TOKYOヴィラン

くろねこ教授

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第4話 ゲームの小アクマ、小鳥遊リリス

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俺はシャワーで濡れた頭をドライヤーで乾かす。
温かい風を受けながら、テレビ画面を見つめる。

「昨夜、街灯カメラに捉えられた犯人と思しき男の映像です」

白いタキシードを着た男が映し出される。
顔の上半分は仮面で覆い、下は薄ら笑いを浮かべてる。
マントをなびかせながら、空中をステップしている。

「どの様な仕掛けなのかは分かっておりません。
 男は空中を移動しながら、兵器と思われる物で街を撃っております」

ロケット花火の様な物が飛んでいく。
暗い街に火花の飛影。
そして爆発音。

母親が皿を並べながら言う。

「アンタ、顔色悪いわよ。
 大丈夫?」
「あ、ああ。
 冷房に当たり過ぎたかな」

「SNSには昨日からこの男の映像で溢れております。
 動画を観て見ましょう」

誰かスマホで撮影してたのか。
白い服の男が大きい曲刀を振るう。
刑事の頭部が無くなる部分はボカシのような物が入る。

昨夜、俺は夢を見てた。
いや、VRゲームの体験版をやってた。
どこまで本当にゲームでどこから夢。
確かなのは俺は自分の部屋のベッドで寝転がってた。
朝、目覚めた時も部屋ジャージを着てた。

テレビに映ってる男が俺の筈は無い。
当たり前だ。
証明終了。

「SNSでは『狂った奇術師』、この犯人のニックネームでしょうか、
 『狂った奇術師』とタグの着いた画像が大量に上がっています」

『狂った奇術師』
昨夜、小鳥遊リリスが考えた名前。
偶然だ、偶然。
だって俺は部屋で寝ていたのだ。


「俺、出て来るわ」
「こんな時にどこ行くのよ?
 電車のダイヤ、メチャクチャらしいわよ」

「大学だよ、大学」
「授業やってないんでしょ」

「今日は教授が来てるらしいんだよ」

ゼミの担当教授。
メールが入って来た。

久々に直接会って、相談できる機会。
教授は前に言っていたのだ。

「就活、どうにもならないヤツは俺んとこ来い。
 どんな会社でもいいなら、二、三人は捻じ込んでやる」

二年も前の話。
その時はその二、三人に俺が入るなんて予想もしなかった。


母親の言う通り、電車のダイヤはメチャクチャ。
電光掲示板は調整中になったまま動かない。
だけど運よく何本遅れの電車か知らないそれに俺は乗り込めた。

午後一だってのに電車は混んでる。
座り損ねた俺は扉の横に陣取ってスマホを眺める。
後ろでは女子高生らしい二人組が話してる。

「見て見て、『狂った奇術師』サマ」
「あっ、結構はっきり写ってるじゃん」

「カッコ良いー、ファンになっちゃおうかな」
「やめとき、昨日何十人も死んだらしいよ。遺族の知り合いとかいたら絡まれるよ」

俺には関係無いのだ。
はっきり写ってる画像を見たヤツだって俺と同じ人物なんて思わない。
顔はマスクで覆い、人相は分からない。
タキシードを着たスタイリッシュな男。
服のせいか俺よりウエストは締まって見える。
ユニクロのシャツとジーンズを着た俺。
誰も似てるなんて思わない筈。
ニュース映像見た親だって気づいてなかった。
やっぱり俺とは関係ない。

そうだ。
俺は小鳥遊リリスと検索してみる。
Googleには何もヒットしない。

リリスだけで調べてみると。
エヴァンゲリオンに何か関係あるらしい。
更に調べると、悪魔らしい。
ユダヤ伝承の悪霊、一説では聖書のアダムを誘惑した悪魔。
そんな悪魔の名称。
そこからエヴァに使われたんだな。

何か変だな。
俺は違和感を感じるが、何にだか良く分からない。
この夢で見た光景が現実に起きてた事態が全て変だと言えば、その通りだ。
いや、待てよ。
逆なんじゃないか。

昨日の夜起きた事件。
俺は夢うつつでニュースサイトで事件を見たんじゃないか。
寝ぼけた頭で見た大事件の映像。
そいつが脳の片隅にこびり付いた。
それで俺はあんな夢を見た。

夢が現実になったんじゃない。
現実の事件を夢に見たんだ。

何だ、単純な事じゃないか。
アホか、俺は。
本気でショックを受けてた。
俺、やっちまった。
大犯罪者になっちまったと大マジで怯えてたのだ。
さすがにバカ過ぎる。

お気楽な気分になった俺は大学に向かう。
電車を降りれば、キャンパスまでもうすぐそこ。
コンビニ寄ってこう。

大学のキャンパスは人がまばら。
授業はほとんどやってないが、少しはやっているのだ。
自宅でPCで見ても良いし、大学で受けてもいい。
ただし講義室は20人まで。
それ以上は入室不可。
講義室に来る物好きもいるらしい。
気持ちは分かる。
俺もたまにWEBじゃなくリアルで受けたいなと思う。

