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断章:テスター劇場・監督脚本主演全部俺

E世界の俺

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 俺の話を聞き終わると、もう話す事は無いとばかりに三人は構えを取る。

「社会に順応しちまった老害と平和な時代に育ったアマちゃんは分かるんだが、ヒース君も俺の敵になんのかよ?何で?お前も誰よりも強いって証明したいだけで生き続けたんだろ?」
「だから、お前を倒して最強となるんだよ!後、俺はゴン先生に憧れてたんだ。それなのに、中身がこんなんだったなんて…」
「あー、それはメンゴ。可愛くてごめんねぇ」
「もうお前喋んな!死ね!オール・エレメンターズ改!」

 怒りの叫びと共にヒース君は真っ黒な剣を持ったゴーレムを召喚し、それに乗り込んで俺に突撃してくる。

「成歩堂、時の大精霊の力を剣に集める事で他の大精霊との反発を最小限にしたのか」

 前の世界で見た時よりも安定し、出力も上がっている。短期間で良くここまで改良したもんだ。

「セクス・エレメントアタック!」
「おおーっ、こっちも新技かよ!」

 リーンは全ての大精霊を個別に召喚してぶつけて来た。ムライの雷獣を参考にしたと思われるが威力は段違いだし、属性がバラバラだから防御もままならない。

 よし、一旦逃げよ。

「バルサミコスペシャルや!」
「そうだ、こいつも居た!」

 レーゼは経験や技術は二人には及ばない。だがら彼女は土と風の魔術で俺の逃げ道を封じ、リーンとヒースの攻撃のサポートをする。

「「「くたばれバカヤロウ!!!」」」
「あ、駄目だ。直撃コースだこれ」

 時の魔術がパンパンに込められた剣でしばかれて完全に動きが止まった所さんに、全ての大精霊のグーパンが直撃する。

「前が見えねえ」

 顔面は陥没し、手足はバッキバキ。内蔵全損で辛うじて声帯は無事だったので声は出せるが、普通なら間違いなく致命傷だ。

 だが、俺は普通では無い。特異点だ。この物語の主人公となる男だ。三位以下の主人公補正相手にこのまま負けるはずなど無いのだ。

「巻戻れ」

 俺がそう呟くと同時に、肉体の復元が始まった。止まっていた心臓は動き出し、手足の神経は繋がっていく。

「貴様、やたら油断しとると思ったら、そんな奥の手があったのか」
「フッフッフ、驚いた?時の魔術を極めたらこーんな事も出来ちゃう訳!俺を殺したきゃ、バラバラのミンチにすべきだったな!まあ、今ので魔力大分使っちゃったお前らには無理な話ですがね?」

 俺だって、自分がクズだと思われる事は分かっていた。それでも本当の事を話したのは、相手を怒らせて疲れさせる為。俺の目的はこいつらを殺すをじゃなくて、魂を取り込む事だからな。

「お前らが俺に内緒で手を組んで、新技まで用意してたのは見事だった。でも、切り札は最後に出した方が勝つんだよ」
「なら、アタシらの勝ちやな。やったれフリン!」
「フリン?」

 想像してない名前を聞いて、俺の頭が固まる。フリン、誰だっけ?思い出そうとしていると、突然俺の尻に激痛が走った。

「ぐぎゃー!」

 振り返ると、長身のイケメンが俺の尻にカンチョーしていた。

「お、お前はフリン!変態三銃士のフリン・アラモード!」
「そうだ。お前のせいで世界から存在を消された男だ」
「あれはバートとレーゼとヒース君が悪いだろ!俺のせいじゃねーよ!」
「そこの二人にはもう謝って貰った。そして、お前は実質バートだろ」

 あ、そっか!こいつも特異点になれる条件は満たしてるわ!時の魔術に触れまくってたもんなあ。そんで、口ぶりからしてこいつがリーンとヒース君が手を組む為のメッセンジャーをしてたんだな。…などと考えている場合じゃない!俺の尻に風の魔力が集まっているのを感じる。

「テスターとやらよ、お前は五百年以上の経験と他世界の知識まであるらしいな。ならば、尻の穴から最大威力の風魔術を流された事はあるか?」
「そんなんある訳ないだろ!やめて!お尻の中で指を動かさないでぇー!」
「貴様は国外追放、いや、世界追放だ!」

 フリンの魔術は破壊力に関してはトップクラス、しかし大半の力は大気と混ざり散ってしまうし、コントロールも甘かった。このカンチョーゼロ距離攻撃はその問題点を全て解決したと言える。逃げ場の無くなった嵐は俺の治り切っていない全身を容易く切り刻み、部屋中に肉片を飛び散らせていく。

「ぎゃあー!ぎゃあー!痛いよお!畜生、勝てるゲームと思って油断しすぎた!相手の出方を見てから勝つ強者ムーブの結果がこれか?俺はここまでなのか?いーや、まだ死にたくねえんだよ!」

 フリンの攻撃の始点がケツからだったのが幸いした。俺は自らの意志で首を切り離し、床を転がり逃げる事にした。

「み、認めよう!この場はお前らの勝ちだ!だが、俺は真の最強になるまで諦めない!諦めなければ必ず道は開け…出入り口消えとるー!」

 道なんて無かった。この基地作ったヒース君か、構造を理解しているリーンが扉を消したのだろう。俺も五体満足なら、消えた扉を再び出す事は容易いのだが、そんな事をさせてくれる程、こいつらは優しくはないよね。

「さあ、終わりじゃ。ワシが生み出した愚物よ」
「ヒィィィ」

 今度こそ完全にオワタと観念しかけた時、扉のあった壁がぐにゃぐにゃと歪み、空間に大きな裂け目が生まれた。

「え?」

 俺もリーン達もあっけにとられてその場所を見つめていると、空間の裂け目が広がっていき、人が通れそうな真っ黒なトンネルとなったら、そこから一人の全裸の少年が飛び出した。

「やっと出れたー!ううっ、どこの世界かは分からないけれど、何とか成功したのかな?」

 泣きじゃくりオシッコ漏らしながら泣き笑いしているその少年は、どう見ても探し求めていたアイツだった。

「やあ、エロトピアボーイ。会いたかったよ。君がどうやって帰ってきたのかを聞きたいが、あいにくそんな余裕も無い。いただきマンモスー!」
「誰!?」

 ふっ、やはり運命は主人公に味方するものよ。俺は帰還を果たし完全な特異点となったであろうバートの股間に噛みつき、魂を全力で注ぎ込んだ。
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