8 / 23
第8話 アリスの主菜《メインデイッシュ》
しおりを挟む
バトルロミオは調理場の脇にある個室から、二階への道を走る。
「うわっ?! モンスターが走っている!」
「気を付けろ。
アレは狂暴猪《マッドボア》!
凶悪なモンスターだ!」
そんな声が聞こえるが、無視をする。
本来であれば
「店の中にモンスターがいるかよっ!
俺コックの格好してるだろ!
白い調理着着た狂暴猪《マッドボア》見た事あんのかよ!!」
と、思いっきり叫びたいのだが、現在はそれどころじゃないのである。
やらかしてしまったのだ。とうに若手はバトルロミオの命に従って薬を料理に入れているだろう。
あの料理が汚されていい筈が無い。
さらに相手は貴族。あの料理を、さらには料理を出したロイヤルジョナゼリア、アディスアミバ支店にどんな行動に出ることか。
過去の自分がしてしまった事ではあるが、愚かだったと言う他ない。
もしも、貴族どもが激高していたならば。
その場で自分が土下座をしよう。なんなら怒り狂った貴族に手討にされても構わない。
そんな覚悟を決めてパラマウント伯爵とサニー子爵が居る部屋の扉を開ける。
ところが。
そこには涙を流す人々がいた。
「美味しいいいいい」
気難しそうな顔をしていた筈のメリー嬢が泣いていた。
「旨いいいいいい」
頭の回転の速そうなピーターが涙を零していた。
「なんというウマサだ」
サニー子爵の目尻からもダラダラと流れる物があるのである。
「旨い、確かに旨い。
だが料理程度に精神の全てを持ってかれてなるものか」
現在は力を落としたとは言え、この地方の貴族の代表格であったパラマウント伯爵だけは涙を堪える。だが目の下が潤んできているのは誰の目にも明らか。
バトルロミオは呆然と眺める。俺の指示した若手は何処にいる? この部屋の状況は何だ。
「すんません、すんませんんんん!!」
バトルロミオ料理長に頭を下げたのは、彼が指示した若手料理人であった。
「オマエ、どうしたんだ?」
「オレ、オレ……
あの料理を見てたらどうしても薬を入れる事が出来なくて……
すんません!
バトルロミオ料理長。
料理長にこんなに世話になってるってのに、オレ……」
「…………!……」
「すんません。すんません。すんませんーーー。
オレ、オレ……」
「いや……オマエは正しい!
よく、よく留まってくれた。
オマエのおかげで俺は一線を踏み越えずに済んだんだ。
……ありがとう!」
「…………バトルロミオ料理長……」
バトルロミオは若手の身体を抱きしめていた。その目からは涙が零れているのだ。
「良かった。
よく分からないけど……良かった」
事情がまったく呑み込めてないマネージャー。だがなんだか上手く収まったらしい。全て円満解決か、そうマネージャーが思った時。
バラマウント伯爵が立ち上がり彼に言い出すのである。
「マネージャー!
この店の名はロイヤルジョナゼリアと言ったな」
「はい。
……その通りでございますが……」
「誰の許可を得て、頭にロイヤルと着けている?
王族の許可なしにロイヤルと言う名前は使えない。
その位は分かっている筈だな!」
「…………それは!……」
今さら何を?!
バトルロミオ料理長もマネージャーも呆れざるを得ない。
勿論、ロイヤルと言う言葉は『王族の』という意味で有るし、その決まり事だって知ってはいる。
だが、いつの時代の話だ。一般市民が貴族や王族の許可なしに商売すら出来なかった時代はとっくに終わった。現在ではロイヤルと名乗る店や商品等、珍しくも無い。その辺の屋台で売ってる菓子にすら使われているのだ。
しかし伯爵ともあろう貴族に盾突く訳にもいかない。
言葉を返しかねて黙りこむ二人である。
「パラマウント伯爵。
失礼ですが……それはあまりにも。
今の時代にそんな古いしきたりを持ち出されるのは……」
替わって言葉を返すのはピーターだ。元々低い身分の貴族だが時流に乗って爵位を上げるサニー子爵の跡継ぎらしい発言。
「ピーター君。
キミは黙っていたまえ!」
「………………」
しかし伯爵に一喝される。パラマウント伯爵は現在でこそ力を落としているが王国の大貴族。本気の顔を覗かせると、その迫力は若いピーターに太刀打ち出来るものでは無い。
「無論、私とて分かってはいる。
古い忘れられつつあるしきたりだと言う事はな。
そんじょそこらの屋台と変わらぬような店がロイヤルと名乗るのは笑って見過ごすのもよかろう。
だが、しかし!
