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第五章 アルク野獣の森

第277話 歩く『野獣の森』その4

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「女神様」
「女神様だ」

タケゾウには良く分からないが。
亜人の戦士達には本気であのナニカが女神に映るらしい。

まあ確かに。
女神じゃなくて何なんだ?
そう言われればタケゾウだって答えられない。


別の答えを出せる人物がいるとしたらただ一人。
異世界から転生して来た少年。
彼ならこう答えるだろう。

「美少女だよ、美少女。
 だって僕のスキルだもの。
 美少女になるに決まってるんだよ」



さてその少年は。
何となく夢心地。

心地よい振動で揺さぶられてるのだ。
子供の頃、本当に小さい頃を思い出す。
母の胸に抱かれて移動した。
安心しきって身を委ねる。
柔らかいモノに包まれているのだ。
そんな気分。



その少し前に時を戻そう。

「従魔にするって言っても。
 どうしたらいいの」

“森の精霊”フワワさんがショウマに迫ってくる。

確かにフワワさんは弱った様子。
ショウマは瀕死の魔獣を従魔にする事が出来る従魔師。

だけどフワワさん、魔獣なの?
ああっそうだ。
思い出してしまった。

ショウマのステータス。
組合で確認した時、もう疲れててあまり気にしてられなかった。
でも従魔術のスキルに増えていたのだ。

神霊従術 ランク1 。

うわー。
ホントウにフワワさんを従魔に出来ちゃうのかも。


でもショウマは何となく言葉が出ない。
今までみんなを従魔にする時。
心に言葉が浮かんだ。

タマモなら『我に従え 獣よ』。
ハチ子ハチ美なら『我に従え 虫よ』。

そんな言葉が浮かばない。


フワワさんが耳元に囁く。

「私の言った通りに言って。
 お願いよ、私のご主人様」

いやまだ、ご主人様じゃないよ。

そう思うけど。
まあいいや。
言う通りにしよう。
女性の言う事には素直なショウマだ。


気を落ち着ける。
さあ本当に出来るの。
目の前の女性は人間。
ホントウに人間なのか良く分からないけど人間風。
それを従魔にする?

まあいいか。
今までも弱った魔獣を従魔にして人間型にしてきた。
従魔を美少女にしてきたのだ。

フワワさんなら美少女にする手間が省ける。

おっけーじゃん。

その位に思ってみよう。
フワワさんに教えられた言葉。
ホントウにそれでいいの?

まあいい。
言われた通り。


ショウマは唱える。
その言葉は。

『我に従え 森よ』

その直後。
ショウマが居た空間。
見ている風景が高くなっていく。
ショウマの周りにナニカ集まって来る。
広がって存在していたモノが一つに集まって来る。


「……すごい!
 スゴイスゴイ!
 本当に森がまた復活した。
 わたしの管理下に有る。
 わたしの自由に動く。
 これなら……」

「ありがとう。
 ありがとう、ご主人様」

“森の精霊”フワワさんがショウマに抱き着いてくる。
咳込んで弱っていた女性。
健康になったみたい?。


「よーし。
 このまま移動するわ」

移動?

「ええ、もう『鋼鉄の魔窟』近くはうんざり。
 離れるわ」

揺れる。
ショウマのいた空間が揺れる。
視界も揺れる。
見下ろせば世界は低い位置。
ショウマは今上の方から世界を見下ろしているのだ。


これはアレだな。
「はーっはっはっは。
 見ろ。
 人がゴミのようだ」
とセリフを言わなきゃイケナイ場面じゃないの。
そんなコト考えてるショウマ。
まーそれはそれとして。

 
下には帝国兵らしき黒い服装の人達。
コイツラなら踏んづけてもいーや。
もっと亜人の村寄りにはタケゾウやムゲンもいるのかも。
さっき映像でそんなシーンを見た。
そっちは本当に踏んじゃダメだよ。

ショウマは口に出してないけど。
フワワさんにはストレートに伝わってる。

「大丈夫よ、安心して。
 向かってるのは逆の方。
 湖と街道を越えるわ」

そう言えば、ショウマは馬車でここまで来た。
街道を通って、湖沿いの道。
その逆側は荒野が広がっていたと思う。

「そうね。
 湖を越えて何も無い辺り。
 その辺にしましょう。
 もう少し離れたい気もするけど。
 でもご主人様の魔力が保たないわ」

魔力?
ショウマの魔力。
今、魔力が使われてるの?
確かに少しづつ何か抜け出していくような。
少しづつ疲れて来るような。
そんなカンジがする。
ちょっとずつ頭がボーっとしてくる。


「フフフ。
 ご主人様の魔力が膨大だからよ。
 普通なら一瞬で魔力切れだと思うわ」

フワワさんはショウマに抱き着いたまま。
その胸がショウマに当たる。
揺れる空間と、温かい女性の胸。

なんか安心する。
ショウマは頭がボーッとするのを感じる。
なんかもう寝ちゃいそう。


「駄目、もう少し堪えて。
 ご主人様。
 恩返しもしたいのよ。
 出来るのは今だけ」


ショウマの腕にフワワさんは更に胸を押し当てて来る。

これは。

胸が当たってますけど。

あててんのよ。

みたいな。
そんなカンジ。

今だけって?

「そうよ。
 淋しいけどいくらご主人様でも。
 ずうっと私達を従えて置く事は不可能よ。
 一瞬でも従魔に出来た。
 それだけでもスゴイ事。
 有り得ないような想定外」

フワワさんはショウマの従魔になった。
自分のLV以上の魔獣は従魔に出来ないんだっけ。
多分、ホントウは出来ない事。
フワワさんが自分の意思で無理やり従魔になったからだろうか。
自分のランク以上の従魔を従えてしまうとそれだけで魔力を消費する。
今はそういう状態?
じゃあフワワさんとはもうお別れ?

フワワさんの顔が近付いてくる。
獅子の仮面。
その下には唇が見えてる。
蠱惑的な赤い唇。
フワワさんとショウマの唇が触れる。
温かい何かがショウマの口に入り込んでくる。
ディープキス。

「そう、一緒に居られるのは今だけかもしれない。
 わたしにご主人様を感じさせて」

うん。
フワワさん。
ショウマも腕に力を込めてフワワさんを抱く。

フワワさんの体は柔らかく温か。
何か草花に包まれているみたい。
安心する。
日の当たる草原。
柔らかい植物に寝転がる。
そんなイメージ。
ショウマはフワワと一つに溶けていく。
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