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貧民街の魔少年
ギルドで飯を食う男Ⅱ
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サマラは手加減を知らない。
それでも奴隷狩りは死んでいる者は少なかった。
彼らは毒矢に対するため革装備を着こんでいた。
そのお陰もあるだろう。
重傷の者は血止めだけして、全員一緒には縛り上げている。
やはり防具は大事だな。
また教訓を得る俺である。
ただしその教訓が活かされる事はあまり無い。
「やった! お肉だね」
「腐っちゃうから早く食べなきゃ」
身動き取れない奴隷狩りの連中を見て、喜ぶ子供達。
いや、ちょっとソレは……
……俺としてはさすがにどうも……
「僕も子供たちにそんなコトはさせたくありません。
でも子供たちは万年栄養失調です。
死ぬか生きるかの選択なんです」
デミアン少年の言う事は正しい。
でも協力者に大人もいるのだ。
なんとか別の選択がありそうじゃないか。
とりあえず朝までひと眠りと行こう。
ザコ寝している子供達と一緒に横になる。
建物には汚い毛布や破れた布しか無かったが、男たちの馬車に毛布やマントが有った。
子供たちは大喜びした。
「やった、新品の毛布だ」
「破れてないマント初めて見た~」
サマラはここの出身らしい。
ずっと子供たちの中で最大戦力だったが、リーダーではなく用心棒扱いらしい。
まぁそうだろう。
狂犬じゃリーダーにはなれない。
今は『赤いレジスタンス』に戦力として力を貸し、その報酬で子供たちに食料や衣類を買っている。
「おまえ、どこで見たんだっけ?」
「……まあいい。
子供を守ってくれて、ありがとな」
サマラは無邪気に礼を言ってきた。
凶悪に見えたサメ女も子供たちに混じると、身体が大きい子供に見えた。
サマラは子供達と一緒になって驚くほどアッサリ寝てしまった。
何を警戒する事も無く、グースカ寝ている。
帽子とマントを外した顔を見ると間違いなく女だった。
遠方の血が混じっているのか、この辺の人間にしては色が黒い。
彫りの深い顔立ちと相まってエキゾチック美人に見える。
彼女の身体には子供たちがくっついて寝ている。
おれも眠くなる。
今日は忙しかったのだ。
ランニングをした挙句、荒事をいくつもこなしたのだ。
横になる俺の身体にも子供達はひっついてきた。
子供達の体は温かく、俺も安心してグッスリ寝てしまった。
翌朝、俺は奴隷狩りの持ってきた馬車に連中を詰めて運ぶ。
つきそいはデミアンとサマラだ。
行先は冒険者ギルドである。
アリスは目を白黒させていた。
「コイツら、強盗なんだ。
俺が捕まえた。
証人はこの二人だ」
「僕は街はずれで薬屋を営んでいる、デミアンと言います。
この人たちが昨夜いきなり襲ってきたんです
ジェイスンさんが助けてくれなかったら、僕と妹は攫われるところでした」
「ウム、ズッと見てたよ。
マチガイ無い」
「……ジェイスンさん……
捕まえたって10人以上いますよ」
「……それにその証人の女性……」
俺は背の低い受付嬢を抱き寄せ、小声で語る。
「アリス、頼むよ。
コイツラ調べれば犯罪歴が絶対出てくる
あと、この馬車も買い取ってくれ。
載ってる武器やらなんかも全部頼む」
「報奨金は手付だけでもいい。
銀髪少年に渡してくれ」
「ジェイスンさん?!
報奨金ってそんなの、すぐには出ませんよ」
「アリス、ほんの一部でいい。
とにかく今すぐ渡してやってくれ」
アリスにもろもろ全部押し付ける。
……キィーッ……
とか奇声を発していたが彼女なら上手くやってくれるだろう。
アリスが銀髪少年に名前と住所を書くように言う場面で俺は緊張したが、少年はサラサラと書いていく。
デタラメを書いてるにしては澱みない。
フーン。
「……ジェイスン!
良かった、いいところに来てくれた!」
「……カニンガム、久しぶりだな」
「お前を探しに行かなきゃならんと思ってた」
カニンガムは慌てて俺をギルドの奥に連れていく。
「待ってください、カニンガム副隊長。
まだ手続きが残ってるんです……」
「アリス!