この店は違う!
庶民とは言え、あれだけの人数を集客し、新しいモノに敏感なピーター君を魅了してのける。
新しいモノ等に興味の無いウチの娘に人前で感動の涙を流させる。
今後、庶民だけでなく貴族達にまで影響力の有る存在になる事は明白。
ならば、私パラマウント伯爵は見過ごせんのだ。
古き大貴族として、これだけの店が誰の許可も無くロイヤルと名乗る事を笑って許す事は出来はしない!」
バトルロミオとマネージャーは衝撃を受けていた。
頭の悪い貴族が、忘れ去られたような決まりでイチャモンを着けてきたと思っていたが、そんなレベルでは無い。伯爵は本気だ。彼らが頭を下げたくらいで納まる雰囲気では無いのである。
「……マネージャー、俺が土下座する。
それで足りなきゃ、腹を斬る。
それで上手く話しをつけてくれ」
「……ナニを言い出すんだ?
バトルロミオ料理長、そんな事させる訳には……」
「しかし……他に方法はあるまい」
「……それは……」
相手はパラマウント伯爵、現在では勢力を著しく削られているとは言え、この地方の大貴族である。方々に手を回せば、この店の営業許可を取り消す、その程度は簡単にやってのけるであろう。
「お父様、少し穏便に……
この店の料理が素晴らしいのは、お父様だって分かるでしょう」
パラマウント伯爵の娘メリーである。我の強そうなワガママ娘と言った雰囲気であったが、認めた物は素直に認める性質であるらしい。
お嬢様ナイス!
愛娘から言われれば、父親だって。
とマネージャーとバトルロミオが喜んだのも束の間。
パラマウントは伯爵位の威厳を持って断ずるのである。
「メリー、覚えておけ。
幾ら古い決まり事であってもだ。
王家の決めた決まり事を見過ごすようであっては……
それは貴族と名乗れんのだ!」
「うわっ?! モンスターが走っている!」
「気を付けろ。
アレは狂暴猪《マッドボア》!
凶悪なモンスターだ!」
そんな声が聞こえるが、無視をする。
本来であれば
「店の中にモンスターがいるかよっ!
俺コックの格好してるだろ!
白い調理着着た狂暴猪《マッドボア》見た事あんのかよ!!」
と、思いっきり叫びたいのだが、現在はそれどころじゃないのである。
やらかしてしまったのだ。とうに若手はバトルロミオの命に従って薬を料理に入れているだろう。
あの料理が汚されていい筈が無い。
さらに相手は貴族。あの料理を、さらには料理を出したロイヤルジョナゼリア、アディスアミバ支店にどんな行動に出ることか。
過去の自分がしてしまった事ではあるが、愚かだったと言う他ない。
もしも、貴族どもが激高していたならば。
その場で自分が土下座をしよう。なんなら怒り狂った貴族に手討にされても構わない。
そんな覚悟を決めてパラマウント伯爵とサニー子爵が居る部屋の扉を開ける。
ところが。
そこには涙を流す人々がいた。
「美味しいいいいい」
気難しそうな顔をしていた筈のメリー嬢が泣いていた。
「旨いいいいいい」
頭の回転の速そうなピーターが涙を零していた。
「なんというウマサだ」
サニー子爵の目尻からもダラダラと流れる物があるのである。
「旨い、確かに旨い。
だが料理程度に精神の全てを持ってかれてなるものか」
現在は力を落としたとは言え、この地方の貴族の代表格であったパラマウント伯爵だけは涙を堪える。だが目の下が潤んできているのは誰の目にも明らか。
バトルロミオは呆然と眺める。俺の指示した若手は何処にいる? この部屋の状況は何だ。
「すんません、すんませんんんん!!」
バトルロミオ料理長に頭を下げたのは、彼が指示した若手料理人であった。
「オマエ、どうしたんだ?」
「オレ、オレ……
あの料理を見てたらどうしても薬を入れる事が出来なくて……
すんません!
