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第21話 人狼は誰だ?
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ハンプティ・ダンディとジーフクリードは足早に歩いて行く。一行は二人だけでは無い。更にもう一人、村の自警団から弓を持つ猟師も着いてきている。
向かうは柵が壊れていた場所。農家ピートロの畑の先である。
しかし、一行の先に一角兎《ホーンラビット》が多数立ち塞がる。
「うわー、うわうわわわ。
ヤメテよね、一角兎《ホーンラビット》に殺されたとか。
カッコ悪すぎない。
ザコモンスターに殺されたザコとして村の歴史に残っちゃうんじゃないの」
「むっ!
弱モンスター警戒レベル1のモンスターではあるが、確かにこの数は……」
弓を構えた猟師が狙うが、モンスターが近付くまでに倒すのは不可能だろう。
「……アレ?」
ジーフは目をパチクリさせる。一角兎《ホーンラビット》はそんなジーフの脇を通り過ぎる。逃げるように走っていくのである。
「なんだ、コイツラ!
ぶっ殺してやろうと思ったのによ。
俺様が怖いのか、逃げて行きやがる」
「ギガント?!……さん」
そこに居たのはギガント・マックスであった。真剣を鞘から抜き一丁前に戦う姿勢を取っている。
ジーフ的にはあまり逢いたい人間では無いが、現在は非常事態。こんなのでもモンスターと戦う分には少しは頼りになるかもしれない、と一応考えておくジーフである。
「……誰だ?」
「ハンプティさん知らないよね。
マックス家の息子のギガントさん。
……どう見てもそうは見えないと思うけど。
あんなんでも11歳なの。
見た目通り性格悪い男なの。
今は連れてないみたいだけど、普段は家が金持ちなのを良いことに護衛に戦士なんか連れちゃって。
それを使って子供達を脅したりする、ろくでもないクズ男なんだ。
まぁでもポーズだけかもしれないけど一応戦士に剣を習ってるって言ってるからね。
この非常事態なら役に立つ可能性もミジンコくらいならあるかもね……」
「ギガントさん、こっちは王都から来た役人のハンプティさんです。
僕ら柵を見に来たんだけど……
ギガントさんはどうしたの?」
「オマエ……もしかしてホントに俺に聞こえてねぇと思ってんのか。
思いっきり聞こえてるよ!
丸聞こえだよ!!
ってゆーかワザとなのか。
ワザと聞こえないように言ってる風を装って。
それでいて明らかに聞こえる声でしゃべる。
こっちは聞こえないように言ってるんだから、聞こえない風を装ってよね!
ってゆー聞こえてるのに聞こえない風を強制してくる。
そんな謎テクニックなのか?!」
「してない、してない!
聞こえないように言ってる風を装って、それでいて明らかに聞こえる声でしゃべる。こっちは聞こえないように言ってるんだから、聞こえない風を装ってよね! ってゆー聞こえてるのに聞こえない風を強制してくる、なーんて不思議テクニック使って無いよ」
「……それ辺境で流行ってんのか?」
とりあえず訊ねてしまうハンプティ・ダンディである。
「俺はな……
護衛の連中が何時まで経っても戻ってこないからよ。
表に出て見たら、モンスターが溢れてやがる。
まさかと思って、見に来たんだよ」
ギガント・マックスが言う。ジーフやハンプティと合流して歩く男達である。
その脇ではやはり一角兎《ホーンラビット》が逃げるように走っていく。
「じゃ……やっぱりこの柵が怪しいんだ。
修理の手を抜いてたんだ。
それでこんな事件に……」
「違うっ!
