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プロローグ
しおりを挟む遠くに見える山脈は、すっかりと雪化粧を済ませ、外を吹く風は、全てのものを凍てつかせようとしていた。
すっかりと収穫の終わった農地には、時折こぼれた落ち穂を拾いに来る渡り鳥が来る他には、人の姿も無かった。
まもなく冬がやってくる。
森の木々も動物も、そして人間さえも、冬の準備をすっかりと終えた、そんな夕暮れ時の事だった。
王国の北方にある、この村の一軒の農家では、暖炉の前で編み物をする母親が、子供たちに昔話を語っていた。
故郷を飛び出した若者が、数々の偉業をこなし、姫様を連れて帰って来る。
そんな、どこにでもあるような英雄譚だった。
母親が、声色を作りながらの冒険譚に、二人の男の子が目を輝かせながら聞き入っている。
―――そうして、わるいドラゴンを倒した若者は、黒い馬車に乗り、金色の冒険者章を下げて、故郷の村に帰って来たのでした。
―――それから、一緒に帰って来た姫君といつまでも幸せに暮らしましたとさ。
―――おしまい。
*
「母ちゃん! 俺も冒険者になる! 」
「俺もなる! 」
話を聞き終えた兄弟は、目を輝かせながら言う。
「二人とも冒険者になっちゃうのかい? そしたら母ちゃんは父ちゃんと二人きりになっちゃうねぇ……。」
「……でも……。」
「俺はぼーけんしゃなるから、ぜったい! 」
悲しそうな顔を作る母親に、再び子供たちが答えた。
「さ、お前たち、もう夜も深くなって来たからベッドに行きなさい。」
そんな母子の姿をにこやかに眺めながら縄を編んでいた父親が、とっぷりと日の暮れた外を見ながら言う。
「……わかったよ。父ちゃん。」
「父ちゃん! 俺は、ぜったいやるからね! 」
母親の言葉を聞いて、複雑そうな顔をしている兄をよそに、弟は父親にも冒険者になると宣言した。
「わかったわかった。お前の人生はお前が決めるものだ。だから、今はしっかり言い付けを守るんだぞ? 」
父親は、そんな夢物語のような事は叶わないと思いつつも、興奮した口調で言う我が子に優しく答える。
「うん! わかったよ! じゃ、おやすみなさい! 」
「顔を洗うのを忘れるんじゃありませんよ。」
わたわたと寝る準備を始めた子供たちに、母親から声が掛かる。
言い付けどおり、冷たい水で顔を洗い、しっかりと口をすすいでから、少年は興奮冷めやらぬまま、ベッドに入る。
―――きっと、あの物語のような冒険者になって、黒塗りの馬車に乗って金色の冒険者章を下げて帰って来るんだ。
そう確信して。
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