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第20話 ソフィアの乙女心
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ソフィア・マーティンは見惚れていた。
彼女を胸に抱いて窓際による美少年。彼女の兄であるナイト・マーティン。
無駄な贅肉など一欠けらも無い身体。研ぎ澄まされたような顔立ち。少し眉を寄せて鋭い視線を表に投げる。
カッコイイイイイイイ!!!
麗しいぜ! にいちゃん。
いつもの優しい顔もとろける!
あっしの脳がとろけだして鼻からこぼれてきそうになるんじゃぁ。
が、そんな険しいマナザシもたまらん!
キュンと来るんじゃ。
あっしの乙女の胸がキュンキュンと締め付けられるんじゃぁ。
うひょひょひょひょひょひょ
どれだけあっしを夢中にさせるんじゃー!
と言う訳で他の事にはかまってられないソフィアだが、さすがにそろそろ気にせざるを得ない。音が聞こえているのだ。おそらくは村の中の音。
どういう理由だかソフィアには分からないが、村で事件が起きている。その音がマーティン家に聞こえているのだ。
そしてその音こそがおそらくは愛しの美少年に厳しいマナザシをさせている。
「きゃぁぁぁ!
あんた、大丈夫?!」
「悲鳴をあげんなよ。
たかが一角兎《ホーンラビット》に足を刺されただけだ!」
「…………だけど!」
「おーい、手伝ってくれ!
2人掛かりなら一角兎《ホーンラビット》に対抗できる!」
「分かった、今行く!
…………!!!
やべぇ、逃げろ!
後ろに邪悪犬《エビルドッグ》が居る」
「なんだと?!」
「……あんた!!!」
「あぐぁっ!!!」
「あぁぁああああぁ」
「チクショウ!
ふざけやがって、あのイヌッコロ!」
「やめろ!
俺らじゃ、邪悪犬《エビルドッグ》には敵わねぇ!」
「一端みんな逃げろ!
村長の所に集まれ。
自警団の連中と力を合わせて、なんとかするんだ」
とぎれとぎれの悲鳴や、逃げようとする人々の声。赤ん坊であるソフィアはまだ村にほとんど出ていない。
それでも生活感のある人々の声と、その生活が壊されていく様子が手に取るように聞こえてくるのだ。
さらには子供の物らしい声も聞こえる。
「デレージアさん!」
「アンネトワット!
良かった、無事だったのね。
邪悪犬《エビルドッグ》に襲われたりしていない?」
「大丈夫です、デレージアさん」
「自警団の人達も付いててくれたからね。
子供達は全員無事だよ」
「ジーフクリードまでどうしたの?」
「子供達は村長の館に集まれってさ。
非常事態の緊急避難場所に選ばれてるんだよ、デレージアさん。
この村ってばホトンド木で出来た粗末な建物だけど、さすがにガロレィ村長のトコロは石造りだもの。
まぁ、ホントはマックス家の建物だって石造りだけどさ。
あそこに逃げようなんて酔狂な人はいないでしょ。
入ったら非常事態だろうがなんだろうが、入場料くらい取られそうだもんね」
「そう言えば……
非常の時には子供を受け入れると言ってたわね。
そんなの初めてだから忘れてた」
「…………あのあの……」
「どうしたの、アンネ?」
「どうかした、アンネトワット?」
「ナイトくん、見ませんでした?」
「いや、来てないわ。
アイツこんな時になにやってんのよ」
「ナイトくんの家、村はずれだからまだ連絡が行ってないのかも……
あのあの……
あたし行ってきます」
「ちょっとアンネ!」
「ナイトくんの家。
まだ連絡行って無かったらタイヘン」
「待ちなさい、アンネ!
ああもう!
しょうがない、ワタシも行くわ」
「待ちたまえ、子供だけで村はずれに行くのは推奨出来ないぞ」
「ハンプティさん、現在は見逃して」
「そうもいかん。
さっきも言っただろう。
私には未成年の子供達を守る義務があるのだ」
「……!……
ハンプティさん、次期村長候補として頼みがあるわ。
貴方もさっき言ってたわよね。
原因を調べて対処しなければ、って。
この村に起きてる事件の原因を調べて!」
「……心当りはあるのか?」
「ある!