ちゃんと修理はしたぞ」
「じゃ、なんで一角兎《ホーンラビット》だけじゃなく邪悪犬《エビルドッグ》まで村に入ってきてるのさ」
「俺が知るか!」
「……静かに」
ハンプティが立ち止まり様子を窺う。すでに柵があった箇所は見えている。
そこに人影らしきモノが在った。
「……人間が柵を壊してるじゃない」
「アイツらの仕業か」
「……しかし変だ」
王都の役人、ハンプティが顔をしかめている。
確かに人間らしきシルエットの影。毛皮の外套《マント》をかぶり人相は良く見えない。その人間達が柵を壊している。地面から見張り番の杭を引っこ抜き捨てている様子も見てとれる。
「何が変だってんだよ。
アイツらが柵を壊したからモンスターが入ってきてんだろ。
ぶっ飛ばしてやんぜ」
「……何故アイツらは邪悪犬《エビルドッグ》に襲われない?」
動物の毛皮で出来た外套《マント》を着た人間たちは柵を壊し続ける。大きく開いた箇所から邪悪犬《エビルドッグ》が村に入り込む。本来なら人間を見たらすぐに襲ってくる凶悪なモンスターなのだが、外套《マント》を着た人間に襲い掛かっていかないのである。
「俺が知るか!」
「とにかく!
アイツらが村の柵を壊してる事は確かだ。
止めさせよう」
猟師が弓の狙いをつける。もっともなセリフに誰も文句は付けない。
その弓の殺気を感じたのか。外套《マント》を着た男達は振り返る。
それは狼の毛皮であった。頭頂部に狼の頭部が付いているのだ。三角の耳を着け口を突き出した灰色の狼。
「…………!……」
「ありゃあ、ウチの護衛じゃねーか。
射るんじゃねぇ。
俺の雇った連中だ」
ギガントが言う。狼の毛皮を頭から被った男達は顔が良く見えない。が、確かに彼の言う通り、その下の鉄鎧は間違いなくギガントが連れていた戦士の物であった。
「ギガント……さん!
まさかアンタがやらせたの?」
「なに寝ぼけた事言ってやがる、ジーフ!
俺がそんな事する訳ねーだろ」
「わっかんないよ。
ギガント……さんが何考えるかなんてさ。
次期村長は望み薄だと思って、嫌がらせの為だけにするかもしれないじゃん。
あああ、自分で言っといてホントにありそうな気がして来た。
うわー、ギガントならやりそう。
悪役がさ、自滅を悟って周りまで巻き込んでの自殺。
くっくっく、この城はこのまま崩壊する。貴様らも一緒に死ぬのだ。
とか言っちゃってさ、絵物語とか紙芝居のパターンじゃん。
ひっどーい。
自分だけ死んでよ。
僕を巻き込まないで欲しーな」
「ふざけんなー!
俺は次期村長が望み薄だ、なんて思っちゃいねー!」
「ウッソでしょ。
無理だよ、アンタ誰にも好かれてないじゃない。
その位いくら周りを気にしない図々しい性格でも分かるでしょ。
親父さんはそれでも一応は頭も回るし、カリスマ性もあるみたいだけどさ。
ギガントに至ってはそれすらも無いじゃん。
学校の勉強にもついていけて無かったじゃん。
辺境とは言えさ、それなりに村人の人数は居るんだよ。
小さい子と混じっての勉強にも着いていけないヤツがそのアタマになれるワケ無いじゃん」
「ジーフ、テメェそろそろ容赦しねーぞ!」
「今はそんな場合か!」
「ギガントさん、アイツらがアンタの手下なら止めるよう呼び掛けてくれ」
猟師がマトモな事を言い出し、ギガントは男達の方を向く。
彼が男達に呼びかけるまでも無く、獣の外套《マント》を着た男達は柵を壊すのを止めていた。
その二人はすでにギガントやハンプティの近くに来ていたのだ。
音すら立てず獲物に近寄る狼のように。
毛皮に遮られ、良く見えなかった顔がハッキリと確認出来る距離。
それは人間の瞳では無かった。
暗闇に光る虹彩。
アンバーに輝く瞳。
それは狼の瞳であった。
「…………お前ら……どうしたんだ?……」
ギガントは異変を悟って囁く。
「これは!
これは……まさか……
これこそが人狼は誰だ?」
向かうは柵が壊れていた場所。農家ピートロの畑の先である。
しかし、一行の先に一角兎《ホーンラビット》が多数立ち塞がる。
「うわー、うわうわわわ。
ヤメテよね、一角兎《ホーンラビット》に殺されたとか。
カッコ悪すぎない。
ザコモンスターに殺されたザコとして村の歴史に残っちゃうんじゃないの」
「むっ!
弱モンスター警戒レベル1のモンスターではあるが、確かにこの数は……」
弓を構えた猟師が狙うが、モンスターが近付くまでに倒すのは不可能だろう。
「……アレ?」
ジーフは目をパチクリさせる。一角兎《ホーンラビット》はそんなジーフの脇を通り過ぎる。逃げるように走っていくのである。
「なんだ、コイツラ!
ぶっ殺してやろうと思ったのによ。
俺様が怖いのか、逃げて行きやがる」
「ギガント?!……さん」
そこに居たのはギガント・マックスであった。真剣を鞘から抜き一丁前に戦う姿勢を取っている。
ジーフ的にはあまり逢いたい人間では無いが、現在は非常事態。こんなのでもモンスターと戦う分には少しは頼りになるかもしれない、と一応考えておくジーフである。
「……誰だ?」
「ハンプティさん知らないよね。
マックス家の息子のギガントさん。
……どう見てもそうは見えないと思うけど。
あんなんでも11歳なの。
見た目通り性格悪い男なの。
今は連れてないみたいだけど、普段は家が金持ちなのを良いことに護衛に戦士なんか連れちゃって。
それを使って子供達を脅したりする、ろくでもないクズ男なんだ。
まぁでもポーズだけかもしれないけど一応戦士に剣を習ってるって言ってるからね。
この非常事態なら役に立つ可能性もミジンコくらいならあるかもね……」
「ギガントさん、こっちは王都から来た役人のハンプティさんです。
僕ら柵を見に来たんだけど……
ギガントさんはどうしたの?」
「オマエ……もしかしてホントに俺に聞こえてねぇと思ってんのか。
思いっきり聞こえてるよ!
丸聞こえだよ!!
ってゆーかワザとなのか。
ワザと聞こえないように言ってる風を装って。
それでいて明らかに聞こえる声でしゃべる。
こっちは聞こえないように言ってるんだから、聞こえない風を装ってよね!
ってゆー聞こえてるのに聞こえない風を強制してくる。
そんな謎テクニックなのか?!」
「してない、してない!
聞こえないように言ってる風を装って、それでいて明らかに聞こえる声でしゃべる。こっちは聞こえないように言ってるんだから、聞こえない風を装ってよね! ってゆー聞こえてるのに聞こえない風を強制してくる、なーんて不思議テクニック使って無いよ」
「……それ辺境で流行ってんのか?」
とりあえず訊ねてしまうハンプティ・ダンディである。
「俺はな……
護衛の連中が何時まで経っても戻ってこないからよ。
表に出て見たら、モンスターが溢れてやがる。
まさかと思って、見に来たんだよ」
ギガント・マックスが言う。ジーフやハンプティと合流して歩く男達である。
その脇ではやはり一角兎《ホーンラビット》が逃げるように走っていく。
「じゃ……やっぱりこの柵が怪しいんだ。
修理の手を抜いてたんだ。
それでこんな事件に……」
「違うっ!
ちゃんと修理はしたぞ」
「じゃ、なんで一角兎《ホーンラビット》だけじゃなく邪悪犬《エビルドッグ》まで村に入ってきてるのさ」
「俺が知るか!」
「……静かに」
ハンプティが立ち止まり様子を窺う。すでに柵があった箇所は見えている。
そこに人影らしきモノが在った。
「……人間が柵を壊してるじゃない」
「アイツらの仕業か」
「……しかし変だ」
王都の役人、ハンプティが顔をしかめている。
確かに人間らしきシルエットの影。毛皮の外套《マント》をかぶり人相は良く見えない。その人間達が柵を壊している。地面から見張り番の杭を引っこ抜き捨てている様子も見てとれる。
「何が変だってんだよ。
アイツらが柵を壊したからモンスターが入ってきてんだろ。
ぶっ飛ばしてやんぜ」
「……何故アイツらは邪悪犬《エビルドッグ》に襲われない?」
動物の毛皮で出来た外套《マント》を着た人間たちは柵を壊し続ける。大きく開いた箇所から邪悪犬《エビルドッグ》が村に入り込む。本来なら人間を見たらすぐに襲ってくる凶悪なモンスターなのだが、外套《マント》を着た人間に襲い掛かっていかないのである。
「俺が知るか!」
「とにかく!
アイツらが村の柵を壊してる事は確かだ。
止めさせよう」
猟師が弓の狙いをつける。もっともなセリフに誰も文句は付けない。
その弓の殺気を感じたのか。外套《マント》を着た男達は振り返る。
それは狼の毛皮であった。頭頂部に狼の頭部が付いているのだ。三角の耳を着け口を突き出した灰色の狼。
「…………!……」
「ありゃあ、ウチの護衛じゃねーか。
射るんじゃねぇ。
俺の雇った連中だ」
ギガントが言う。狼の毛皮を頭から被った男達は顔が良く見えない。が、確かに彼の言う通り、その下の鉄鎧は間違いなくギガントが連れていた戦士の物であった。
「ギガント……さん!
まさかアンタがやらせたの?」
「なに寝ぼけた事言ってやがる、ジーフ!
俺がそんな事する訳ねーだろ」
「わっかんないよ。
ギガント……さんが何考えるかなんてさ。
次期村長は望み薄だと思って、嫌がらせの為だけにするかもしれないじゃん。
あああ、自分で言っといてホントにありそうな気がして来た。
うわー、ギガントならやりそう。
悪役がさ、自滅を悟って周りまで巻き込んでの自殺。
くっくっく、この城はこのまま崩壊する。貴様らも一緒に死ぬのだ。
とか言っちゃってさ、絵物語とか紙芝居のパターンじゃん。
ひっどーい。
自分だけ死んでよ。
僕を巻き込まないで欲しーな」
「ふざけんなー!
俺は次期村長が望み薄だ、なんて思っちゃいねー!」
「ウッソでしょ。
無理だよ、アンタ誰にも好かれてないじゃない。
その位いくら周りを気にしない図々しい性格でも分かるでしょ。
親父さんはそれでも一応は頭も回るし、カリスマ性もあるみたいだけどさ。
ギガントに至ってはそれすらも無いじゃん。
学校の勉強にもついていけて無かったじゃん。
辺境とは言えさ、それなりに村人の人数は居るんだよ。
小さい子と混じっての勉強にも着いていけないヤツがそのアタマになれるワケ無いじゃん」
「ジーフ、テメェそろそろ容赦しねーぞ!」
「今はそんな場合か!」
「ギガントさん、アイツらがアンタの手下なら止めるよう呼び掛けてくれ」
猟師がマトモな事を言い出し、ギガントは男達の方を向く。
彼が男達に呼びかけるまでも無く、獣の外套《マント》を着た男達は柵を壊すのを止めていた。
その二人はすでにギガントやハンプティの近くに来ていたのだ。
音すら立てず獲物に近寄る狼のように。
毛皮に遮られ、良く見えなかった顔がハッキリと確認出来る距離。
それは人間の瞳では無かった。
暗闇に光る虹彩。
アンバーに輝く瞳。
それは狼の瞳であった。
「…………お前ら……どうしたんだ?……」
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