ギルドの一大事なんだ。
上手くお前が代筆しといてくれ」
上司に言われて目を白黒させるアリス。
悪いね、後は任せた。
「良いか、ジェイスン。
サラ子爵がお前と面会を希望している」
「……誰だって?」
「サラ子爵。
200年以上続く貴族でこの街の評議会の一員。
最大手商会の会長で、娼婦たちの大元締め、兼騎士団の御意見番、兼冒険者ギルドのスポンサーで人事権まで持ってる」
「待ってくれ、覚えきれない」
「他にもいろいろな顔を持ってる。
ついでに…………コナー・ファミリーのボスだ」
「………………
昨夜、お前を招待したそうなんだが、招待した者が失敗したって、
ギルドに連絡が来た。
今日の昼、ギルドに出向くから、その場でお前と面会する
……と仰っている」
「……ははぁ、ゴッドマザーとか言うヤツか。
昨日の今日でせっかちな婆さんだ」
「お前、サラ子爵を怒らせるな。
本当に怒らせるなよ
ギルドの人事権を持ってるって言ったろ。
俺もお前もどうなるか分からんぞ」
今日の昼だって?
もう一時間もないじゃないか。
「お前さんがジェイスンかい。
腕利きの冒険者って聞いてたけど、思ったより迫力が無いねぇ」
サラ子爵は俺の顔をみるなり言った。
年齢は相当いってる老婆だが、背が成人男子なみに高く横幅もデカイ。
身のこなしに年齢相応の弱ったところが無いのだ。
むしろ気力に満ちていて、他人を圧倒する迫力がある。
「いや、人間違いでしょう。
俺はマヌケな冒険者で有名なんです」
「……カニンガム!」
デッカイ老婆がカニンガムを睨め付ける。
カニンガムが顔を横にブルブルと震わせる
「いえ、いえいえ。
彼が間違いなくお探しのジェイスンですとも。
……先日、イナンナ神殿の不祥事を暴いた腕利きです」
カニンガムの奴、サラ子爵の前でやけに小さくなってるじゃないか。
権力に弱い男じゃなかったんだが……彼女の迫力に圧されてるらしい。
「ふん。
ジェイスン、昨夜は使いの者が役に立たなくて失礼したね」
サラは横に昨日のマッチョ男と筋肉女も連れていた。
サラの言葉にマッチョ男のアーニーが頭を下げる。
相当な大男だが、サラといると小さく見える。
計測すればアーニーの方が高いだろうが、印象の強さが違うのだ。
ケイトの方はこっちを見て話しかけてくる。
「アンタ、無事だったんだね」
「ああ、おかげさまでな。
昨夜は子供と一晩遊んでたんだ」
「チッ、こっちはヒドイ目に有ったんだ……」
そっぽを向くケイト。
何故かその頬は紅潮している。
それでも奴隷狩りは死んでいる者は少なかった。
彼らは毒矢に対するため革装備を着こんでいた。
そのお陰もあるだろう。
重傷の者は血止めだけして、全員一緒には縛り上げている。
やはり防具は大事だな。
また教訓を得る俺である。
ただしその教訓が活かされる事はあまり無い。
「やった! お肉だね」
「腐っちゃうから早く食べなきゃ」
身動き取れない奴隷狩りの連中を見て、喜ぶ子供達。
いや、ちょっとソレは……
……俺としてはさすがにどうも……
「僕も子供たちにそんなコトはさせたくありません。
でも子供たちは万年栄養失調です。
死ぬか生きるかの選択なんです」
デミアン少年の言う事は正しい。
でも協力者に大人もいるのだ。
なんとか別の選択がありそうじゃないか。
とりあえず朝までひと眠りと行こう。
ザコ寝している子供達と一緒に横になる。
建物には汚い毛布や破れた布しか無かったが、男たちの馬車に毛布やマントが有った。
子供たちは大喜びした。
「やった、新品の毛布だ」
「破れてないマント初めて見た~」
サマラはここの出身らしい。
ずっと子供たちの中で最大戦力だったが、リーダーではなく用心棒扱いらしい。
まぁそうだろう。
狂犬じゃリーダーにはなれない。
今は『赤いレジスタンス』に戦力として力を貸し、その報酬で子供たちに食料や衣類を買っている。
「おまえ、どこで見たんだっけ?」
「……まあいい。
子供を守ってくれて、ありがとな」
サマラは無邪気に礼を言ってきた。
凶悪に見えたサメ女も子供たちに混じると、身体が大きい子供に見えた。
サマラは子供達と一緒になって驚くほどアッサリ寝てしまった。
何を警戒する事も無く、グースカ寝ている。
帽子とマントを外した顔を見ると間違いなく女だった。
遠方の血が混じっているのか、この辺の人間にしては色が黒い。
彫りの深い顔立ちと相まってエキゾチック美人に見える。
彼女の身体には子供たちがくっついて寝ている。
おれも眠くなる。
今日は忙しかったのだ。
ランニングをした挙句、荒事をいくつもこなしたのだ。
横になる俺の身体にも子供達はひっついてきた。
子供達の体は温かく、俺も安心してグッスリ寝てしまった。
翌朝、俺は奴隷狩りの持ってきた馬車に連中を詰めて運ぶ。
つきそいはデミアンとサマラだ。
行先は冒険者ギルドである。
アリスは目を白黒させていた。
「コイツら、強盗なんだ。
俺が捕まえた。
証人はこの二人だ」
「僕は街はずれで薬屋を営んでいる、デミアンと言います。
この人たちが昨夜いきなり襲ってきたんです
ジェイスンさんが助けてくれなかったら、僕と妹は攫われるところでした」
「ウム、ズッと見てたよ。
マチガイ無い」
「……ジェイスンさん……
捕まえたって10人以上いますよ」
「……それにその証人の女性……」
俺は背の低い受付嬢を抱き寄せ、小声で語る。
「アリス、頼むよ。
コイツラ調べれば犯罪歴が絶対出てくる
あと、この馬車も買い取ってくれ。
載ってる武器やらなんかも全部頼む」
「報奨金は手付だけでもいい。
銀髪少年に渡してくれ」
「ジェイスンさん?!
