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貧民街の魔少年

娼館で争う男Ⅲ

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コーザンは夜道を走っていた。
速度は出ない。
二階から降りた衝撃で足も痛めたのだ。

体が万全なら二階から飛び降りるくらいはなんて事は無い。
しかし右腕の骨を折られ、肋骨もおそらく折れている。

すぐにコナー・ファミリーの追手がかかるハズだ。
イナンナの複雑な路地裏を利用して、なんとか逃げて見せる。

あの死に損ないのジェイスンを殺す。
ケイトはぶち犯す。
今度は手加減しない。
全身いたぶって身動き取れないまま、一生自分の玩具にしてやるのだ。


「……サマラ、あの男だ」
「……分かった……」

コーザンの前に銀髪の少年が立っていた。
マントの女も一緒だ。

「……やあ、デミアンさんじゃないか。
 ワシだ、コーザンだ」

「うん。
 僕の薬のレシピを持って行かなかったか尋ねて以来、連絡の取れなかったコーザンさんだね」
「……なんの話だったかな。
 『赤いレジスタンス』の仕事で忙しかったんだよ」

「冒険者のジェイスンを捕まえるんだよね。
 僕はその話聞いていないし、その依頼料についても知らないな」
「待て待て、子供には分からない事情も有るんだ」


「……あのジェイスンという男はくわせ者だ。
 冒険者と言ってるが、あいつが関わった仕事では関係者がみな死んでるんだぞ。
 ウワサの山賊事件にしてもだ。
 犠牲者が皆死んでいるのに、あいつだけ無傷とは明らかに怪しいではないか」

コーザンは適当な言葉を並べて誤魔化そうとする。
相手は賢いが子供だ。
口先で何とかなる。

しかしマントの女が前傾姿勢を取る。

「……?……」

コーザンは知らない。
それが女の戦闘態勢だと。

次の瞬間 コーザンの頭は胴体から離れていた。
自分の胴体から血が噴き出すのをコーザンは見た。
それが彼の最後に見た光景だった。

サマラはもちろん彼の言う事をまったく聞いていなかったのだ。




さて、俺は数日後またマフィアの女ボスとメシを食っていた。
今回もギルドの特別室、アリスも一緒だ。

カニンガムの奴は逃げた。
デミアンは来ていない。

「ふん、ジャネルは粛清したよ」
 あの子にも謝っておいておくれ。
 又、貧民街に狩りしようなんてヤツが現れたらすぐ言ってくれ。
 今度はコナー・ファミリーが相手になるよ」

料理が美味い。

「キター、キマしたよ。
 この間はジェイスンさんのせいで途中までしか食べられませんでした。
 今日はフルコースいただきますよ」

アリスもご機嫌だ。


「……ジェイスン、アンタ。
 本当にコナー・ファミリーに入る気は無いかい?」

「これからファミリー内の粛清に本気でかかあるのさ。
 アタシと血が繋がってるヤツだろうが、処断できるヤツが必要なんだよ」

「いや……あの……それはですね……
 ジェイスンさんには実は決まった人がいまして……」

アリスが適当なことを言っている。

「サラ子爵、光栄だけどな。
 俺はそろそろ別の街に行くつもりなんだ
 マヌケな冒険者にはコナー・ファミリーの幹部は荷が重いさ」

「えっ?!
 ジェイスンさん……」

「そうかい。
 ケイトはタイプじゃないかい。
 ちょっとばかり筋肉がついてるが美人だと思うんだがね」

いやちょっとどころじゃないだろう。
孫娘のどこを見てるんだ。


「……なんでですか?
 サラ子爵の誤解も解けたし、狙われることもなくなるじゃないですか。
 イナンナの街嫌いになりましたか?
 でもサラ子爵が造った街です。
 私だってこれからこの街をもっと良くしていきます」

「……ジェイスンさん。
 困った事が有ったらカニンガムさんだっているし。
 ……ワタシだっているじゃないですか……」

驚いた事にアリスは目に涙を浮かべていた。


「……お嬢ちゃん、止めときな。
 冒険者ってのはね、ひとところに留まれないヤツの事を言うのさ」

サラ子爵が年の功だ、良い事を言う。

だが、アリスは顔を下に向けて嗚咽を洩らし始める。

この街では俺の特技を見せすぎた。

デミアンや子供たちにはバッチリ見られてる。
神殿の時だって見て生き延びてるヤツがいるかもしれない。

どこかで不審に思うヤツが出てくる。
一度、この場は離れるに限るのだ。

しばらくすればみんな見間違いか、トリックだと思い込む。
人間てのはそういう風に出来ているのだ。


「……おい、アリス落ち着いてくれよ!
 そんな盛り上がらないでくれ」

俺の背の低い女に語り掛ける。

「二度と来ないなんて言ってないぜ。
 ここは街道の要所だろ。
 またすぐに来ることがあるさ」

「……ホントウですか?
 ……そうか……そうですね。
 ジェイスンさん、旅の護衛が中心の仕事ですものね」

「じゃあ、稼いで戻ってきてください。
 今度はこのレストラン、ジェイスンさんが奢ってくれますね」
 
アリスが顔を上げる。
良かった。
この娘はまっすぐ前を見てる顔がいい。


「……ふーん。
 こりゃケイトの婿は望み薄だね。
 頭が良くて度胸もあるヤツがどうしても欲しいんだけどね」

「ああ、コナー・ファミリーの幹部には俺からひとり推薦するぜ」


「ちょっとばかり年齢は若いが、頭のよさはおれが保証する
 サラやコナー・ファミリー幹部の前で、コナーを糾弾できる度胸の持ち主なんだ」

誰の事か、それだけで分かったのだろう。
目を丸くするサラ子爵とアリス。

俺は二人に向かって親指を立ててみせた。
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みんなの感想(1件)

2022.04.19 ユーザー名の登録がありません

退会済ユーザのコメントです

くろねこ教授
2022.04.20 くろねこ教授

大分死にます!
結構亡くなります。
かなりお陀仏です。
相当くたばります。

コメントありがとうございます。

解除

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