上 下
12 / 33
イナンナの暗黒神殿

復讐する男Ⅲ

しおりを挟む
いったい何人と戦い、何人を切り伏せたのか。
数えられる人数では無かった。
神殿は血と死体、切り落とされた肉片で溢れかえっていた。

俺は出口付近でクレイブンとダデルソンを見つける。

「ダデルソン!
 キサマ、わしの護衛だろう!
 職務をまっとうしろ」
「ふざけるな!
 あのバケモノを呼び出したのはあんただろう。
 これ以上付き合っていられるか」

太った侯爵を引きずり倒して逃げようとしているダデルソン。

俺は力の限り斧を投げた。
侯爵はダデルソンの胸元がハジけ斧が突き出るのを間近で見たはずだ。

腰を抜かしたクレイブン侯爵に俺は近づいていく。

「ああ……暗黒神様の使いでしょう……
 ワシが生贄を捧げてきたのです。
 あなた様の敬虔な信者です……暗黒神様」

ガクガクと振るえるクレイブンは続ける。

すでに金ピカの仮面は外れ、老人の顔があらわになっている。

「ワシが、ワタシがあなたを呼び出したのです。
 どうかどうか私の願いを……」

俺は身体中血まみれ、身体に剣がまだ刺さっている姿だ。
鉄面をつけた俺が誰だか、クレイブンはまだ気づいていない。

そのままクレイブンに歩み寄る。

「いいだろう、クレイブン。
 お前を暗黒神の元へ連れて行こう」
「……私の願い……永遠の若さを……」

クレイブンに全てを言わさず、大剣をヤツの体に斬り下ろす。

「地獄へだ!」

クレイブンは左右に両断された。
頭から脳があふれ、身体中から内臓がこぼれ、その場に崩れた。

見回すとすでに地下神殿に生きている存在はいなかった。
俺は誓った復讐をやり遂げたのである。


言っておくが俺はもちろん暗黒神の遣いじゃない。
……じゃないと思う。

エレシュキガルの神殿に何も感じられはしなかった。
俺が死から帰ってくるのはこの世界の神とは関係ない、そう感じるのだ。

俺のはアレだ。
アクションゲームをした事が有るだろう。
主役が死んだハズなのになんの説明もなく生き返って戦い始めるアレだ。
そういう類のモノなのだ。
だから画面の向こう側にいる誰かさんがコンティニューを選ばなかった時、それが俺が本当に死ぬ時なのだ。


その後、俺は自力で地上へと脱出した。
その足でギルドへ向かう。

受付のアリスちゃんは血まみれの俺の姿を見て気絶した。

剣が一本背中に刺さっているのに気が付かなかった俺が悪かった。
俺だって動転していたのだ。
呼び出されたカニンガムが慌てて神殿地下へと向かった。
後はカニンガムがなんとか始末をつけるだろう。





数日後、俺はまたカニンガムのおごりでメシを食べていた。

アリスちゃんも誘ったが、彼女はまだ俺の顔を見ると怯える。

「とにかく神殿はひどい有様だったぞ。
 血の匂いがしばらく身体から取れなかった」
「おいおい、メシ時の話題じゃないぜ」

クレイブンが裏で何をしていたか、すべて判明していた。

地下神殿にイナンナ街の評議会、騎士団、冒険者ギルドが合同で大規模調査を行ったのだ。
捕らえたクレイブンの手下や神殿関係者から丁重に聴きだしたらしい。

あの晩儀式に参加していた貴族のなかには冒険者ギルドに駆け込んで、全て話すから助けてくれと泣きついた者もいたそうだ。
カニンガムはそんな泣きついた貴族の相手をしている最中に呼び出されたワケだ。


「だが……
 あそこで大量殺人を犯した犯人は捕まっていない」
「うん?
 クレイブンが間違えて呼び出した暗黒神の遣いが暴れたんだろう。
 そうウワサで聞いてるぜ」

「あんたがエレシュキガル神を信じてるとは思えないな」
「俺は意外と信心深いんだ。
 この前もイナンナ神に寄付したばかりだ」

「死んだ人間は刀や斧でやられてる。
 神様の遣いがそんな凶器を使うか?」
「……とすると仲間割れかな。
 しょせん盗賊だろう」

「考えにくいが……
 そうとしか説明がつかないな」

ため息をつくカニンガム。
俺は気にせず葡萄酒を自分のグラスに注ぎこむ。


「……問題はまだあってな。
 あれからイナンナ神殿の聖女が行方不明だ」

「何だって?
 巻き込まれて亡くなったのか?!」

……フレデリカ……
あの時俺は良く相手も見ずに殺しまくった。
まさか俺が殺したとは思いたくないが……

「イヤ、死体はキチンと調べた。
 聖女と疑わしい死体はないね。
 まだ残党がいて連れ去ったのかもしれない」

俺は少し安心して果実酒を飲み始めた。


「どうにもうさんくさい話も有る」

カニンガムが俺の方を見る。
疑いの表情だ。

「クレイブンの財産が少なすぎる。
 ヤツは神殿に金目の物を隠してた」

「……山賊まがいの事をして手に入れたお宝。
 儀式に参加した貴族どもから巻き上げた金貨。
 半端な額じゃないんだ」

「神殿から見つかった金と明らかに計算が合わない。
 金貨や宝石はほとんど無かったんだ」

「使っちまったんじゃないのか。
 護衛や手下を大勢雇っていたんだろう。
 雇い賃だって安くはないさ」

俺はとぼける。

神殿をうろつきまわった時、少しばかりの金貨を拝借したのだ。
寝るだけで丸一日費やすほど俺もマヌケじゃない。

俺は拷問された挙句全身穴だらけにされて殺されたのだ。
その慰謝料と考えれば当然のことだ。

しかし今カニンガムは何と言った?

『金貨や宝石はほとんど無かった』

……宝石だって?……

俺がうろついた時には、宝石は確かに有った。
しかし手は付けなかった。
価値の高い宝石を俺みたいな冒険者が換金するのは目立つ行為だ。

俺が頂戴したのは現金だけである。
誰かが事件の後、カニンガムが調べるまでの間に神殿から持ち去ったのだ。

俺の頭に電撃のように閃きが訪れる。

フレデリカ!

『黒衣の医者』を連れてきて顔をもとに戻すためのお金が必要なの。

そう言っていた彼女。
地下神殿の構造にも詳しい。

次に会う時は俺の知らない顔の彼女かもしれないな。

カニンガムはまだ怪しむ視線で見ていたが、俺は大声で笑いながら葡萄酒を飲み干した。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

💚催眠ハーレムとの日常 - マインドコントロールされた女性たちとの日常生活

XD
恋愛
誰からも拒絶される内気で不細工な少年エドクは、人の心を操り、催眠術と精神支配下に置く不思議な能力を手に入れる。彼はこの力を使って、夢の中でずっと欲しかったもの、彼がずっと愛してきた美しい女性たちのHAREMを作り上げる。

性転のへきれき

廣瀬純一
ファンタジー
高校生の男女の入れ替わり

練習船で異世界に来ちゃったんだが?! ~異世界海洋探訪記~

さみぃぐらぁど
ファンタジー
航海訓練所の練習船「海鵜丸」はハワイへ向けた長期練習航海中、突然嵐に巻き込まれ、落雷を受ける。 衝撃に気を失った主人公たち当直実習生。彼らが目を覚まして目撃したものは、自分たち以外教官も実習生も居ない船、無線も電子海図も繋がらない海、そして大洋を往く見たこともない戦列艦の艦隊だった。 そして実習生たちは、自分たちがどこか地球とは違う星_異世界とでも呼ぶべき空間にやって来たことを悟る。 燃料も食料も補給の目途が立たない異世界。 果たして彼らは、自分たちの力で、船とともに現代日本の海へ帰れるのか⁈ ※この作品は「カクヨム」においても投稿しています。https://kakuyomu.jp/works/16818023213965695770

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

処理中です...