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第一章:チンポジと共に歴史は歪む

第一話:帝国暦55年と555年の交差

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【帝国暦55年・リーンの研究所】

「このボールがワシの魂、あの積み木が500年後の未来としよう。ゴン、ボールを積み木に投げるとどうなる?」

 大賢者リーンは竜族の少女ゴンに問うた。

「積み木が崩れる。つまり、未来は無茶苦茶になってしまいます」
「そうじゃ。ワシの魂が500年の時を越える為に加速し、未来の誰かの肉体に着弾した瞬間、世界は大爆発を起こし消滅する。…かもしれん」

 遥か未来に転生すると、魂が未来に向かうエネルギーで未来世界が崩壊する恐れがある。実際にやってみないとどうなるかは分からないが、リーンは未来に出現する魔王を倒し世界を救う為に転生を目指している。自らが滅びの原因になりかねない手段は避けるしか無かった。

 どうしたものかと悩んでいると、弟子のゴンから一つの提案がされた。

「リーン様、魂の入っていないホムンクルスを作りましょう。そのホムンクルスを未来まで私が保管しておきますので、そこに転生すれば他人を身体を乗っ取るよりは衝撃を緩和できると思います」
「ふーむ。だとしてもやはり加速された魂の衝撃は未知数。おいそれと試す訳には…よっと」

 考え込みながら、手にしたボールをそれなりの速度で積み木に投げる。

 カッコーン

「んおっ?」
「ええっ?」
 
 予想外の光景に二人の口から変な声が出る。

 ボールが衝突したが、積み木は崩れなかった。ボールが当たった箇所のパーツが同じぐらいの速度で飛んでいき、ボールはそのパーツがあった箇所にピッタリはまり、積み木全体のバランスを維持していたのだ。

「こ、これじゃー!」

 積み木を見て何かを閃いたリーンは早速準備に取り掛かった。

「せ、先生?どうしたんですか?」
「喜べゴン。未来転生が何とかなりそうじゃ!まずは…、そうじゃな、未来の協力者にメッセージをおくらねば」


【帝国暦555年・ナード男爵領】

 男爵家の次男バート・ナードがその手紙を見つけのは全くの偶然だった。受験勉強の為に古本屋で買った参考書を捲っていると、本に挟まっていた栞に文字が浮かび上がってきたのだ。

「な、なんだこれ…」

 恐る恐る栞に浮かび上がったメッセージを確認する。

『500年後の貴方へ
この手紙を貴方が読んでいるという事は、私がこれを書いた時代から500年が経過したという事なのでしょう。私の名はリーン・ルイス。貴方の時代に訪れる魔王を倒す為に未来への転生に挑まんとしています。しかし、それには貴方の協力が必要となります。もし、世界の為に助力していただけるなら、以下の場所にお越し下さい』

「リーン・ルイスって、教科書に載ってるあのリーン?…よし、行くか」

 バートは即座に決意し、自宅を出てメッセージの最後に書かれていた場所へと向かった。その決意は栞にかけられていた暗示の魔術によるものだが、あまり優秀では無いバートは自分が暗示にかけられている事に全く気付くこと無く目的地に辿り着いた。

 その場所は一見何もない崖だったが、突然持っていた栞が輝き出すと、崖壁に穴が開き舗装されたトンネルが出現した。

「隠し遺跡!成歩堂。この手紙はイタズラなんかじゃなさそうだな。楽しくなってきたぜ」

 受験の事を完全に忘れ、トンネルの中を進んで行く。途中、何度か栞に導かれ、示されるがままに階段を上り下りし、帰り道が完全に分からなくなったが、それも気にせず進んでいくとゴールと思われる場所に辿り着いた。

「来たな。待っていたぞ」

 行き止まりの小部屋に翼と角を生やした女が居た。

「ええっ、賢者リーンって巨乳ドラゴン娘だったの!?俺が読んだ参考書と違う!」
「そうだ。私はリーンでは無い。私はゴン。彼をこの時代に、そしてお前を彼の時代に連れて行く為の橋渡し役を命じられた存在だ」
「俺をリーンの時代に?…やだっ、お家に帰りたいー!帰り道わがんねえー!」

