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第一章二周目:チンポジも歴史も直そうと思えば直せるものだ

新・第五話:帝国暦55年から555年への精神攻撃

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【帝国暦555年・リーンの研究所】

「ゴン、ただいま。回復頼む」
「お邪魔するでー」

 試験終了後ルプ友となったレーゼを連れて、顔面ボコボコ状態のリーンはゴンの待つ研究所へと帰還した。

「リーン様、その、そちらの方は?それとその顔は?」

 ゴンはレーゼを見るなり固まって、しどろもどろになっている。

「ゴン、どうしたんじゃ?」
「すみません、古い友人と似ていましたので。ええと、バルサミコス伯爵家の方ですよね?それで、リーン様、その顔はどうしたんです?」
「ゴン先生、あっ、こちらの世界ではまだ会って無かったし、まだ先生でも無かったわな。ども、バート・ナード君のガールフレンドのレーゼ・バルサミコスでっす」
「ゴンよ、こやつはワシの仲間じゃ。全てを話せるぐらいのな。回復、はよ」

 ループの事等を説明すると、ゴンは信じられないといった顔つきをした。

「リーン様と私が何者かに殺された?リーン様の顔面がグロ画像なのもそれが原因ですか?」
「ゲンとかいう竜人族の恥晒しは知っとるじゃろ?そいつと魔王軍の実質的なトップをぶっ倒した所さん、何者かに背中から刺されてワシは死んだ。お前も多分同じ奴に殺されたのではないかとワシは思っておる」
「話を聞くに、この研究所と同じ様な、普通の人は出入り出来ない場所だったんですよね?リーン様と私を殺した存在は誰なのでしょう?やはり、魔王…」
「それは無い。あやつは、疲れたワシを不意打ちする様な奴では無かった。声も全然違ったしな」

 かつてリーンとゴンが挑んだ魔王は、正面からの戦闘を楽しむタイプの戦闘狂。時の魔導師と同じタイプのやべー奴だった。

「魔王軍の隠し玉、或いは魔王軍とは別口の正体不明の敵ですか」
「現時点で分かっとるのは、そいつがワシの正体を理解し、絶好のタイミングで殺す事が出来たという事実のみじゃ」
「それで、結局リーン様の顔面はどうしてボコボコなんですか?」
「そりゃあ、この小娘に殴られまくったからよ」

 リーンに引き摺られてループを実感するに至ったレーゼは、時の大精霊しのぶとの脳内対話が可能なレベルに到達していた。なので、当然ここまでの流れは把握しており、バートの中身がリーンで本物のバートが別世界の片道旅行に行ってしまった事を知ってしまったレーゼは「オオオオオオオオオオ」と叫びながらリーンの顔面を気の済むまで殴ったのだった。

「まあ、これぐらいされても仕方無い事をワシはしでかしたんじゃ。敢えて殴られてやったのよ」
「これでも、まだ全然殴り足りへんわ。魔王と世界どーにかして本物のバートこっちに戻す算段ついたら、前の世界で勝手に居なくなった件で改めて殴ったる」
 
 怒りは収まって無いが、優先順位を理解し、それを守れる理性がレーゼにはあった。

「と、まあ、そんな感じでレーゼは味方なんじゃ。実力は確かじゃし、殺し合いの覚悟も出来ておる」
「おう!魔族には人権あるけど、犯罪者なら話は別や!馬鹿金髪の肉体に傷を付けたアホは見つけ次第いてもうたる!」
「それではレーゼさん、よろしくお願いします。それと、リーン様。お待たせしました。ゴン印の搾りたて自家製ポーションです」

 ゴンから体液の入った小瓶を受け取り中身を顔に塗ると、リーンは立ち上がり出かける準備を始めた。

「ゴン、レーゼ、行くぞ」
「魔王軍の準備が整う前に、強襲するのですか?」
「その前に行きたい場所があるんじゃ。もしかしたら、ワシを殺した奴の正体が分かるかもしれん」
「ほんで、どこ行くねん偽金髪?」
「ワシの墓じゃ」


【帝国暦55年・魔法学園】

「また、この寮に入る事になるとはなー」

 前回同様、バートは首席合格者専用の寮に入る事になった。ただし、彼の成績は首席どころか合格基準にも達していない。バートがこの部屋で暮らせるのは、此度の首席合格者ヒースが学園に許可を貰ったからである。

「ヒース、こっちは準備出来たぞ」
「分かったッス、俺も台本覚えたから学校行くッス」

 バートは出かける為に全裸になり、全身にベルトで弁当箱を固定する。ヒースはスカートを履いてバッチリメイクをして準備完了。二人で手を取り学校へ向かった。

「初めまして雑魚の皆さん。アタシはヒース・バルサミコス。出来れば、皆からはレーゼって呼んて欲しいわ。おい、馬鹿金髪、お前も挨拶せんかい」
「こ、こんにちは!馬鹿金髪ことバートでっしゅ!ぼボクはぁ、大賢者リーン様に作られたホムンクルスで、リーン様が亡くなってからは、このヒース君に」
「レーゼって呼べや馬鹿金髪!」
「あ痛ぁ!こ、このレーゼさんに雇って貰って魔術の実験体兼料理人をしてましゅ!どうか、サンドバッグとして皆さんもご利用して下さい!」

 二人の自己紹介を聞き終わった同級生は当然困惑した。

「なんでヒース君女装してるの!?似合ってるけど!ボクよりカワイイとかムカつくんだけど!」
「ふむ、あれが大賢者の遺品か。サンドバッグにして良いと本人が言っているのだ。卒業まで壊れない様に大切に可愛がろうか」
「キモいです~。へ、変態だー案件です~」

 一周目では好感度高かったエロい三連星ですらこんな感じで、他の生徒からは当然白い目で見られていた。

 しかし、これこそバートの計画通り。元の世界からは有り得ない状況を連発しパラレルワールドの増加を促していく。一枚のナプキンに同じ大きさの円を書き続けた時、書くスペースが無くなったらどうなるか?増えすぎた世界を抱え込めず崩壊するだろう。だが、その前に円同士がくっついて繋がった世界となるかも知れない。その状態ならバートは元の世界、最初に彼が居たB世界へと帰れるかも知れないのだ。

 仮定に仮定を重ねた雑な計画だが、最も力を持った特異点であるバートがイケると思ったのなら勝算はある。主役補正を信じて、バートとヒースは変態ルートを全力疾走すると決めたやだ。これについてゴンは、「特異点とか知りませんが面白そうだから頑張って下さい」と黙認し、彼女は前周と同じくバートのクラスの担任兼保険医に収まっている。

【帝国暦555年・リーンの墓地の前】

「馬鹿金髪ー!」
「何じゃ?」
「お前ちゃうわ!お前は偽金髪!どっかの世界のバートが何かやらかした!アタシのご先祖がオカマになったねん!」
「ヒース・バルサミコスは昔から女装して人前に出てましたよ?」
「あー、そうやな!ゴン先生視点やとそうやな!チクショー!」

 レーゼは精神に大ダメージを受けた。

【帝国暦555年・魔王軍アジト】

「これ以上、俺の記憶に変なの混ぜるなー!」
「時の魔導師殿!しっかりして下さい!」
「ゲンはいいよなー、特異点の力無いし、どの世界でも等しくクズだからノーダメージで!」

 時の魔導師にも大ダメージだった。


    
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