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第一章:チンポジと共に歴史は歪む

第三話:帝国暦55年と555年の決闘

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【帝国暦555年・魔法学園】

 リーンが的当ての内容を振り返り首を傾げていると、突然後ろから頭を叩かれた。振り向くと、金髪ショートの少女がニヤニヤしながらこちらを見ている。

「よっ、馬鹿金髪」
「あ、えー、どちらさんしゃったかの?というか、お主も金髪じゃろがい」
「おいおいおい、中学のクラスメイトを忘れるか?冷たいやっちゃの」

 声を掛けてきたのは、リーンの、いや、この身体の元の持ち主だったバートの知り合いの様だった。だが、バートには友達が一人も居なかったと聞いている。ならば、彼女はいじめっ子だろうか。

「記念受験ご苦労さん。お帰りはあっちやで。あっ!バート君は男爵家追放されるから、帰る家無いんやったな~」

 明らかにこちらを馬鹿にした失礼な言葉遣い。いじめっ子である事が確定したので、リーンは彼女を無視して次の試験場に向かう事にした。

「おい、無視すんなや!それに、そっちは出口やないで!」
「いや、ワシはあの的ちゃんと破壊して合格したぞ?」
「は、破壊?あの的、一分で壊せる強度ちゃうやろ…」

 呆然としている少女を無視して、次の試験場であるグラウンドに辿り着く。他の受験生と同じ様に椅子に座って待っていると、試験官がやって来て、ルールの説明が始まった。

「これより二次試験を行う!受験生同士で一対一の実戦形式で戦ってもらう!要するに決闘だ!」

 決闘と聞いてリーンの頭にある魔術が思い浮かぶ。魔術師同士の決闘、それならアレを見せ合うのだろつ。

「バート・ナード!」

 リーンが脳内で勝手に結論を出していると、試験官から名指しで呼ばれた。

「一試合目はバート・ナードとレーゼ・バルサミコスだ!いないのかね!?」
「お、おうっ、ワシがバートじゃい!そう、ワシは誰がなんと言おうとバートなんじゃい!」

 自分が呼ばれていた事に気付いたリーンが慌てて立ち上がり試験官の前に出ると、少し遅れて先程の失礼な女がバタバタと走ってきた。

「す、すんません!遅れました!レーゼ・バルサミコスや!」

 彼女の口からフルネームが出て、リーンはこの失礼な女がバートの住んでいる男爵領の隣を治めている伯爵家の娘だと気付いた。ゴンの話では、バートに何かとちょっかいをかけて、アタシが養ってやるだとか、他人にエロい目を向けるなとかのハラスメント発言を繰り返したいたとの事だ。

 やはり、この身体の持ち主にイジメを行っていたリーダー的存在が。そう確信したリーンは、この決闘でちょっとお仕置きしてやろうと思いながら早めに印を結んだ。

「早く開始位置に来なさい!…ではこれより、二次試験の一戦目を始める。気絶かギブアップか私のストップがかかるか三分の経過で終了とする。では、始めチュッパチャップスゥ!」

 開始の合図と同時、いや、若干フライング気味に、レーゼが木剣を手にして駆け寄る。

「ここで合ったら百年目!お前はアタシのモンになる以外では生きていかれへんって証明したるわ!」

 セウトなタイミングでの飛び出しからの、洗練された振り下ろし。才能と努力とズルさの極まった一撃は、相手がリーンで無かったなら確実に決まっていただろう。

 だが、リーンは開始の十秒以上前から試験官の目を盗んで大魔術に必要な印を結び始めていた。セウトどころでは無くバレたら完全アウト一発退場のズルを成し遂げ印を結び終えたリーンが両手を前に出すと、レーゼの動きがピタリと止まった。

「見よ、これがワシの今週のビックリドッキリガーディアン、アイスフェンリル一号じゃーい!」

 リーンの隣には、全長18メートル程の犬型ゴーレムが立っていた。これこそがリーンが十秒フライングしてまで使った大魔術、ガーディアン召喚。各属性の大精霊の力を一時的に借り、属性に応じたゴーレムを召喚する魔術だ。

 魔術師同士の決闘ならば、互いにガーディアンを召喚して殴り合わせる。それこそが、リーンの時代の常識だった。

 印を結ぶ仕草を見せず木剣を握ったまま試合開始の合図を待つレーゼを見て、リーンはレーゼの事をこちらの召喚を妨害してから自分のガーディアンを召喚するダイブと判断し、彼女と試験官がルールの確認に集中している隙に召喚準備完了。その結果、先の先を取るのに成功して意表を突く事が出来たのだ。

「ウヒョヒョ、驚いたか小娘!このガーディアンを呼び出す速さに固まっておるわい!」

 確かに驚いていたし固まっていた。しかし、それはガーディアンが開幕早々出たからでは無く、ガーディアンが出た事そのものであり、固まっているのはガーディアンから発生している冷気が原因である。

「おーい?」

 レーゼはカチンコチンに凍っていた。しかし、試合は終わらない。試験官もカチンコチンに凍っていたからだ。その異変に逃げ出す者も助けを呼ぶ者もいない。この運動場にいた全員がカチンコチンに凍ってしまったからだ。

「ワシ、何かしちゃいましたかのー?つーか、ガーディアンから溢れ出している魔力だけで死にそうになっとるこいつらって…」

 リーンはこの状況を見て、流石に気付いた。未来の奴らが何でか分からないが弱くなっている事に。


【帝国暦55年・魔法学園】

 中性的な顔立ちをした少年がフルチンで運動場に向かっていた。バートである。的当て試験において下半身の衣服を全部投げ捨てた彼は、試験終了後に衣服の回収をしようとしたが、試験官に止められたのだ。的当て試験にマジックアイテムを使うのは許されているが、一度使ったマジックアイテムは全試験終了までの間学園が預かる。よって、投げた衣服は今は返せないという判定になったのだ。