今日村を覆う柵が壊されていて……
修理はしたはずだけど、そこが!
……アイツも気にしてた……」
「……はぁ……
はいはい、分かったよ。
僕ってこう言う非常事態には素直に隠れていたい子供なんだけどな。
そんな役回りが回って来る事って有るよね。
僕が案内するよ」
「ジーフ、頼んだわよ。
…………アンネ、ちょっと待ちなさいってば」
ソフィアが見るところ、子供達の話を聞いている兄は徐々に顔つきが厳しくなっていく。
「来なくていい」
どうやら、少女がこのマーティン家に向かっている。
それに対して兄は来なくていいと言っている。
正しい!
さすがじゃ!
完璧に正しいんじゃ、にいちゃん!
女なんか寄せ付けちゃいかん。
アンネとか言ったか。高い声の少女。声だけじゃ分からんが、多分前髪パッツンの美少女だったりするのだ。小柄で大人しくて可愛いタイプ。男の子に、守ってあげたい、とか思われちゃうタイプ。
もう一人はデレージアと言う名前らしい。こっちはキツ目の声。学級委員タイプ? いやむしろ木刀なんか携えてる生活指導委員キャラ。美女で頭も良くて同性にもステキとか言われちゃう、金髪美女だったりして。
どういうこったい!
生活指導とか言いながら!
お前は金髪なんかい!
みたいな。
ソフィアは本来……美少女だって結構好きなのだ。
ただし二次元に限る!
だって男の子に取ってカワイイ女の子って……女の子相手にはカワイク無かったりするのだ。造りなのだ。ファンタジーなのだ。ヤロウの幻想の影に隠れたやべー女の本性が見え隠れするのだ。
天然で可愛い美少女ちゃんなんか、二次元世界以外に存在する訳が無いのだ。
だって男の子に惚れられる美少女であるためには、現実の女の子は見せかけを実在の自分よりイロイロ良くせねばいかんのだ。メイクに言葉使い立ち居振る舞い、全て気にかけねばいかんのだ。
ソフィアは一歩目から失敗したのだ。
あの日……小学校に行く時初めて髪を結って貰ってリボンを着けて、自分で鏡の中の自分に嬉しくなって、るんるん登校した。ところが女の子たちは、あーリボン着けてるいけないんだー、と言い出して。男の子達は、変な髪型にして来たブスがもっとブスになった、と笑った。
それ以来自分の外見に構った事は無い。
三次元における可愛い外見の美少女など、自分とは異なる異次元の精神構造の持ち主。在り得ない程の自己顕示欲と男を惹きつける為の魔性の技術を会得した謎のデンジャラスな生物。
三次元における男など、ケモノの様なモノ。ブサイクで臭くて醜悪。何故にその醜さで表に出ようと思えるのか。二次元美少年を見習って少しだけでもマシになろうと思って貰えないだろうか。イヤ、無駄だ。根本的に生物として違うのだ。そんな無駄な努力はやはりしなくていい。とにかく自分と関わらんでくれ。
ゆえに!
美少女はこの家に来なくていいのだ!
にいちゃんが「来なくていい」と言ってるのは完璧に正しいんじゃ。
しかし!
分かってしまうのだ。
兄が厳しい顔つきをしてるのは……
もしかして……ひょっとかして……ひょっとかすると……
女の子ちゃんの身を案じたりなんかしているからで無いかい。
いかん!
騙されちゃイカンのじゃ。
可愛くて守ってあげたい風な前髪パッツン美少女なんぞに保護欲を引かれちゃいかんのじゃ。
気の強そうな金髪美女に心を奪われちゃダメなのじゃ。
ナイトの妹ソフィア・マーティン。可愛い赤子。
妹が泣き出しそうな気配を感じてナイトは赤ん坊を抱き上げる。
赤ん坊の妹が内心で何を考えているか。
予想もせず、村の出来事に意識を向けるナイト・マーティンなのである。
彼女を胸に抱いて窓際による美少年。彼女の兄であるナイト・マーティン。
無駄な贅肉など一欠けらも無い身体。研ぎ澄まされたような顔立ち。少し眉を寄せて鋭い視線を表に投げる。
カッコイイイイイイイ!!!
