
「別にいーだろ。つーかさ、俺の事何も知らずに担当なったの?」
「アタシは神様に作られてから、すぐこの仕事来たねん。お前の事なんて、試用者に選ばれた馬鹿金髪な事しか知らんわ」
「それでいいだろ。神様が俺を選んだのなら、俺の過去なんて問題ないって事さ」

 ヒースはまだ何か言いたげだったが、ステーキが本当に冷めそうだったので、一気に口に放り込み水で流し込みレストランを後にした。

「ステーキ美味しかったわ!」

 肉は偉大だ。ヒースが抱いていた相棒へのモヤモヤは肉を食べたら霧散していた。

「だろ?この町の名物だからな。また、暇ができたら食べにいこう」

 やりたい事は大体やったし、後は宿屋に帰るだけ。既に日は沈んでいるが、休日を謳歌した二人には帰り道はとても明るく見えた。

「なあ、なんか俺の家(宿)燃えてない?」
「ホンマや。燃えとる」
  
 二人の向かう先は、燃え盛る炎によってリアルに明るくなっていた。宿屋の入り口では、見覚えのある冒険者が地面に横たわっている。テスターはその男に駆け寄り、名前を呼んだ。

「ブライアンさん!何をやったんだ」

 初手犯人決めつけをかますテスター。テスターはこういう男だ。

「す、すまねえ。実は、お前がベッドの下に隠してる金貨を少しづつ盗んでいた。すぐにはバレない様に、銅貨を袋の底にいれてな」

 火災とは別の事件の犯人だった。ブライアンとはこういう男である。

「グヘヘ、それでよ、そろそろ気づかれそうだから今夜こっそり逃げようとしたらこのザマって訳さ。バチが当たったんだろうなあ…ガクッ」
「そんな事より、この火事とブライアンさんの怪我は誰が!?いや、それもどうてもいい!ヒース、何とかしろよこの状況!」
「無理や」

 テスターはヒースに振り返り助けを求めるが、ヒースは冷たく拒絶の言葉を吐いた。

「無理なんよ。アタシは人類が自力で生きていく事が出来るかを観測する為にしか動けへん。お前を助ける以外は出来んようなっとる」
「具体的には何が出来て何が出来ないんだよ!」
「スキル試用者をサポートし、そいつが逃げたり完全に死んだりするのを防ぐ。それ以外には文字通り人並みの美少女や」
「分かった!んじゃあ、ここ危ないから逃げるぞ!宿を焼いた放火魔や、ブライアンさんを襲った犯人がいつこっちに来るか…」

 死亡フラグそのものなセリフを吐いた直後、テスターは背中に衝撃を感じ倒れた。倒れたまま振り返ると、白煙を上げる銃を持ったゴブリンがこちらを睨んでいる。

「お、お前いつものゴブリンか!何で町にまで来てるんだ」

 ゴブリンはそれには答えず銃を連射した。

「ぐっ…、おいヒース!何とかしろ!お前の担当している人間のピンチだぞ!」
「ま、えーんちゃうの?どうせアンタ復活するし。いやまって、今宿屋燃えとるやん!ゴメン、アンタもう生き返れんかもしれへん」
「そ、そんな!」
    
 死んだら一定の場所から復活する能力を持っている者は、その多くがその復活地点を破壊されると復活しなくなる。バンパイアが棺桶壊されたら復活しなくなるのが分かりやすい例だろう。

「う、うわ~!」

 いつものとは違う死の感覚が、テスターを襲う。自動復活が機能しないという、ヒースの言葉が真実である事を否が応にも気付いてしまう。

「いやだぁぁぁぁ!俺は!魔王を倒すのぉ!こんな所さんでゴブリンごときに死にたくないのぉ!何でこうなったー!」

 こうなったのも、テスターが何度もゴブリンに情報を提供し、ヒースがそれを傍観していたから、つまり自業自得である。

「それは!そのジュウは!俺が、俺だけのモノのはず!俺は聖女に代わる、いや、聖女を超える選ばれた存在ィィ!」
「やはりそうか。だったら俺等の為、ここで死んでくれ」

 脳天に銃弾を撃ち込まれたテスターが最期に思ったのは、『ゴブリンってこんな風に流暢に人の言葉喋れたっけ?』だった。

 そして死に戻りが発動し、テスターは目を覚ます。

「うわあああ!めっちゃリアルな悪夢見た!」
「おはようさん、今日のスキルは死に戻りやで」

 スタンピードまで後十六時間。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

わたくし悪役令嬢になりますわ! ですので、お兄様は皇帝になってくださいませ!