「全く、なんて最低な裁定なんだ!俺は変態だから致命傷で済んでいるけど、一般的な学生だったら恥ずかしくて次の試験受けられないぜ!」
「いや、上着で股間だけでも隠すッスよ」
「誰だ!」

 常識的なツッコミに反応して振り返ると、バートと同じ年頃の少年が居た。

「あ、こんにちはッス。俺、ヒース・バルサミコス。バートさんと同じ受験生ッス」
「何ぃ!」

 名前を聞いた途端、ズザザザザと派手に後ずさりするバート。

「ちょ、何でいきなり距離を取るッス!?」
「近寄るな!お前、俺が一番嫌いな女と名字が一緒で顔も似ているんだよ!」
「フルチンで校内歩き回る度胸があるのに、そんな理由で俺を拒否?うわあ、やっぱ大賢者リーンの隠し子っておもしれーッス!」

 この時代でのバートは、リーンが秘密裏に作った息子という設定になっており、フルネームもバート・ナードではなく、バート・ルイスとなっていた。その為、バートの事に注目していた試験官や受験生もそこそこいたのだが、今が試験中な事やバートがフルチンな事もあり、よっぽどの変わり者で無ければ直接声を掛ける事も無かった。

 つまり、このヒースという少年はよっぽどの変わり者だったのだ。

「来るな!来るな!俺はストライクゾーンの広さには自信ニキだが、お前は生理的に駄目だ!」
「えぇー?リーン様の話しとか聞かせて欲しいッス」
「今、試験中だから!お互い合格して、暇になってからそういう話しをしよう!な?」
「分かったッス!」

 ヒースが変わり者だけど良い子で助かった。後でしつこく絡まれるフラグが立ったが、当面の危機が去りバートはホッと胸を撫で下ろす。

 バードは『当面の危機』と書かれたロケットが宇宙へ飛び立つイメージを脳内に浮かべながら、二次試験の行われるグラウンドに辿り着き、試験官の説明に耳を傾けた。

「これより、二次試験の決闘を行う!名前を呼ばれた者は前に出よ!一戦目はバート・ルイス対、ヒース・バルサミコス!」

 当面の危機ロケットが逆噴射して帰ってきた。

「やった!リーン様の息子と手合わせ出来るなんて夢みたいッス!」
「吐きそう」

 歓喜に震えるヒースと恐怖に震えるバート。この恐怖は苦手な女に似ているというトラウマだけでは無い。こうして相対してみて気付く。的当ての時点でこの時代の魔術師のレベルに疑問を抱いていたが、その中でもヒースは飛び抜けている。戦わずとも、その危険がヒシヒシと伝わって来る。元の時代で会った、胸が大きい方のゴンに匹敵する恐怖を感じていた。

「両者準備は良いか?ではこれより…」
「ひ、ひぃっ炎の精霊よ…」
「始めぇトロピカルミックスジュース!」

 恐怖が限界に達していたバートは、試験官の開始より早くファイアーボールの詠唱を始める。だが、詠唱に最低でも二十秒掛かるバートのそれは当然間に合わない。一方、ヒースはバートの詠唱を確認してから高速で印を結び始め、こちらは試合開始から数秒で術式を完成させていた。

「サワマンダーちゃんカモーンッス!」

 熱気と共に十メートル程の大トカゲが出現した。ヒースのガーディアン、サラマンダーちゃんだ。それを確認した試験官は、右手を上げて試合の終了を告げる。

「そこまでぇ!ヒースの反則により、勝者バート!」
「何でッスか?」
「お前、俺の開始合図前にガーディアン召喚の印を結んていただろ」
「でも、バート君は俺より先に詠唱してたっスよ?」
「あれはファイアーボールの詠唱だ。本来無詠唱で誰でも使えるものをわざわざ詠唱しても、事前の戦闘準備には該当せん」

 この決闘においては、開始の合図前に自分に有利になる魔術の発動やその予備動作を行う事は反則になっていた。攻撃魔術を放つ、自分にバフを掛ける、そしてガーディアン召喚の為の印を結ぶのも反則に該当する。しかし、この時代では通常の攻撃魔術は無詠唱で使えるから、バートのやった攻撃魔術の詠唱は今回のルールでは反則を取られなかったのだ。

「成歩堂!バートのフェイントに引っ掛かって、ヒースの奴はフライングしてしまったのか!」
「あのバートってチビ、チンコは小さいのにやる事えげつねえな!」
「流石は賢者の隠し子ね!的当ての時も手の内を一切晒さずに、脱いだだけで合格したらしいわよ!」

 魔法学園の実技試験で、魔術を一度も発動せず、ルールの穴を付いて合格した。その偉業を目の当たりにした受験生達が口々にバートを褒め称える。

 たが、その声はバートに届かない。彼は、サラマンダーちゃんが出現した時の熱波を浴びた段階で既に立ったまま気絶していたからだ。

「おーい、バート・ルイスの的当での結果が出たぞー!合格だ!」

 体育館の方から、試験官が走ってきて結果を告げた。

「他の受験者の動きを観察し、魔力を消費せず最小の動作で目標を達成。学園長お墨付きの最高評価だ!」
「「「「「凄え!!!!!」」」」」
「よーし、バート君を皆で胴上げッスよー!」

 ヒースが白目を剥いたままのバートを持ち上げると、それに他の受験生が続く。

「ワーッショイ!」
「ワーッショイ!」
「ワーッショイ!」

 フルチン神輿と化したバートは校内一周した後、学生寮の窓に放り込まれた。
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