麗しいぜ! にいちゃん。
いつもの優しい顔もとろける!
あっしの脳がとろけだして鼻からこぼれてきそうになるんじゃぁ。
が、そんな険しいマナザシもたまらん!
キュンと来るんじゃ。
あっしの乙女の胸がキュンキュンと締め付けられるんじゃぁ。
うひょひょひょひょひょひょ
どれだけあっしを夢中にさせるんじゃー!
と言う訳で他の事にはかまってられないソフィアだが、さすがにそろそろ気にせざるを得ない。音が聞こえているのだ。おそらくは村の中の音。
どういう理由だかソフィアには分からないが、村で事件が起きている。その音がマーティン家に聞こえているのだ。
そしてその音こそがおそらくは愛しの美少年に厳しいマナザシをさせている。
「きゃぁぁぁ!
あんた、大丈夫?!」
「悲鳴をあげんなよ。
たかが一角兎《ホーンラビット》に足を刺されただけだ!」
「…………だけど!」
「おーい、手伝ってくれ!
2人掛かりなら一角兎《ホーンラビット》に対抗できる!」
「分かった、今行く!
…………!!!
やべぇ、逃げろ!
後ろに邪悪犬《エビルドッグ》が居る」
「なんだと?!」
「……あんた!!!」
「あぐぁっ!!!」
「あぁぁああああぁ」
「チクショウ!
ふざけやがって、あのイヌッコロ!」
「やめろ!
俺らじゃ、邪悪犬《エビルドッグ》には敵わねぇ!」
「一端みんな逃げろ!
村長の所に集まれ。
自警団の連中と力を合わせて、なんとかするんだ」
とぎれとぎれの悲鳴や、逃げようとする人々の声。赤ん坊であるソフィアはまだ村にほとんど出ていない。
それでも生活感のある人々の声と、その生活が壊されていく様子が手に取るように聞こえてくるのだ。
さらには子供の物らしい声も聞こえる。
「デレージアさん!」
「アンネトワット!
良かった、無事だったのね。
邪悪犬《エビルドッグ》に襲われたりしていない?」
「大丈夫です、デレージアさん」
「自警団の人達も付いててくれたからね。
子供達は全員無事だよ」
「ジーフクリードまでどうしたの?」
「子供達は村長の館に集まれってさ。
非常事態の緊急避難場所に選ばれてるんだよ、デレージアさん。
この村ってばホトンド木で出来た粗末な建物だけど、さすがにガロレィ村長のトコロは石造りだもの。
まぁ、ホントはマックス家の建物だって石造りだけどさ。
あそこに逃げようなんて酔狂な人はいないでしょ。
入ったら非常事態だろうがなんだろうが、入場料くらい取られそうだもんね」
「そう言えば……
非常の時には子供を受け入れると言ってたわね。
そんなの初めてだから忘れてた」
「…………あのあの……」
「どうしたの、アンネ?」
「どうかした、アンネトワット?」
「ナイトくん、見ませんでした?」
「いや、来てないわ。
アイツこんな時になにやってんのよ」
「ナイトくんの家、村はずれだからまだ連絡が行ってないのかも……
あのあの……
あたし行ってきます」
「ちょっとアンネ!」
「ナイトくんの家。
まだ連絡行って無かったらタイヘン」
「待ちなさい、アンネ!
ああもう!
しょうがない、ワタシも行くわ」
「待ちたまえ、子供だけで村はずれに行くのは推奨出来ないぞ」
「ハンプティさん、現在は見逃して」
「そうもいかん。
さっきも言っただろう。
私には未成年の子供達を守る義務があるのだ」
「……!……
ハンプティさん、次期村長候補として頼みがあるわ。
貴方もさっき言ってたわよね。
原因を調べて対処しなければ、って。
この村に起きてる事件の原因を調べて!」
「……心当りはあるのか?」
「ある!
今日村を覆う柵が壊されていて……
修理はしたはずだけど、そこが!
……アイツも気にしてた……」
「……はぁ……
はいはい、分かったよ。
僕ってこう言う非常事態には素直に隠れていたい子供なんだけどな。
そんな役回りが回って来る事って有るよね。
僕が案内するよ」
「ジーフ、頼んだわよ。
…………アンネ、ちょっと待ちなさいってば」
ソフィアが見るところ、子供達の話を聞いている兄は徐々に顔つきが厳しくなっていく。
「来なくていい」
どうやら、少女がこのマーティン家に向かっている。
それに対して兄は来なくていいと言っている。
正しい!
さすがじゃ!
完璧に正しいんじゃ、にいちゃん!
女なんか寄せ付けちゃいかん。
アンネとか言ったか。高い声の少女。声だけじゃ分からんが、多分前髪パッツンの美少女だったりするのだ。小柄で大人しくて可愛いタイプ。男の子に、守ってあげたい、とか思われちゃうタイプ。
もう一人はデレージアと言う名前らしい。こっちはキツ目の声。学級委員タイプ? いやむしろ木刀なんか携えてる生活指導委員キャラ。美女で頭も良くて同性にもステキとか言われちゃう、金髪美女だったりして。
どういうこったい!
生活指導とか言いながら!
お前は金髪なんかい!
みたいな。
ソフィアは本来……美少女だって結構好きなのだ。
ただし二次元に限る!
だって男の子に取ってカワイイ女の子って……女の子相手にはカワイク無かったりするのだ。造りなのだ。ファンタジーなのだ。ヤロウの幻想の影に隠れたやべー女の本性が見え隠れするのだ。
天然で可愛い美少女ちゃんなんか、二次元世界以外に存在する訳が無いのだ。
だって男の子に惚れられる美少女であるためには、現実の女の子は見せかけを実在の自分よりイロイロ良くせねばいかんのだ。メイクに言葉使い立ち居振る舞い、全て気にかけねばいかんのだ。
ソフィアは一歩目から失敗したのだ。
あの日……小学校に行く時初めて髪を結って貰ってリボンを着けて、自分で鏡の中の自分に嬉しくなって、るんるん登校した。ところが女の子たちは、あーリボン着けてるいけないんだー、と言い出して。男の子達は、変な髪型にして来たブスがもっとブスになった、と笑った。
それ以来自分の外見に構った事は無い。
三次元における可愛い外見の美少女など、自分とは異なる異次元の精神構造の持ち主。在り得ない程の自己顕示欲と男を惹きつける為の魔性の技術を会得した謎のデンジャラスな生物。
三次元における男など、ケモノの様なモノ。ブサイクで臭くて醜悪。何故にその醜さで表に出ようと思えるのか。二次元美少年を見習って少しだけでもマシになろうと思って貰えないだろうか。イヤ、無駄だ。根本的に生物として違うのだ。そんな無駄な努力はやはりしなくていい。とにかく自分と関わらんでくれ。
ゆえに!
美少女はこの家に来なくていいのだ!
にいちゃんが「来なくていい」と言ってるのは完璧に正しいんじゃ。
しかし!
分かってしまうのだ。
兄が厳しい顔つきをしてるのは……
もしかして……ひょっとかして……ひょっとかすると……
女の子ちゃんの身を案じたりなんかしているからで無いかい。
いかん!
騙されちゃイカンのじゃ。
可愛くて守ってあげたい風な前髪パッツン美少女なんぞに保護欲を引かれちゃいかんのじゃ。
気の強そうな金髪美女に心を奪われちゃダメなのじゃ。
ナイトの妹ソフィア・マーティン。可愛い赤子。
妹が泣き出しそうな気配を感じてナイトは赤ん坊を抱き上げる。
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