ふみきり
ファンタジー
 アリツェは、まんまと逃げおおせたと思った――。  しかし、目の前には黒いローブを着た少女が、アリツェたちを邪教徒と罵りつつ、行く手を阻むように立ち塞がっている。  少女の背後には、父配下の多数の領兵が控えていた。  ――作戦が、漏れていた!?  まさか、内通者が出るとは思わなかった。逃亡作戦は失敗だ。  アリツェは考える。この場をどう切り抜けるべきかと。  背後には泣き震える孤児院の子供たち。眼前には下卑た笑いを浮かべる少女と、剣を構えてにじり寄るあまたの領兵。  アリツェは覚悟を決めた。今、精霊術でこの場を切り抜けなければ、子供たちの命はない。  苦楽を共にしてきた家族同然の子供たちを、見捨てるなんてできやしない!  アリツェはナイフを握り締め、自らの霊素を練り始めた――。  ★ ☆ ★ ☆ ★  これは、ひょんなことから異世界の少年悠太の人格をその身に宿した、貴族の少女アリツェの一代記……。  アリツェは飄々とした悠太の態度に手を焼くも、時には協力し合い、時には喧嘩をしつつ、二重人格を受け入れていく。  悠太の記憶とともに覚醒した世界最強の精霊術は、幼く無力だったアリツェに父と戦う術を与えた。  はたしてアリツェは、命をつけ狙う父の魔の手を振り払い、無事に街から逃げのびられるのだろうか。  そして、自らの出生の秘密を、解き明かすことができるのだろうか――。    ◇★◇★◇ ●完結済みです ●表紙イラストはアメユジ様に描いていただきました。 【アメユジ様 @ameyuji22 (twitterアカウント) https://ameyuji22.tumblr.com/ (ポートフォリオサイト)】 ●スピンオフ『精練を失敗しすぎてギルドを追放になったけれど、私だけの精霊武器を作って見返してやるんだからっ!』も公開中です。 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/598460848/814210883】 【小説家になろう、カクヨム、ノベルアッププラスにも掲載中です】

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

異世界の約束:追放者の再興〜外れギフト【光】を授り侯爵家を追い出されたけど本当はチート持ちなので幸せに生きて見返してやります!〜

KeyBow
ファンタジー
 主人公の井野口 孝志は交通事故により死亡し、異世界へ転生した。  そこは剣と魔法の王道的なファンタジー世界。  転生した先は侯爵家の子息。  妾の子として家督相続とは無縁のはずだったが、兄の全てが事故により死亡し嫡男に。  女神により魔王討伐を受ける者は記憶を持ったまま転生させる事が出来ると言われ、主人公はゲームで遊んだ世界に転生した。  ゲームと言ってもその世界を模したゲームで、手を打たなければこうなる【if】の世界だった。  理不尽な死を迎えるモブ以下のヒロインを救いたく、転生した先で14歳の時にギフトを得られる信託の儀の後に追放されるが、その時に備えストーリーを変えてしまう。  メイヤと言うゲームでは犯され、絶望から自殺した少女をそのルートから外す事を幼少期より決めていた。  しかしそう簡単な話ではない。  女神の意図とは違う生き様と、ゲームで救えなかった少女を救う。  2人で逃げて何処かで畑でも耕しながら生きようとしていたが、計画が狂い何故か闘技場でハッスルする未来が待ち受けているとは物語がスタートした時はまだ知らない・・・  多くの者と出会い、誤解されたり頼られたり、理不尽な目に遭ったりと、平穏な生活を求める主人公の思いとは裏腹に波乱万丈な未来が待ち受けている。  しかし、主人公補正からかメインストリートから逃げられない予感。  信託の儀の後に侯爵家から追放されるところから物語はスタートする。  いつしか追放した侯爵家にザマアをし、経済的にも見返し謝罪させる事を当面の目標とする事へと、物語の早々に変化していく。  孤児達と出会い自活と脱却を手伝ったりお人好しだ。  また、貴族ではあるが、多くの貴族が好んでするが自分は奴隷を性的に抱かないとのポリシーが行動に規制を掛ける。  果たして幸せを掴む事が出来るのか?魔王討伐から逃げられるのか?・・・

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

処理中です...