ゼミ部屋から教授室へ、知り合いに挨拶しながら入ってく。
コンコン。

「お邪魔しまーす」
「ん?、…何だ。
 ・・・・君か。どうしたんだ」

「へへへ、教授、お久しぶりです。
 いや、WEBじゃなくて現実に逢うなんて久しぶりじゃないですか。
 御挨拶に寄りました」

俺はコンビニで買った物を取り出す。
教授の愛用のタバコ。
白い箱に赤丸。
LUCKY STRIKE。

「どうぞ、教授のタバコ。
 これでしたよね」
「ああ、合ってるけど。
 何だ、気持ち悪いな。
 雨でも降るんじゃないか」

教授が俺の方を見ながら笑う。
俺はこの人がまあまあ好きだ。
白髪交じりのオッサン。
偉ぶったところが少ない。
ゴチャゴチャ五月蝿い事もあまり言わない。
ただし注意もせずにアッサリ不可にしてくるらしい。
人によっては嫌ってる。
けど俺はそんな目に遭った事は無い。
少しばかり女子を贔屓にする。
そんなウワサも有るけど、そりゃ誰だってそうだろ。

「実は相談が有るんですけど…」

俺は就活が上手く行ってない事を話す。
どこの会社もひどいんすよ。
少し大げさに伝えてみる。

「そうか、みんな大変らしいからな」
「それで、その……」

以前言ってたニ、三人なら何とかしてやる、そこに何とかならないか。
そんな風な事を言って見る。

「ああ、あれか。
 悪いな、今年はもう無理だ。
 もう別の奴を無理言って頼んじまったんだ。
 会社の方もどこも人数入れないみたいだからな。
 それ以上はな」

教授はタバコの煙を吹き出す。

「そうなんすね。あははは」
「ホントにワリイな。お前大丈夫か?」

「大丈夫っすよ。気にしないでください。
 もしかしてって思っただけなんで。
 最初から無理だとは分かってたんですよ。
 一応訊いてみようかななんて。
 まあ、もう何社も面接は受けてるんで。
 どこかは引っかかると思います」

俺はサッサと引き上げる。
タバコが煙いっつうの。


「あれ、・・・・じゃん。どうしたよ」

そこに居たのは俺の彼女だった。
ゼミから教授室へ、俺と同じルートを行こうとしてる女子大生。
少し垂れた瞼、おとなしめのメイク。

「あっ・・・・君。
 そっちこそ」
「俺は教授が来てるっつうから。
 ちょいと挨拶しに来たんだよ」

「わざわざ?、わたしは教授に相談」
「そうなんだ…」

何か気まずい沈黙。
リアルで逢うの久々なんで緊張してるのか。

「いや、約束もしないで偶然会うなんて。
 俺らやっぱり運命の恋人同士なんじゃね」
「あははは、同じゼミで同じ教授じゃん。
 会う事くらい有るよ」

「そりゃそーだ。
 ………。
 あのさー、帰りお茶しない。
 何だったら、お前の部屋も久々に行きたいかも」
「あー、ゴメン。
 今日はちょっと約束有って。
 また今度でいい?」

「そーか、いきなりゴメンな。
 んじゃ後でラインするわ」
「うん、分かった。
 後で見ておく」

彼女は教授室へ入って行った。
俺は大学を出ようとする。

家に帰るしかねー。
何処かで遊ぼうにもどこもかしこも騒いじゃダメなのだ。
酒も飲めないし、カラオケもダメ。
人数集まるだけで白い目で見られる。
帰ってスマホでも弄るしか無い。

ところが声を掛けられる。
女の子。

「よっ・・・・君。
 昨日ぶりだね。
 何キョトンとしてんのさ。
 小鳥遊だよ。
 キミと同じ立場の小鳥遊」
「あ、ああ、よう。
 久しぶり」

俺はとりあえず答えた。
けど、大学の知り合いに小鳥遊なんて居たか。

だいたいコイツ大学生には見えない。
中学生くらいじゃねーの。

黒のハーフパンツに赤のジャケット。
ハットをかぶってメイクも決めてるけど。
背は低い。
背伸びしたオシャレスタイルの女子中学生。

「誰が中学生よ。
 これでも83年生まれ。
 83年に初の家庭用ゲーム機が産まれたんだ。
 だからアラフォーだよ。
 アラフォー。
 分かる? アラウンド40」

アラフォーくらい分かるっつーの。
何の話だ。
俺はお前の年齢を言ってるんだ。

「だからアタシ。 
 “電子の精霊”、“ゲームの小悪魔”が産まれた年齢。
 もちろん既に携帯ゲーム機は有ったし、アタリだって、PC用ゲームだって存在してた。
 アーケードゲーム、ゲーセンだって有った。
 その辺が母の胎内で育ってた頃と思っていいんじゃないかしら。
 やっぱり一気に広がったのはファミコンから。
 そこで生まれたとアタシ的には思ってるの。
 本人が言ってるんだから間違いないわ」

この女。
“電子の精霊”、“ゲームの小悪魔”。
昨日夢で見た女が言ってたセリフ。

昨日の女はどんな顔してた?
コスプレが強烈過ぎて顔を良く覚えてねー。
ショートカットでキツイ眼つき。
ちょっと濃いハッキリしたメイク。
背が低くて、その割に偉そうな態度。

服装を変えたら目の前に居るコイツみたいじゃ無かったか。

「だからアラフォー。悪魔としてはおっそろしく若い世代。
 でも一気に力を着けてるのよ。
 本家本元の悪魔たちなんてメじゃない。
 考えても見て。
 どの位の人間達がゲームに夢中になってるか。
 どれだけの欲望、どれだけの悪意がそこに注がれてるか。
 今や宗教なんて比較にもならないわ。
 ワタシこそが、世界一若い悪魔。
 世界一若くて、世界一強い悪魔。
 それがこの小鳥遊リリスちゃんよ」
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