1 / 33
イナンナの暗黒神殿
馬車にいた男Ⅰ
しおりを挟む
突然の出来事だった。
俺の隣に居た男が横に倒れた。
同業者だった。
商隊の護衛に雇われたのである。
倒れた原因はすぐに判った。
後頭部から鉄で出来た矢が突き出ているのが見えた。
戦場では兜をかぶらないとイケナイ。
乱戦場で飛んでくる矢を察知して避けるのは不可能だ。
そんなトーゼンの事実を改めて学んだ俺だが、教訓を活かすことは出来なかった。
兜を持っていないからだ。
仕方ないので弓矢の飛んでくる場所から馬車の内部へと潜り込む。
馬車に入ってきた俺を娘の視線が出迎える。
「状況はマズイな。
計画的な襲撃だ、隠れてろよ」
若い娘の瞳が潤む。
今にも泣き出しそうだ。
笑顔のカワイイ娘だったんだが。
それにしても鮮やかな襲撃だった。
山道を進む商隊の馬車の中で、俺は商人の娘と世間話をしていた。
娘はイナンナの街で働く事になっていると言う。
「女性客が予想より多いんだって」
「店を広げて店員も増やすの」
「うまくすれば売り場の一角を任せて貰えるかも」
娘は商売精神が旺盛だった。
特別整った容姿ではないが、良く笑う若い娘。
明るい笑顔はなかなか魅力的だった。
「今度は男性客が増えると思うぜ」
「あら どうして?」
「キミの笑顔目当てに男が集まってくるからな」
俺は適当におべんちゃらを使った。
別に下心が有る訳じゃ無い。
馬車旅の退屈な時間を紛らせてくれるのだ。
その位サービスしたって良いだろう。
楽しい時間には必ず邪魔が入る様になっている。
前方から大声が聞こえて来た。
「落石だ!」
「馬を止めろ!」
山の中を数台の馬車が進んでいるのだ。
石を迂回して通れるような道じゃない。
こいつは全員で石をどける作業になるか。
ドデカイ石を力ずくでどかす。
その想像だけで俺はゲッソリしたが、結局のところ力仕事はせずに済んだ。
横合いの山の上から弓矢の雨が降って来たからだ。
続けて商隊の後方から武装した一団が攻め込んで来る。
俺のようなマヌケは混乱していたし、商人連中はパニックを起こしていた。
そして俺の隣にいた護衛は射殺された。
見事なものだ。
マニュアル本でも書いて売ればいい。
「完全・山賊マニュアル」
「今日からアナタも出来る荷馬車襲撃」
どうやら矢の雨は止んだらしい。
後方から襲撃をかける山賊が商隊の中心まで辿り着いている。
これ以上は矢が賊にまで被害を与える。
同士討ちを避けたのだろう。
俺は鉄の剣を握り直し、馬車の外を覗う。
こう見えてもプロの冒険者なのである。
アチコチを旅する商隊の護衛仕事は飯の種。
襲撃された事だって初めてでは無い。
恫喝の雄叫びと戦いの音が俺の馬車にも近付いてくる。
商人達の物であろう悲鳴も聞こえる。
馬車の中に隠れた娘が俺を見つめる。
アナタ護衛なんでしょ、戦わないの?
そんな台詞を言われてはいないが、視線はそう告げている。
俺は木で出来た馬車の荷台から外へと飛び降りた。
別に娘の視線に屈した訳じゃない。
すぐ近くで剣戟の音が聞こえているのだ。
少し進んだだけで視界に入った。
後ろの馬車に乗っていたはずの護衛が戦っていた。
2対1の戦である。
残念ながら山賊が2で護衛が1だった。
廻れ右しちまいたい想いをなんとか振り捨てる。
護衛が2で賊が1だったら何の躊躇いもなく参加するんだが。
「加勢する」
「っ頼む!」
ここで逃げたところで状況が良くなるもんでは無い。
俺は同業者の男に声をかけて参戦した。
山賊は鉄面を付けた男と髪の毛を奇麗に剃り上げた大男。
護衛側は俺と似たような革鎧と鉄の剣を持った男。
しかし俺よりは賢い護衛らしかった。
何故ならそいつは兜をかぶっていた。
俺の隣に居た男が横に倒れた。
同業者だった。
商隊の護衛に雇われたのである。
倒れた原因はすぐに判った。
後頭部から鉄で出来た矢が突き出ているのが見えた。
戦場では兜をかぶらないとイケナイ。
乱戦場で飛んでくる矢を察知して避けるのは不可能だ。
そんなトーゼンの事実を改めて学んだ俺だが、教訓を活かすことは出来なかった。
兜を持っていないからだ。
仕方ないので弓矢の飛んでくる場所から馬車の内部へと潜り込む。
馬車に入ってきた俺を娘の視線が出迎える。
「状況はマズイな。
計画的な襲撃だ、隠れてろよ」
若い娘の瞳が潤む。
今にも泣き出しそうだ。
笑顔のカワイイ娘だったんだが。
それにしても鮮やかな襲撃だった。
山道を進む商隊の馬車の中で、俺は商人の娘と世間話をしていた。
娘はイナンナの街で働く事になっていると言う。
「女性客が予想より多いんだって」
「店を広げて店員も増やすの」
「うまくすれば売り場の一角を任せて貰えるかも」
娘は商売精神が旺盛だった。
特別整った容姿ではないが、良く笑う若い娘。
明るい笑顔はなかなか魅力的だった。
「今度は男性客が増えると思うぜ」
「あら どうして?」
「キミの笑顔目当てに男が集まってくるからな」
俺は適当におべんちゃらを使った。
別に下心が有る訳じゃ無い。
馬車旅の退屈な時間を紛らせてくれるのだ。
その位サービスしたって良いだろう。
楽しい時間には必ず邪魔が入る様になっている。
前方から大声が聞こえて来た。
「落石だ!」
「馬を止めろ!」
山の中を数台の馬車が進んでいるのだ。
石を迂回して通れるような道じゃない。
こいつは全員で石をどける作業になるか。
ドデカイ石を力ずくでどかす。
その想像だけで俺はゲッソリしたが、結局のところ力仕事はせずに済んだ。
横合いの山の上から弓矢の雨が降って来たからだ。
続けて商隊の後方から武装した一団が攻め込んで来る。
俺のようなマヌケは混乱していたし、商人連中はパニックを起こしていた。
そして俺の隣にいた護衛は射殺された。
見事なものだ。
マニュアル本でも書いて売ればいい。
「完全・山賊マニュアル」
「今日からアナタも出来る荷馬車襲撃」
どうやら矢の雨は止んだらしい。
後方から襲撃をかける山賊が商隊の中心まで辿り着いている。
これ以上は矢が賊にまで被害を与える。
同士討ちを避けたのだろう。
俺は鉄の剣を握り直し、馬車の外を覗う。
こう見えてもプロの冒険者なのである。
アチコチを旅する商隊の護衛仕事は飯の種。
襲撃された事だって初めてでは無い。
恫喝の雄叫びと戦いの音が俺の馬車にも近付いてくる。
商人達の物であろう悲鳴も聞こえる。
馬車の中に隠れた娘が俺を見つめる。
アナタ護衛なんでしょ、戦わないの?
そんな台詞を言われてはいないが、視線はそう告げている。
俺は木で出来た馬車の荷台から外へと飛び降りた。
別に娘の視線に屈した訳じゃない。
すぐ近くで剣戟の音が聞こえているのだ。
少し進んだだけで視界に入った。
後ろの馬車に乗っていたはずの護衛が戦っていた。
2対1の戦である。
残念ながら山賊が2で護衛が1だった。
廻れ右しちまいたい想いをなんとか振り捨てる。
護衛が2で賊が1だったら何の躊躇いもなく参加するんだが。
「加勢する」
「っ頼む!」
ここで逃げたところで状況が良くなるもんでは無い。
俺は同業者の男に声をかけて参戦した。
山賊は鉄面を付けた男と髪の毛を奇麗に剃り上げた大男。
護衛側は俺と似たような革鎧と鉄の剣を持った男。
しかし俺よりは賢い護衛らしかった。
何故ならそいつは兜をかぶっていた。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ゾンビと魔法少女と外宇宙邪神と変身ヒーローと弩級ハッカー、あと俺。
くろねこ教授
ファンタジー
放課後の校舎、俺は少女に出会う。
彼女の名は七鮎川円花。
魔王の復活を目論むマモノと戦う魔法少女。
そして街には動く死体が溢れかえる。
これは魔王と何か関係が有るのか?
イラストはアプリ『ピツメーカー』により作成しました。
もしも俺の私の造ったイラストの方が似合ってるぜとゆー方いらっしゃったら教えてください。載せますっ。
この作品はフィクションです。実在の地名、作品名、実在の建物を思わせる描写が出てきますが、実際の物とは一切関係ありません。
又、作者には実在の土地、作品を誹謗する意図は一切ありません。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
錆びた剣(鈴木さん)と少年
へたまろ
ファンタジー
鈴木は気が付いたら剣だった。
誰にも気づかれず何十年……いや、何百年土の中に。
そこに、偶然通りかかった不運な少年ニコに拾われて、異世界で諸国漫遊の旅に。
剣になった鈴木が、気弱なニコに憑依してあれこれする話です。
そして、鈴木はなんと! 斬った相手の血からスキルを習得する魔剣だった。
チートキタコレ!
いや、錆びた鉄のような剣ですが
ちょっとアレな性格で、愉快な鈴木。
不幸な生い立ちで、対人恐怖症発症中のニコ。
凸凹コンビの珍道中。
お楽しみください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる