新月夜にノスフェラトゥ嗤う

くろねこ教授

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貧民街の魔少年

広場にいる男Ⅲ

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「キャーーッ!!」
「なに? 何なの!」

逃げだすカップルや老人達。
賢明な判断だ。
賢明でない輩どもはヤジ馬になって近づいてくる。
治安が良い分、街の人間にも危機感が足りてない。


アリスは無事だが、パニクっている。

「……なっ、何ですか?!
 何ですか、ジェイスンさん?!
 何したんですか?!」

俺が悪いのかよ!

「ちょ……ちょっと。
 サマラさん、マズイっすよ」
「コイツは殺さずに連れてくんダロ」

チンピラどもが慌てているが、マントの奴は気にも留めていない。

こちらを睨みながら片刃の刀をかまえる。
日本刀? 
片刃だが日本刀にしては刃部分が広く裏が鋸状だ。
山刀とか呼ばれるモノか。
サバイバルナイフのデッカイ奴だ。

マントの奴が集中しているのを感じる。
再度、俺に向かって山刀で切りかかってくる。

速い!

まずコイツの動きが速い。
マントで見えないが鍛えられた身体をしているのに違いない。
そこから迷いの無い刃先が振るわれる。
凶器ごと前方へ突進するのだ。
走る凶器だ。

狂気の凶器!

絶体絶命だってのにアホな事を俺は一瞬考える。

俺は必死で刃先を避け、相手に向かって丸テーブルを蹴り上げる。
クソッ!
コーヒーが台無しだ。
まだ口もつけていなかったてのに。

突進する方向をずらし、丸テーブルをよけるマントの奴。
スピードを殺しきれず、そのまま人ごみに突っ込む。
凶器はかざしたままだ。
たちまち辺りは血にまみれた。


「ギャーッ!」
「切られた!
 おれっ、俺の腕!」

アホなヤジ馬どもが蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
中には血を流してうずくまってる輩もいる。

「切りました!
 あの人本当に切りました!」
「落ち着け、アリス!」


騒ぎを聞きつけた警備隊が駆けつけて来るのが見えた。
緑色の服を着た連中だ。

「そこで何をしている!」

鎧を着た男が大声で呼びかける。

「チッ、警備隊だ」
「逃げるダロ」

「………………」

マントの奴は無言で反応が無い。


「そこのキサマ!
 街中は抜刀禁止だぞ。
 この街じゃ子供だって知ってる事だ!」
「詰め所に来てもらうからな」

その隙に俺はアリスの手を掴んで逃げ出す。

残されたマントの奴に手を伸ばす警備隊。
マントの中から刃が放たれたのを俺は見ていた。

緑色の服を着た男。
その手首から先が下に落ちる。

「ぺぺぺ……ぺ……ぺぺ」

男は自分の腕から先を見ている。
何が起きたか理解出来ていない。
もしくは理解したく無いのだ。

「ぺくび……俺のぺくびがーっ!」

手を抑えてうずくまる。
ようやっと自分の手を斬られた痛みに気付いたようだった。


「……サマラさん!
 逃げるっすよ」
「早く行くダロ!」

チンピラの言う事を聞いているのか、いないのか。
マントは辺りを見回している。
勿論、俺を探しているのだ。

俺はと言うと、屋台の影に隠れていた。
腸詰をパンに挟んで売ってる、ホットドッグだね。

「ジェイスンさん!
 警備隊の人が……」
「シーッ!
 ……アリス、今は静かに……」

仲間をやられた警備隊の連中がマントを囲もうとしていた。

すでに剣を抜いている警備の男達。
さらに遠くから緑色の連中が集合して来るのが見える。
よし。
あれだけ人数が居れば何とかなるだろう。
ここはさっさと逃げるとしよう。


「アリス、逃げるぞ」

「ええっ?!
 ジェイスンさん、ここは警備の人に協力する場面じゃ」
「あのな、俺は休暇中。
 前回の傷だって癒えてないの。
 俺が大ケガしてたの、見ただろう」

アリスは俺の身体を疑わし気にジロジロと見る。

「ジェイスンさん、元気そうですよ。
 こないだは全部返り血だった、って言ってたじゃないですか……」

「大人しくしろ」
「剣を捨てなさい!」

マントは警備隊を見ていない?
いまだに周囲をキョロキョロしてる。

マズイ!
一瞬こちらと目が合った!

一直線にこちらに向かってくるマント。
マントの進行方向にいた警備隊の中年男がマントを遮る。

「キサマ、逆らう気か!」

マントは不運な中年を見もせずに山刀を振るう。

あちゃー。
中年男の頭半分が無くなるのが見えた。


「逃げますよ!
 なにグズグズしてるんですか!」

あれっ?
アリス、さっきと言ってることが違うよ。

アリスは俺の手を引っ張って走り出す。
俺はどさくさに紛れて屋台からビンを貰って、手持ちの小銭を屋台に投げつける。

屋台のオヤジは逃げたのだろう。
すでに人はいない。

「貰うよ」
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