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断章:テスター劇場・監督脚本主演全部俺

C世界の私

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 今日、バート・ナードが死んだ。リーン・ルイスの息子バート・ルイスとして最強を演じた最弱の魔術師。私が彼に抱いていた印象は二十年間変わることは無かった。

 ここに来た時の彼は本当に弱く、それは未来の魔術の衰退もあるが、彼自身の怠惰が最大の原因だった。だが、その空っぽの器に過去転生という大魔術が加わる事で、時の魔術に関しては最高の適正を得たのだ。

 その最高(断じて最強ではない)の時の魔術の適正を持った男の遺体を前にして私は悩んだ。

「今日はハンバーグと生姜焼き、どちらにしようかな」

 バートの肉体は既に寿命を迎えているから、ゴンの肉体から乗り換えるのは不可能。そして、バート本人も転生しようとしなら魂が崩れていくと言っていた。本人曰く、世界から「お前はここから出るな」と枷が掛けられた様な感じだったらしい。

 ならば取るべき手段は一つ。バートの死後、新鮮な内に魂の痕跡を肉体ごと取り込む。上手く行けば、バートの時の魔術適正や特異点としての力が手に入るかも知れない。

 以前の私なら、死や自我の崩壊を招くリスクは極力避けただろう。だが、一度死亡したも同然だった事で大胆になったのか、私はバート肉チャレンジをあっさりと選択してしまっていた。無論、魂への冒涜といった感情はゴンを乗っ取った時点で無くしている。

「ふふっ、結局ハンバーグと生姜焼き両方作ってしまいました」

 一度完成してしまえば、最早普通の肉料理と区別がつかない。バートが生前作っていたのを参考にやってみたが上手く行ってよかった。量が量だけに食べきるのが一苦労だったが、ヒースに気付かれるまでに完食する必要があったので、頑張って残さず食べる。

「ヒース君が本当の事を知ったらどう思うかな。俺にも少し寄越せって言うかなー」

 そんな事を思ってる間に無事完食。それと、同時に強力な腹痛と眠気が私を襲う。

「あ、これ、やば、い」

 気がついたら、真夜中だった。食事したのが昼だから、俺はおよそ半日寝ていたらしい。

「ん…、俺どーなったんだ?取り敢えず、現状確認すっべ」

 鏡で全身を映すと、身長が十センチぐらい伸びたバート・ルイスが居た。

「うおーっ、俺デカくなっとりゅ!いや、違う!そこじゃない!確か、俺元々はゴンだったろ!あ、いや、そもそも元となるとジジイの身体だから、とにかく、何でせっかく美少女竜人族になったのに、人間の男に戻ってるんだぁー!」

 外見の事、余命の事、人格の事、なんやかんやショッキングな出来事によりパニックになった俺は研究所内を走り回る。そして、柔らかい敷物の様な何かを踏んで転んだ。

「あいてー!誰だこんな所さんに物置いた悪い子ちゃんは!まあ、俺しかいねえけどさ!で、何だこりは?」

 足元のそれを確認すると、中身の無くなってペラペラになった竜人族の皮だった。

「ご、ゴン?」

 ゴンの抜け殻はさっきまて生きていたかの様に体温が残っていたが、生命活動する為に必要な部分はそっくり消えていた。そして、腹の部分が大きく裂け、そこから体液がこぼれ落ちていた。んで、その体液は俺の全身にベッタリとついていた。

「ゴンの腹から俺が生まれた。そう考えるべきか」

 ゴンの肉体と魂にリーンの魂の欠片が乗っかった状態に、バートの欠片が加わる事で俺が生まれた。それは間違い無い。だって、俺にはリーンとゴンとバートの三人分の記憶あるもん。

「しっかし、三人分となるとリーン・ルイスの人格を保つのも大変だぞ。しっかりと目的を再確認しないとな」

 俺の目的は今も昔も変わらない。この目的に從う限り、俺は見た目がどう変わろうとリーン・ルイスだ。

「俺の目的は三つ。生きる、強くなる、知識を得る、エッチな事たくさんする」

 俺はゴンの皮を広げて、破かない様に注意しながら中へと肉体を入れ込んでいく。あちこち引っ張りながら、どうにか着終わり再び鏡の前に立つと、高身長の美女となったゴンがそこに居た。

「うおー!エロい方のゴン爆誕!あーん、バート様やめてくださいやめてください!」

 俺は自分がバートに襲われている妄想をしながら、両手で胸を揉みまくる。自分一人でやっていてこれだけ気持ち良いなら、リーンやバート相手にしたらもっと気持ち良いだろうな~。ウヘヘヘヘヘヘ。

「こりゃあ、五百年後が楽しみだ!リーン様ー!私を抱いて~
!」

 最高のオーバーボデーを得た俺はあらゆる意味で無敵な気分だった。
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