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『秋は栗なのか芋なのか』の章

第37話

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「玉江さんのバイク借ります」
「どうしたんですか和泉さん」

六郎さんが訊くけど、ろくに答えもせず飛び出す。
実は和泉さんは普通二輪免許持ってる。
何故と言われても、長野に居た頃取得したのだ。
普通二輪免許は16歳から取得可能。
あっちでは車やバイク、そんな移動方法が必要なの。

玉江さんはバイクに乗ってた。
そんな話で気が合ったりもしたのだ。
年齢的にもうほとんど使ってなかったけど。

玉江さんのバイク。
YAMAHAのマジェスティ。
スクータータイプだけど250cc。
高速道路だって行けちゃうのだ。

電車だとホームで列車待ち時間が有る。
この方が絶対早い。

エイッとアクセルを吹かせる。
車体のメンテナンスはちゃんとしてる。
近所へのお買い物、月一程度だけど和泉さんが使ったりもしてるのだ。
だって玉江さんのだし。
使わないとバイクなんてすぐ痛む。

会社への道なんて頭に入ってる。
迷うことなくバイクを走らせる和泉さん。
信号待ちタイムに教えて貰った番号にかける。
ハンズフリーにして運転席のスマホホルダーに放り込む。

「もしもし、今どこ?」
「柿崎さん?、何故この番号を……」

「教えて貰ったの、良いから会場には辿り着けてるの?」

移動しながらスマホホルダーに大声を張り上げる。
一応スマホを保持しないで、画面を注視してなければ法律的に問題無い。
ハズではあるけど良い子はマネしてはいけない。

「……それがその……」
「今どこ?、何が見える?」

「柿崎さんの会社が……」
「会社の前で待ってて、すぐ着く」

和泉さんは何となく思い出す。
受験で初めて東京に来た。
大学の駅に降りた時の心細いカンジ。
全く知らない街、見た事の無い通り。

よし、来てよかった。
出来るだけ急ごう。
もちろん安全第一だけど。
アクセルを吹かす和泉さん。

会社の前のエントランスで輝子ちゃんは待ってた。
黒い長髪の美少女。
顔が蒼褪めて、強張ってる。
もう模試の五分前。

彼女の顔を見た途端。
伝わってしまった。
心細さ、不安な気持ち。
失敗した自分を責める思い。

「柿崎さん?!」

目の前に止まった赤いバイク。
そこから降りる和泉さんに驚く輝子ちゃん。

「乗って!」

和泉さんはヘルメットを放って言う。
後部シート。

「あの、私……」

何か言おうとする輝子ちゃんを遮る。

「大丈夫、間に合う。
 間に合わせる。
 いいから早く乗って、しっかり掴まるんだよ」
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