報奨金ってそんなの、すぐには出ませんよ」
「アリス、ほんの一部でいい。
とにかく今すぐ渡してやってくれ」
アリスにもろもろ全部押し付ける。
……キィーッ……
とか奇声を発していたが彼女なら上手くやってくれるだろう。
アリスが銀髪少年に名前と住所を書くように言う場面で俺は緊張したが、少年はサラサラと書いていく。
デタラメを書いてるにしては澱みない。
フーン。
「……ジェイスン!
良かった、いいところに来てくれた!」
「……カニンガム、久しぶりだな」
「お前を探しに行かなきゃならんと思ってた」
カニンガムは慌てて俺をギルドの奥に連れていく。
「待ってください、カニンガム副隊長。
まだ手続きが残ってるんです……」
「アリス!
ギルドの一大事なんだ。
上手くお前が代筆しといてくれ」
上司に言われて目を白黒させるアリス。
悪いね、後は任せた。
「良いか、ジェイスン。
サラ子爵がお前と面会を希望している」
「……誰だって?」
「サラ子爵。
200年以上続く貴族でこの街の評議会の一員。
最大手商会の会長で、娼婦たちの大元締め、兼騎士団の御意見番、兼冒険者ギルドのスポンサーで人事権まで持ってる」
「待ってくれ、覚えきれない」
「他にもいろいろな顔を持ってる。
ついでに…………コナー・ファミリーのボスだ」
「………………
昨夜、お前を招待したそうなんだが、招待した者が失敗したって、
ギルドに連絡が来た。
今日の昼、ギルドに出向くから、その場でお前と面会する
……と仰っている」
「……ははぁ、ゴッドマザーとか言うヤツか。
昨日の今日でせっかちな婆さんだ」
「お前、サラ子爵を怒らせるな。
本当に怒らせるなよ
ギルドの人事権を持ってるって言ったろ。
俺もお前もどうなるか分からんぞ」
今日の昼だって?
もう一時間もないじゃないか。
「お前さんがジェイスンかい。
腕利きの冒険者って聞いてたけど、思ったより迫力が無いねぇ」
サラ子爵は俺の顔をみるなり言った。
年齢は相当いってる老婆だが、背が成人男子なみに高く横幅もデカイ。
身のこなしに年齢相応の弱ったところが無いのだ。
むしろ気力に満ちていて、他人を圧倒する迫力がある。
「いや、人間違いでしょう。
俺はマヌケな冒険者で有名なんです」
「……カニンガム!」
デッカイ老婆がカニンガムを睨め付ける。
カニンガムが顔を横にブルブルと震わせる
「いえ、いえいえ。
彼が間違いなくお探しのジェイスンですとも。
……先日、イナンナ神殿の不祥事を暴いた腕利きです」
カニンガムの奴、サラ子爵の前でやけに小さくなってるじゃないか。
権力に弱い男じゃなかったんだが……彼女の迫力に圧されてるらしい。
「ふん。
ジェイスン、昨夜は使いの者が役に立たなくて失礼したね」
サラは横に昨日のマッチョ男と筋肉女も連れていた。
サラの言葉にマッチョ男のアーニーが頭を下げる。
相当な大男だが、サラといると小さく見える。
計測すればアーニーの方が高いだろうが、印象の強さが違うのだ。
ケイトの方はこっちを見て話しかけてくる。
「アンタ、無事だったんだね」
「ああ、おかげさまでな。
昨夜は子供と一晩遊んでたんだ」
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