 ここに来てようやく我に返るが家に帰れそうもないバート。ゴンはバートの慌てふためく様子に呆れながらも、衣服の前をはだけて胸の谷間を見せつける。

「落ち着け」
「おっぱい!」
「落ち着いたか?」
「アッハイ。凄く落ち着きました」
「では聞け。エロトヒアボーイよ、お前は選ばれたのだ。暗示があったとはいえここに辿り着いたのなら、お前には今の世界から逃げ出したい願望があったのだろう?」

 心当たりありまくりだった。アホで怠け者な落ちこぼれだったバートは周りのレベルについていけず、いつも馬鹿にされていた。魔法学園の入試に落ちたら男爵家から追い出されると父に言われ、嫌々ながら勉強に手をつけだしたが、それもほとんど成果は出なかった。

「エロトヒアボーイ、君は魔術が未発達の過去に行けたら自分でもチヤホヤされるのにと思っていた。努力せずに評価を上げる手段があるならそれに縋りたかった」
「まるで見てきたかの様に言いやがって。でも、合ってるよ。そうだよ、俺が世界にもっとヌルゲーになって欲しいんだよ!」

 自分の浅く薄い人生を見透かせれた様は感覚に陥ったバートは、ヤケクソ気味にゴンの言葉を肯定した。

「で、俺はここで何すればいいの?」
「それは、私達に協力してくれると取っていいのだな?」
「逆らってもどうにもなんないっしょ!アンタ、どう見ても難関ダンジョンの隠しボスとかだし!」

 バートは頭が悪いが、強者を嗅ぎ分ける事だけは得意だった。イジメから己を守るために、より強い方に泣きついてきて鍛えた嗅覚が、この女には逆らえないと伝えてくる。

「話が早くて助かるよ。では、これより君の魂を500年前に送り、それと連動してリーンの魂を君の身体に転生させる」
「なんで?」
「どちらか一方向だけに魂を移動させると、加速した魂が到着点を破壊して全てを無に返すかも知れないからだ。二つの時代の魂の量を保つ事でこの破壊は防げるそうだ。これが初の試みだから、実際どうなるかは知らんけど」
「ナニソレ怖い。やっぱ帰っていい?」

 危険度マックスの実験に付き合わされるのはゴメンだとばかりに、バートは逃げようとした。だが、振り返った先に退路は無かった。

「出入り口消えとるー!」
「エロトヒアボーイ、先程までの説明は時間稼ぎも兼ねていたのだよ。君が私に会った時から既に転生の魔術は始まっている。間もなく君の魂は帝国暦55年に飛び、その身体にリーンの魂が宿るはずだ」
「やだー!死にたくねー!助かるかもしんないけど死ぬかもしんない!だったらせめてこうしてやる!」

 バートはゴンに飛びかかり、無駄にでかい胸を鷲掴みにした。死ぬかもしれないのなら、せめて欲望に忠実に動こうと思ったのだ。

「あんッ、君は、本当にエロトヒアボーイだな…あんっ」
「グエーへへへ、水風船みたいな柔らかいオッハイだのー」
「ふっ、いいさ。危険な事に付き合わけるんだ。私の胸程度なら好きなだけ揉め」

 二回三回四回と繰り返し揉みしだき、ゴンの胸の感触を堪能していると意識が遠のいてきた、

「あー、これアカンやつだ…。俺マジ…し…ぬ…かも…」

 ゴンから冷たい目で見下されながら、バートの意識は肉体を離れていった。

「行って来いバート・ナード。大変だろうが、まあお前なら大丈夫だろう。何せ君は…」
「びゅ?」

 最後に妙な事をゴンか呟いたが、魂が過去へと向かったバートはその真意を聞く事は出来なかった。
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