バトルロミオ料理長。
料理長にこんなに世話になってるってのに、オレ……」
「…………!……」
「すんません。すんません。すんませんーーー。
オレ、オレ……」
「いや……オマエは正しい!
よく、よく留まってくれた。
オマエのおかげで俺は一線を踏み越えずに済んだんだ。
……ありがとう!」
「…………バトルロミオ料理長……」
バトルロミオは若手の身体を抱きしめていた。その目からは涙が零れているのだ。
「良かった。
よく分からないけど……良かった」
事情がまったく呑み込めてないマネージャー。だがなんだか上手く収まったらしい。全て円満解決か、そうマネージャーが思った時。
バラマウント伯爵が立ち上がり彼に言い出すのである。
「マネージャー!
この店の名はロイヤルジョナゼリアと言ったな」
「はい。
……その通りでございますが……」
「誰の許可を得て、頭にロイヤルと着けている?
王族の許可なしにロイヤルと言う名前は使えない。
その位は分かっている筈だな!」
「…………それは!……」
今さら何を?!
バトルロミオ料理長もマネージャーも呆れざるを得ない。
勿論、ロイヤルと言う言葉は『王族の』という意味で有るし、その決まり事だって知ってはいる。
だが、いつの時代の話だ。一般市民が貴族や王族の許可なしに商売すら出来なかった時代はとっくに終わった。現在ではロイヤルと名乗る店や商品等、珍しくも無い。その辺の屋台で売ってる菓子にすら使われているのだ。
しかし伯爵ともあろう貴族に盾突く訳にもいかない。
言葉を返しかねて黙りこむ二人である。
「パラマウント伯爵。
失礼ですが……それはあまりにも。
今の時代にそんな古いしきたりを持ち出されるのは……」
替わって言葉を返すのはピーターだ。元々低い身分の貴族だが時流に乗って爵位を上げるサニー子爵の跡継ぎらしい発言。
「ピーター君。
キミは黙っていたまえ!」
「………………」
しかし伯爵に一喝される。パラマウント伯爵は現在でこそ力を落としているが王国の大貴族。本気の顔を覗かせると、その迫力は若いピーターに太刀打ち出来るものでは無い。
「無論、私とて分かってはいる。
古い忘れられつつあるしきたりだと言う事はな。
そんじょそこらの屋台と変わらぬような店がロイヤルと名乗るのは笑って見過ごすのもよかろう。
だが、しかし!
この店は違う!
庶民とは言え、あれだけの人数を集客し、新しいモノに敏感なピーター君を魅了してのける。
新しいモノ等に興味の無いウチの娘に人前で感動の涙を流させる。
今後、庶民だけでなく貴族達にまで影響力の有る存在になる事は明白。
ならば、私パラマウント伯爵は見過ごせんのだ。
古き大貴族として、これだけの店が誰の許可も無くロイヤルと名乗る事を笑って許す事は出来はしない!」
バトルロミオとマネージャーは衝撃を受けていた。
頭の悪い貴族が、忘れ去られたような決まりでイチャモンを着けてきたと思っていたが、そんなレベルでは無い。伯爵は本気だ。彼らが頭を下げたくらいで納まる雰囲気では無いのである。
「……マネージャー、俺が土下座する。
それで足りなきゃ、腹を斬る。
それで上手く話しをつけてくれ」
「……ナニを言い出すんだ?
バトルロミオ料理長、そんな事させる訳には……」
「しかし……他に方法はあるまい」
「……それは……」
相手はパラマウント伯爵、現在では勢力を著しく削られているとは言え、この地方の大貴族である。方々に手を回せば、この店の営業許可を取り消す、その程度は簡単にやってのけるであろう。
「お父様、少し穏便に……
この店の料理が素晴らしいのは、お父様だって分かるでしょう」
パラマウント伯爵の娘メリーである。我の強そうなワガママ娘と言った雰囲気であったが、認めた物は素直に認める性質であるらしい。
お嬢様ナイス!
愛娘から言われれば、父親だって。
とマネージャーとバトルロミオが喜んだのも束の間。
パラマウントは伯爵位の威厳を持って断ずるのである。
「メリー、覚えておけ。
幾ら古い決まり事であってもだ。
王家の決めた決まり事を見過ごすようであっては……
それは貴族と名乗れんのだ!」
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
25歳のオタク女子は、異世界でスローライフを送りたい
こばやん2号
ファンタジー
とある会社に勤める25歳のOL重御寺姫(じゅうおんじひめ)は、漫画やアニメが大好きなオタク女子である。
社員旅行の最中謎の光を発見した姫は、気付けば異世界に来てしまっていた。
頭の中で妄想していたことが現実に起こってしまったことに最初は戸惑う姫だったが、自身の知識と持ち前の性格でなんとか異世界を生きていこうと奮闘する。
オタク女子による異世界生活が今ここに始まる。
※この小説は【アルファポリス】及び【小説家になろう】の同時配信で投稿しています。
クズな少年は新しい世界で元魔獣の美少女たちを従えて、聖者と呼ばれるようになる。
くろねこ教授
ファンタジー
翔馬に言わせるとこうなる。
「ぼくは引きこもりじゃないよ
だって週に一回コンビニに出かけてる
自分で決めたんだ。火曜の深夜コンビニに行くって。
スケジュールを決めて、実行するってスゴイ事だと思わない?
まさに偉業だよね」
さて彼の物語はどんな物語になるのか。
男の願望 多めでお送りします。
イラスト:イラスト:illustACより沢音千尋様の画を利用させて戴きました
『なろう』様で12万PV、『カクヨム』様で4万PV獲得した作品です。
『アルファポリス』様に向けて、多少アレンジして転載しています。
知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
追放からはじまる異世界終末キャンプライフ
ネオノート
ファンタジー
「葉山樹」は、かつて地球で平凡な独身サラリーマンとして過ごしていたが、40歳のときにソロキャンプ中に事故に遭い、意識を失ってしまう。目が覚めると、見知らぬ世界で生意気な幼女の姿をした女神と出会う。女神は、葉山が異世界で新しい力を手に入れることになると告げ、「キャンプマスター」という力を授ける。ぼくは異世界で「キャンプマスター」の力でいろいろなスキルを獲得し、ギルドを立ち上げ、そのギルドを順調に成長させ、商会も設立。多数の異世界の食材を扱うことにした。キャンプマスターの力で得られる食材は珍しいものばかりで、次第に評判が広がり、商会も大きくなっていった。
しかし、成功には必ず敵がつくもの。ライバルギルドや商会から妬まれ、陰湿な嫌がらせを受ける。そして、王城の陰謀に巻き込まれ、一文無しで国外追放処分となってしまった。そこから、ぼくは自分のキャンプの知識と経験、そして「キャンプマスター」の力を活かして、この異世界でのサバイバル生活を始める!
死と追放からはじまる、異世界サバイバルキャンプ生活開幕!
チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。
異世界に来ちゃったよ!?
いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。
しかし、現在森の中。
「とにきゃく、こころこぉ?」
から始まる異世界ストーリー 。
主人公は可愛いです!
もふもふだってあります!!
語彙力は………………無いかもしれない…。
とにかく、異世界ファンタジー開幕です!
※不定期投稿です…本当に。
※誤字・脱字があればお知らせ下さい
(※印は鬱表現ありです)
料理スキルで完璧な料理が作れるようになったから、異世界を満喫します
黒木 楓
恋愛
隣の部屋の住人というだけで、女子高生2人が行った異世界転移の儀式に私、アカネは巻き込まれてしまう。
どうやら儀式は成功したみたいで、女子高生2人は聖女や賢者といったスキルを手に入れたらしい。
巻き込まれた私のスキルは「料理」スキルだけど、それは手順を省略して完璧な料理が作れる凄いスキルだった。
転生者で1人だけ立場が悪かった私は、こき使われることを恐れてスキルの力を隠しながら過ごしていた。
そうしていたら「お前は不要だ」と言われて城から追い出されたけど――こうなったらもう、異世界を満喫するしかないでしょう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる